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    minato18_

    一時的な格納庫

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    一総/EXO前
    おそろいの秘密を抱えていた話

    一総利き小説企画参加作品です。素敵な企画をありがとうございました!
    お題「秘密」「おそろい」

    #一総
    all(membersOf)AGroup

    光芒 最初に『それ』を自覚したとき、心に決めた。
     このひみつだけは、誰にも知られないようにしよう、と。


       ***


    「はい、あがり~」
     ランチタイムの波を乗り越え、穏やかな空気が流れていた喫茶〈楽園〉の店内に楽し気な声が響く。思わず端末から顔を上げた総士は、状況を把握するべくボックス席の方を振り返った。
    「えぇ!? また遠見先輩が一番ですかぁ!?」
    「うう、む……今度こそは勝てると思ったのだが」
    「里奈ちゃんもカノンもまだまだだねぇ」
     テーブルを囲んでいるのは、休憩中の真矢と生徒会の会議まで暇をつぶしている里奈とカノンだ。それぞれ手にトランプを持っているのを見るに、ババ抜きでもしていたのだろう。三人でやるには面白みに欠ける気がするが、悔しそうな顔をしている二人を見ると存外白熱しているらしい。
    「というか、人数少ないですって! 総士先輩と一騎先輩もやりましょうよ~!」
     ……どうやら思い違いだったようだ。唐突に飛んできた指名をどうしたものかと、同じく指名された一騎を見る。キッチンで調味料の補充をしていた一騎は困ったように眉を下げていた。
    「いいけど、俺弱いぞ?」
    「弱くていいんです! 一回くらい勝ちたいですもん!」
    「わかった」
     安心したように笑ってエプロンを脱ぎはじめたので総士も端末の電源を落とす。現状出来る作業は終わらせてしまっているし、こうして息抜きをするのもたまにはいいだろう。
     カウンターから出て来た一騎と揃ってボックス席へ行き、それぞれ両端に座る。トランプを混ぜているカノンが手を止めずにこちらを向いた。
    「総士は、こういった心理戦を用いる遊びは得意なのか?」
    「……初めてやるから断言はできない。だが、どのような遊戯にも攻略法はあるはずだ。最善策を見つけ出し、勝利して見せよう」
    「これ、ただのトランプですからね~?」
     苦笑する里奈の隣では一騎が配られた手札をまじまじと眺めている。今のところ目立った表情の変化はない。ジョーカーは引いていないようだ。
    「そうだ! ただやるんじゃつまらないし、ルールを追加しませんか?」
     自分も確認しようとカードを持ち上げたところでこれまた里奈から唐突な提案がされる。この後輩の発想力とそれを即座に口にする度胸は見習いたいものだ。
    「いいねぇ、なににしよっか?」
    「んーと、最後まで残った人は一番最初にあがった人のお願いをひとつ聞く、とかどうです?」
    「面白い。次こそ負けないからな」
    「一騎くんたちもそれでいい?」
     了承の意を首で伝え、一騎を見る。この中で最後に残る可能性が最も高いと思われる男は、何故か嬉しそうに「構わないぞ」と笑った。その笑みに妙な胸騒ぎがしたが、それだけの理由で今更断るのも悪いと思ったので黙っておく。
    「まずは順番決めましょう! 最初はグー、じゃんけん———」



    「総士、そっちのテーブル拭き終わったか?」
    「ああ。カウンター席を拭けば客席の清掃は完了だ」
    「ありがとう。そっちは俺がやるから、少し休んでてくれ」
     カウンター席にカップを置きながら言われては頷くより他ない。大人しく定位置に座り、最後の閉店作業をする一騎を見守る。後ろでひとつに縛った髪が絶妙に跳ねるのが少し面白くて思わずじっと見つめていたら不思議そうに首を傾げられた。どうしたのかと目で問えば、作業を続けたまま一騎が口を開く。
    「……意外だったな、総士がババ抜き弱いの」
    「お前こそ、一番に上がるなんて思わなかったぞ」
     弱いとは一体なんだったのか。それまで連勝していたという真矢と互角に渡り合った上、最終的には勝つなんて。もしかしたら真矢が手加減したのかもしれないが、そうだとしても驚異的な強さだ。
     終始微笑みを絶やさず、カードを引くときも引かせるときも表情を変えない。順番的に総士は一騎の手札から引く番だったのだが、ジョーカーを引かされたときは思わず声をあげてしまった。……そういえば、あの瞬間だけは微笑みが崩れ、とても嬉しそうに笑っていた気がする。
    「総士だったからだ」
    「……? 何がだ」
    「順番。俺の次が総士だっただろ? だから、勝てたんだと思う」
    「……僕が弱いと言いたいのか」
     言うもなにも紛れもない事実なので反論はできないが、面白くはない。自然と眉間に刻まれた皺が伸びてきた指に伸ばされる。ぐい、ぐい、と力を込めながら、一騎は「そうじゃなくて」と言葉を継ぐ。
    「俺、ずっとお前に秘密にしてたことがあったからさ。ババが来たときも『これは総士にバレたらだめだな』って思ったら、うまくいった」
     ふにゃっとした笑みと共に紡がれた説明になるほど、と思うよりも先に『秘密』という単語が思考を止めた。
     秘密にしていたこととは一体なんだ。過去形と言うことは今はもう総士も知っている事柄だと思うが、並列思考を駆使してもそれらしきものに心当たりはない。今現在問題がないのなら深く考える必要はないが、なんとなく、気になる。
     クロッシングで思考や感情を共有できるとはいえ、対話をしなければ相手のことを本当の意味で理解できない。それを嫌と言うほど思い知っているからこそ、些細なものとはいえ芽生えた疑問を軽視するのは良くないという結論に至った。
    「一騎」
    「ん?」
     未だ指先で眉間を撫でながら小首を傾げる一騎の目を真っ直ぐに見つめる。きらめく琥珀の中に自分の姿が映っていることに、ひどく安心した。
    「支障がなければ、お前の秘密とやらがなんだったのか教えてくれないか」
     ぱちぱちと数回瞬きをした一騎が、ふはっと吹き出す。今度は総士が小首を傾げる番だった。何かおかしなことを言っただろうか。不思議に思っているとようやく笑いをおさめた一騎が両腕を伸ばしてきて、すっぽりと抱きすくめられた。あたたかい。いや、あたたかいではなくて。
    「かず———」
    「総士が、好きだってこと」
     耳元で、常より低く落ち着いた声が囁いた。
    「友達とかじゃなくて、もっと特別な……俺の好きはそういう『好き』なんだって、総士に知られたら……これまでみたいに一緒にいられなくなる気がしてたから」
    「———……」
     驚いてされるがままになっていた腕を一騎の背中に回す。何とはなしにそのままとん、とん、と優しく叩くと、肩口に額を預けてきた。クロッシングしているわけでもないのに、触れたところから一騎の不安と恐怖が流れ込んでくる気がした。
    『好き、だ……総士……俺、おまえのこと……っ』
     初めて一騎の口から想いを伝えられた日のことが脳裏を過ぎる。だからあんなにも泣きそうな顔をしていたのかと、数ヶ月越しに納得した。
     馬鹿なことを考えるものだ。そんなことあるわけがない。お前無しで一体どうやって生きていけというのだ。再び身体を得るための指標さえ、一騎に頼っていたのに。
     ———溢れてきた思考は、しかしどれも言葉には出来なかった。だって、同じ感情を総士も抱えていた。きっと、一騎が想ってくれるよりもずっと前から。
    「……変化するというのは、怖いな。それが他人との関係であるなら尚のこと」
    「……ん」
    「だが、お前がそれを抱えたままでいたなら、僕たちは今のような関係にはなれなかった」
     まだ幼かった夏の日。頭上に輝く太陽よりも眩しい笑みを見て、唐突に一騎のことを好きだと自覚した。だが総士には立場があった。使命があった。個の感情を優先してはならないと、常々言い含められていた。
     だから心に決めたのだ。このひみつだけは、誰にも知られないようにしよう、と。
     人知れず消えていくはずだった想いが報われたのは、一騎が勇気を出してくれたおかげだ。いつだってそうだ。一騎は総士にたくさんのものをくれる。
    「……ありがとう、一騎。大切な秘密を打ち明けてくれて」
    「大袈裟だな……」
     呆れたような、安心したような声で一騎が笑う。身体に伝わって来る振動が心地よい。先程までの翳りもどこかへ消え去ったようだ。
     もう少しこうしていたい気もするが、いつまでもここで抱き合っているわけにはいかない。まだ『お願い』を叶えている途中なのだ。
     明日まで一緒にいたい。一騎の願いは、そんな在り来たりでささやかなものだった。せっかくだからもっと特別なことをお願いしたらいいのにという後輩の言葉に曖昧に笑った一騎が一体何を思っていたのか、想像に難くはない。
    「時間を取らせてしまったな。早く終わらせて帰ろう」
    「ああ。ちょっとだけ待っててくれ」
     名残惜しそうに離れた一騎は、言葉の通り手早くカウンター席を拭いていく。それを見守りながら程よく冷めたカップに口をつける。
     手を伸ばしてくれたのは一騎だった。だから、お前が望むならいくらでも共にいよう。その時間を増やすためならどんな努力も惜しまない。より強くなった決意をコーヒーと共に飲み干した総士は、カウンター内に入ってカップを洗い、その間に作業と帰り支度を終えていた一騎の手を取った。

     二度と、この手を離すものか。
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