26.窓 その窓を叩くのは決まって真夜中だった。
ガラス一枚割るくらい飛影にとっては造作もないことだが、部屋の主を怒らせると後々厄介なので毎回律儀に窓を叩く。
室内の彼はすぐに気付いて、窓を開ける。飛影は夜風と共にするりと入る。
用件は大抵、傷の治療か情報収集だ。特に前者において彼はとても有用で、毎回症状に合った薬草を配合してくれる。
相手が寝ていても構わず叩いていたが、
「こちらも一応暮らしがあるんだから、起きている時にしてくれないか?」
と生欠伸を噛み殺しながらチクリと注意されてからはその意を汲んで遠慮してやることにした。
飛影が訪れる時、彼は机に向かってノートに何かを書き綴っていることが多かった。尋ねると、高校数学だよと微笑む。
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