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    minato18_

    一時的な格納庫

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    甲洋と一騎/びよ
    偽りの島を破壊する――その少し前の、甲洋と一騎のお話

    仮想パラディース3rd当日に置いていた無配でした。

    ##一騎と甲洋

    近くて遠い「俺が迎えに行く」
     それが、三年間探し続けた愛し子をようやく見つけた一騎の第一声だった。
     想定通りの反応だ。むしろ、一騎がこうして話し合いの場に居ることが不思議なくらいだ。本当は今すぐにでも飛び出して行きたいだろうに。
    「僕たちはいつでも行けるよ」
     軽やかなステップでボレアリオスの甲板を踏み鳴らした来主が、華奢な指で闇の向こうを差す。いつの日かアーカイブで見た演奏会の指揮者のような所作にエウロス型が応じる気配がして、さすがに少し慌てた。
    「だめだ。島のボートが来るまでは待機だって言われただろ」
    「ちぇー、つまんない」
    「来主」
     嗜めるように名前を呼べば、来主は大人しく口を閉じた。彼の言動が一騎を気遣って
    のものだということは百も承知している。それでも、今はそっとしておいてやって欲しかった。
     この三年間、一騎がどんな想いで過ごしてきたか。その心中を察することが出来る者などこの世界に居ないだろう。読心能力を有する俺や、恐らく来主ですら、きっと正確に把握することは出来ない。
     こいつが自分の抱える激情に身と心を焼き尽くされないよう傍にいる。俺に出来るのは、精々それくらいだ。
    「到着予定は」
    「明日の夜」
    「わかった」
     必要最低限の、短い言葉の応酬。驚く程熱を感じない声に背筋が震える。一騎は元々多弁じゃなかったけど、あの頃は発する言葉にいつだって温度があった。
     総士を奪還出来たら、こいつの熱も戻ってくるのだろうか。

     * * * 

     島との会議を終え、器へと向かう一騎を足早に追いかける。このまま作戦を開始するわけにはいかなかった。けれど、何度も呼び止めてるにも関わらず一騎は歩みを止めない。昨日は冷静に見えたけど、その実冷静さの欠片も残っていないようだ。
    「一騎!」
     思わず声を荒げてしまった。先を歩いていた一騎が驚いた様子で振り返る。本当に聞こえてなかったのかよ、お前。
    「なんだ、甲洋」
    「なんで言わなかったんだ」
     総士が囚われている島。そこが俺たちの故郷を模しているなんて聞いてなかった。その上、島にいるフェストゥムたちは人間の姿で総士と共に暮らしているだって?
     それが何を意味するのか、いくら一騎でも分からないはずはないのに。
    「言っただろ、さっき」
    「そうじゃなくて……」
     作戦は大まかに分けると三段階。総士をあの島から連れ出すこと、島を破壊すること、海神島に帰投することだ。手筈に問題はない。問題なのは、その役割だ。
     島を破壊する、これは来主以外に適任者はいない。けど、総士を連れ出すのは一騎じゃなくたっていい。
     平和な島から連れ出し、厳しい現実を突きつける。しかも場合によっては総士の目の前で彼と交流があった相手を消さなければならない。そうなれば、総士の恨みを買うのは必至だ。
     そんな役目を、ただでさえ心的負担が大きい一騎に担わせたくない。
    「島へは俺が行くよ。一騎は器で待機して……」
    「甲洋」
     静かに俺の名前を呼んだ一騎は、それ以上言葉を続けなかった。代わりに、確固たる意思を宿した琥珀の瞳で真っ直ぐに見つめてくる。この役目だけは譲れないと、痛い程の決意が伝わってきた。
     食い下がりたい。一騎が傷付く可能性を少しでも排除してやりたい。けど、それはこいつにとって余計なことなのかもしれない。俺の助けなんて、一騎は必要としてないかもしれない。そう思ったら何も言えなくなった。
    「………無茶はするなよ、一騎」
     辛うじて絞り出せたのはなんて事のない見送りの言葉で、戦場に向かう親友にこんな言葉しか掛けられないのがつらかった。
     頷いた一騎が踵を返す。けれど足を進めることはせず、首を巡らせて俺を見ると穏やかな笑みを浮かべた。
    「ありがとな、甲洋。心配してくれて」
    「……っ」
     当たり前のことで礼なんか言うな。そう言ってやりたかったのに、喉の奥で絡まって音にならなかった。
     穏やかに笑う琥珀の奥に何かを堪える色が垣間見える。一騎はとっくに、総士を傷付ける覚悟を決めているのだ。その危ういまでの強さを、こいつが捨てられる日が早く来て欲しい。
     優しい声で「お前も無茶するなよ」と言った一騎が、今度こそ器に向かって歩いて行く。その背中を見送りながら、爪が掌に食い込む程固く拳を握り締めた。
     そんな顔で笑うお前なんか、見たくなかったんだ。
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