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    みやこ

    @nevergivedog

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    みやこ

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    仕方がないからエレベーターにでも乗っちゃおっか、という幸村と真田
    (お題ありがとうございました)

    #幸真
    koujin

    夏に至る扉 立海大附属中の校舎の中、照明を受け鈍く銀色の光を跳ね返すエレベーターの扉は、通り過ぎる者の注意を引く。独特のものものしさと静けさを放っていた。
     例外的に、学校行事などで重たい荷物の運搬に使用されることを知ってはいたが、本来は階段を上るのが困難な者や教職員のための乗り物であり、テニス部の自分には縁がないだと感じていた。
     しかし俺は、一度だけそのボタンを押し、箱の内へ足を踏み入れたことがある。

     中学三年の夏だった。もうじき突入する長期休暇への期待と、関門のように立ちはだかる期末テストへの焦り、そしてうんざりするほどの暑さき校内の誰もがだらしなくそわそわしていた。
     かく言う俺もこれから始まる全国大会で頭をいっぱいにし、あろうことか体育で負傷した。得意科目だという自負の分、衝撃は強い。
     ただのすりむけだと主張したが体育教師には認められず、渋々向かった保健室で大したことでもないのにご丁寧な手当を受け、きまりの悪さは頂点に達していた。
    「どうする、このまま休んでいく?」
     養護教諭がたずねてきた。チャイムが鳴るまでまだまだ時間がある。無論、俺は戻る方を選んだ。
     グラウンドまでの道すがら、傷口に消毒液がしみて痛かった。情けなくてたまらなかった。スポーツをしていればこの程度のかすり傷は珍しくもなんともない。それでも、毎回痛くて毎回悔しい。明日起きたらかさぶたになっているとわかっていてもこたえた。
     ふと、昇降口のそばに、傾いだからだを半分に折った学生を見つける。きちんと背を伸ばせばそれなりに背丈もありそうだが、人影はどことなく華奢だった。
     奇妙に胸がざわつく。近づいて確信した。いや、はじめから頭ではなく心でわかっていたのだろう、それがやつなのだと。
     気配に気づいた幸村が顔を上げた。手負いの獣が身を伏せつつも油断なくあたりを警戒する様を彷彿とさせた。顔周りの長い髪の間からのぞいた険のある眼差しが向けられる。俺を俺と認識し、途端に揺らいだ。仲間を発見した安堵ではなく、そこにあったのは恥じらいだった。
     ああ、俺にはわかる。お前はそうと口には出さないが、わかる。穏やかだが誰よりも高潔なお前のことだ。ずっとそばにいた俺に、病から回復途上の弱った己をさらしたくないのだろう。
     どうか寄るなと思っているのが、強く、触れられそうなほどはっきりと伝わってきた。けれど俺は無視してやつの領域に踏み込んでいく。
    「おはよう」
     三限も半ばになっておはようとは。幸村の笑みはひきつっていた。
    「立てるか」
     幸村は眉をひそめた。感情が瞳の奥で渦を巻いている。苛立ち。戸惑い。屈辱。遠慮。諦め。だが激しさは次第におさまていった。
    「……じゃあ、手伝ってもらえるかな」
    「お安いご用だ」
     今どきそんな言い回しは流行らないと幸村は指摘し、そんなものをはなから追い求めてはおらんと俺は応じた。
     腕をとって背に回そうとしたら拒まれる。
    「背中と、うん、そう、肘に手を添えてくれるだけでいいから……」
     指示通りにいったのを確認すると幸村はふう、と息を吐き出して歩き出した。
    「保健室へ行くのだろう?」
    「ううん。教室」
     口から飛び出しそうになった説教をぐっと飲み込む。俺がどう言おうと幸村はもう決めているのだ。信じるほかなかった。昔からそうだ。説き伏せられるほど柔な男ではない。
    「具合が悪かったのか」
    「疲れてるだけだよ。リハビリがハードだから」
    「そうか」
    「うん、それだけ」
     会話が途切れる。
    「お前の方こそどうしたの」
     幸村はガーゼに覆われた俺の膝小僧が気になるらしい。
    「体育だ」
    「服でわかるよ」
     わずかに小馬鹿にしたような口ぶりだった。
    「転けた」
    「お前が?」
     つとめてそっけない風を装う俺を、幸村はぎょっとした顔で見ていた。生傷は未だひりついたが、ほんの少し胸がすっとした。
    「ハードル走で、あのまま行けば間違いなく俺が一番だった」
    「それは悔しかったね」
     テニスにおいて負け知らずの幸村が悔しいなどと発言することはめったにないので、しみじみしたその言葉は俺の頭でしばらくぐわんぐわんと反響した。
    「ねえ、乗っちゃおうよ」
     エレベーターの前で立ち止まった幸村が声を上げた。
    「だって俺たち病人と怪我人だよ。権利はあるはずだ」
     幸村の言いぶりはあくまでからりとして、自己卑下など微塵も存在しなかった。
    「一理ある」
     それに俺もずっと前から乗って見たかったのだ。
     ボタンを押してからそれほどせずやって来てすうっと扉が開いた。なんてことはなかった。ごく普通の、ありふれた、ただのエレベーターだった。非日常の高揚感か期待に反する失望か、再びドアが開くまでそろって黙りこくっていた。
    「ここまででいいよ。ずいぶん気分も楽になったし」
     二階に降りてすぐ、幸村が言った。確かに会ったときよりはいくぶん晴れやかな顔をしていた。俺の天秤は心配と信頼で揺れた。
    「まあ、うむ、しっかりやるんだぞ」
     あたりさわりのない言葉をかけた俺に幸村はにやりと笑いかけた。
    「お前も。今度は一番とれよ」
     早歩きで(風紀委員長たるもの、校内を走るなど言語道断だ)授業に戻った俺が、最後の五十メートル走でいくつものハードルを跳び越え真っ先にゴールを切ったということは、わざわざここで述べるまでもない。
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    Replies from the creator

    みやこ

    DONE幸真
    きっといつか重たい雲の間から光がさすから。

    にわか雨に降られた2人が駅で雨宿りしています。
    いつか光がさすように 真田が怒鳴っていた。なにか言っているのはわかるのに、はっきりと聞き取ることができない。
    「聞こえないよ!」
     俺も負けじと声を張ったが、それも伝わったのかどうか。
     夕立は勢いを増すばかりで、バラバラと大きな雨粒が容赦なくアスファルトに叩きつけ跳ね返る。会話をしようとするとどうしても叫ばなければならなかった。意思の疎通が成功しているとはとても言えないけど。
     開けた海岸沿いの遊歩道に、雨宿りできそうな建物や葉の茂った樹木は見当たらず、ただひたすらにバシャバシャと水を蹴散らして駅へと走っていた。
     道を渡れば目的地はすぐそこなのに、ちょうど赤に変わった信号に足止めされ、こんなときに限って車は絶え間なくやってくる。点字ブロックのくすんだ黄色をじっと見つめていたら、雨をかいくぐっていらいらとした舌打ちがちっ、と耳に飛び込んできた。そっと真田をうかがう。真田はそうすれば信号が赤から青へと変わると信じているみたいに睨みをきかせている。責められているような気がするのは実際すまないと思っているからだろうか。
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    みやこ

    DONEデートでネモフィラを見に行く高1の幸村と真田です。
    タイトルは、〜の手中とか〜の思いのままみたいな意味です。手も繋いでるし。
    友達とネモフィラ見に行って幸真ならこういうやりとりするかな!?って盛り上がった話をもとに書きました。
    イン・ユア・ハンズ 木漏れ日が降り注ぐ遊歩道を行く幸村の足取りはすいすいと水面を泳ぐ魚のようで、どことなく常よりもうきうきとはずむように思われた。後ろ手を組みながら鼻歌を口ずさんでいる。幾重にも重なった木の葉の間を透かした陽が幸村の白いうなじを焼く。踏み出すごとに髪が軽く揺れている。
     ナントカという花を見に行きたいのだと幸村は言った。いつでも咲いているわけではないのだ、と熱弁を振るわれ、毎月恒例のデートは電車をいくつも乗り継いで公園へと赴くこととなった。
     去年の冬に付き合い始めてから五回目のデートになる。最低でも月に一度、二人きりでテニス以外のことをしようと取り決めを交わしたのだ。それぞれが案を持ち寄り、これまで遊園地で観覧車に乗ったり、上野の美術館で印象派の絵画を眺めたり、江戸時代の風俗を学びに博物館へ行ったりもした。どちらの意見を採用するかは勝負で決めている。ジャンケン、腕相撲、コイントス……。テニスはきりがない。もう一試合と何かと理由をつけて延長してしまうから。
    2007

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