【轟爆】正夢 轟にキスされる夢を見た。クソみたいな夢だ。
詳しい夢の内容は覚えてないけれど、俺とあいつは言い争いをしていて、その途中で轟にキスされたのだ。
「爆豪。最近お前変だぞ。どうかしたか?」
「うっせー、どうもしねーわ!」
轟と一緒にゴミ捨てに行っていたときのこと。
キスする夢を見てからというもの、俺は轟に対しどこかぎこちない態度をとってしまっていたようで、とうとう轟に指摘されてしまった。
(ちっ、目聡く気づいてんじゃねーよ)
キスの相手が轟でなければ、ただの悪趣味な夢だと鼻で笑うだけだ。
だがそうもいかないのは、俺は――轟が好きだったからだ。
どうして轟のことを好きになったのか。
俺自身、ハッキリとした理由はよく分からない。
だが好きという感情が胸の内のあるだけで、轟に対して何か特別行動を起こそうとは思わなかった。
今は「A組の皆が大好きだ」とぽやぽやしているけれど、轟はモテる。ファンも多いのでどうせそのうち彼女が出来るだろう。
そんな相手に、夢を見るだけ時間の無駄だ。
自分の感情に気づいた瞬間からそう割り切っていたからこそ、先日見た夢が気に食わなかったのだ。
(あいつが俺にキスとか、ねーわ)
クソみたいな願望だ。
ありえないことを夢に見る、自分の女々しさに腹が立つ。
そして目の前で俺を心配する轟にも苛立ちを募らせてしまう。
「爆豪、俺が何かしたか?」
「……何もしてねえわ」
「でも様子が変だ。ずっと俺のこと避けてるだろ」
以前から、妙なところで勘が良い奴だった。
だが当然正直に言えるはずもないので、誤魔化すしかない。
「俺の問題だ。お前には関係ねー」
ほっとけや、と轟を突き放すと、俺はゴミ捨てを終えて教室へ戻ろうとする。
だが突然背後から轟に肩を掴まれた。
「っ、何だよ」
強制的に轟と正面から向かい合わされる。一体何だというのだ。
「俺は爆豪のことが好きだから、そういうのは嫌だ」
「……はあ? 好きだって?」
俺は眉を寄せて、轟を睨み付けた。
(……好きだなんて簡単に言いやがって)
轟の「好き」に恋愛感情が含まれてないと分かっているからこそ腹が立つ。
気を持たせること言う轟が、心底憎らしかった。
そして何より、轟の言葉に少しでも期待した自分が嫌だった。
「ほっとけクソが! ……俺はお前が嫌いだわ。そんな薄っぺらい好きなんか、俺には何の役にも立たねえわ」
言葉にしながら、俺自身の情けなさに悔しくなる。
結局はただの八つ当たりで、轟は何も悪くないことは重々理解している。
心配してくれる轟に対し、こんな物言いしか出来ない自分が心底嫌だ。
だが轟は、俺の言葉に少しだけ黙り込んだあと、ゆっくりと口を開いた。
「なあ、俺は振られたってことか?」
轟は、突拍子もないことを言い出し、一瞬頭が真っ白になった。
「はあ、てめえ何言って……」
「何って俺、勢いで告白しちまったから……」
「こ、告白って、お前!」
不意打ち過ぎて、全身の体温が一気に熱くなる。
急展開過ぎて、今の言葉が上手く咀嚼出来なかった。
だが轟は冗談を言っているのかと思ったが、こいつの瞳は真剣だった。
「俺のこと……マジで好きなんか?」
「ああ、信じられないか?」
信じられるはずがない。
だが轟は逃さない、と言葉を畳みかけてくる。
「爆豪も俺のこと好きだって思ってたが、違うか?」
「ち、違わねえ、けど……」
思わず押し切られるように気持ちを認めてしまった瞬間――。
「良かった」
轟の顔が近づき、夢が正夢へ変化したのだった。