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    昨日のイベストの熱が冷めずに書き殴りました。
    正しい相手に贈らないと戻ってきてしまう花束を押しつけられたフィガロの話。
    カプ未満くらいの絵本のような優しい話を目指しましたが、実際どうかは分かりません。
    ネロ、ラスティカ、シャイロックが友情出演します。

    #フィガファウ
    Figafau

    押しつけられた花束を持て余すフィガロの話 花束をもらった。
     正しくは、中央の国の市場にある花屋で人間の花売りに強引に押しつけられた。
     薬の調合に使う材料や包帯を買い足そうと市場を歩いていたら、その花屋のワゴンの前で微かな魔力に反応して目線を向けてしまった。すると見計らったかのように店主が現れて、「これはあなたが持って帰って。気に入ったみたいなの、お代は要らないから」と花束を押しつけてきた。早々に厄介払いがしたかったのだろう。花束にかけられていた魔法は呪いの類いでは無いけれど、商品としては欠陥品だ。
     つまりは、正しい人が正しい人に渡さないと元の場所に戻ってきてしまう。そういう面倒な魔法がかけられていた。難しい魔法では無い、条件を満たせば良いのだ。けれど人間には持て余してしまっただろう。どうしてその花束が人間が営む花屋にあったのかも謎だが、自分がその正しい人の片方に選ばれてしまった理由も謎だ。
     道端に捨てたとしても、今度はフィガロの元へと戻ってきてしまうだろう。燃やして塵にしてしまう事も出来たが、そこまで悪意のある魔法では無いし。仕方なくフィガロはやや嵩張るそれを小脇に抱えて魔法舎に帰る事になったのだった。


     魔法舎に帰ると一階にある自室に荷物を置きに戻ってから、先ず食堂へと向かった。なにも人から人への手渡しで無くても良いはずだ。適当なガラスの花瓶を魔法で用意するとそこに活けてみる事にした。
    「カナリア以外に花を持って来るやつがいるとは思わなかったな」
    「あれ、若干引いてる? 好きで持って帰ってきたわけじゃないんだけどね、ああやっぱり駄目か」
     風も無いのに花瓶は横倒しになり、不自然に花束がフィガロの前へと広がった。
    「うわ……何これ」
     両手に本日の夕食を持ったネロは、テーブルに置くに置けなくて持ちっぱなしだ。実験は済んだ事だし、さっさと濡れたテーブルを元通りに戻して立ち去る事にした。でないといつまで経っても夕食の時間にならなさそうだ。
    「ネロは違うだろうしなぁ……。ミチルの所にでも行ってみるか」
    「え、俺の何が違うって? ……まぁいいけど」
     関わらない方が良いだろう、そう判断をしたネロは静かに皿をテーブルへと置いた。


     魔法舎の廊下を歩きながら、フィガロは困り顔で花束と睨めっこをしていた。
     ミチルも駄目、ルチルも駄目、賢者様も駄目。全く誰が相手ならこの花束は満足するのだろう。あと何人かあたって見つけられなければ本当に燃やしてしまおうと心に決めて中庭へと出た。西の魔法使いならこんな代物も面白がってくれるだろうと当たりを付けて。
     噴水の前でチェンバロを弾いているラスティカと、その横で楽しげに体を揺らしているクロエが大本命だ。彼らの所在は他の面子に比べて把握しやすい。しょっちゅう楽器を奏でているし、奏でていない時はクロエは自室で針仕事をしている事が多いからだ。
     有り物だがリボンでラッピングした花束を演奏を終了したラスティカに手渡すと、予想通りに両手を合わせて目を輝かせてくれる。
    「演奏会に花束を持参だなんて、なんて素敵な日だろう。もう一曲いかが?」
    「是非。どうやら俺の他にも楽しみに集まってきているみたいだしね」
     魔法使いは美しい音楽が好きだ。見えないように隠れてはいるが、屋根の上にはミスラが横になっているし、木陰にオーエンの気配も感じられる。ラスティカの演奏中は平穏が約束されているようなものだ。魔法を使わずに大した技量だと感心する。
     そしてまた一曲終えて、優れた芸術家に賛辞の拍手を送っていると、ラスティカは残念そうな素振りも無くフィガロに言った。
    「ああ、その花束を贈る相手は僕じゃなかったようだね」
     ご丁寧にラッピングも脱いでしまった花束は、いつの間にかフィガロの横にあった。
    「随分贅沢な花束らしい。また今度贈らせてくれ」
    「ええ、楽しみにしています」
     そしてラスティカは次曲の演奏を心待ちにしている魔法使い達のために再び弓を持ち上げた。聞こえ始める音色を背中に聞きながら、最後に向かう場所へと足を進めた。


    「それで、私の所へ? ふふ、飾ってみても構いませんが、どうせ手元に戻ってきてしまうのでは?」
     シャイロックのバーに花束を抱えて現れたフィガロを、それは店主は可笑しそうに笑った。そのような客には慣れているのだろう、思っていたよりも反応が薄くてフィガロとしては若干不服だ。せめてネタとして笑いが取れれば良いと思っていたのだが、どうやら本日のバーの客達にそういった類いの魔法使いはいないようだ。
     いつものようにカウンターに腰を掛け、花束を真横のスツールに置くと事の成り行きを店主に話した。しかしシャイロックが言うように、例えこの場所に飾ったとして食堂の二の舞になる気がしている。
    「だよねぇ。どこなら満足するんだか」
    「珍しくお困りのようですね。あなたならこんな魔法なんて無いも同然でしょうに」
    「うーん……そうなんだけど、なんか無碍に出来なくって。でもシャイロックでも駄目ならもう諦めるかなぁ」
     横目で一日中持って歩いても萎れていない花束を見下ろすと、その上に白い手袋が背後から現れた。どうやらかけられた魔法を調べているらしく、頬杖をついて感想を待つ。
    「……呪い……では無いな。どちらかというと祝福の魔法に近い」
    「そう。だから困ってるんだ。呪いなら真っ先に本業の所に持ち込んだんだけど」
     安全な物だと確認を済ませたファウストは、その花束を挟んでフィガロの隣に腰を下ろした。先程まで端で飲んでいた彼がわざわざ移動してきた事を意外に思いながら、新しい酒を二つ店主に依頼する。何かを譲ろうとしても頑なに受け取らない元弟子だが、酒の席ではそれも少し緩む事を知っている。
    「渡した相手の幸福を願ってかけられた魔法だ。だが、間違えた相手に贈るとどうなる?」
    「ほんのすこーしだけ、贈った側が呪われる。朝食を食べ損なったり、財布を忘れたり、ピンポイントで雨が降ったり。そんな子供だましな呪いだよ」
    「それならこれはもうお前にとっては呪いじゃないのか」
     酔っている割に真剣な顔をしたファウストは、フィガロ自身より余程その花束の事が気になっているらしい。正確に言えば、気になっているのは本業らしく呪いの方だろうが。
    「やはり処分した方が良い」
     こんな呪いはフィガロにとって呪いでも何でも無いのだが、バッサリと処分という判断をしたファウストが面白くて肩肘をついてファウストの顔を覗き込む。
    「……こういう幸運操作の分野は君の得意分野だったよね。それなら処分はファウストに任せようかな」
    「なんで僕が」
    「理由は先に言った。依頼料が必要なら用意するけど?」
     う、と軽々しく首を突っ込んだ事を後悔したのかファウストは言葉に詰まらせ、グラスの酒を少し多めに飲み込んでから盛大な溜息を吐いた。
    「……もう貰ってる。この酒で良い」
     そして先に飲んでいた分の勘定を済ませると、ファウストは立ち上がる。背中を向けられる前にすかさず花束を手渡すと、文句を言いたそうな表情をしながらもファウストはそれを受け取った。


     シャイロックのバーの照明よりも更に輪を掛けて暗い自室に戻ったファウストは、託された花束を丁寧に机の上に置いた。念の為すぐに扉と窓の鍵をかけ、簡単には開かないようにする。いくら魔法がかけられているといえど、空間を転移する力は無いと予想して。
     四階に上がるまでの間、誰かに見られやしないかと冷や冷やしていたのだが、よくよく考えればこそこそする必要などまるで無いのだ。依頼なのだから。間違えてもフィガロから贈られた訳では無いのだと言い聞かせながら深く椅子に座り、改めてまじまじと花束を見る。対象の観察は必要だからと、束ねられた優しい色の花たちに心を寄せた。青よりはくすんでいる、青と灰色の間の色の花がメインで、引き立てるように白や黄緑の小さな花がまとめられている。贈り主を彷彿とさせる色合いは偶然だろうか、しかし綺麗なものだ、と素直に思った。
     かけられた魔法を解く方法は、適切に順番を踏んで壊してしまうしかない。元々呪いでは無いため浄化という手段は当てはまらないから逆に厄介だ。全くどうしてフィガロなんかに好き好んでついてきたのだか。
     そもそも正しい相手に贈らないといけないという時点であやふやなのだ。正しいとはどういった基準だ、それも相手に対して祝福を贈ろうとしている。一般的に花束を贈る相手は、功績をあげた人物か、家族や恋人などの親しい間柄だろうか。後は病人や故人。……やはり候補が多すぎると眉を下げ、両肘を机について顎を乗せる。
    「それか、フィガロが贈りたいと思う相手……?」
     シャイロックとの話の中で既にフローレス兄弟は試した言っていたし、あと思い浮かぶのは双子にオズか。本人に対象者に贈りたいという自覚は無いのかもしれない。何となくフィガロが他人に花を贈る姿は想像出来ない。恐らく今までも花を贈る習慣など無かっただろう。特に北の国ではまともな鑑賞花は咲かないから。
     ファウストは酒が入っているからかすぐに準備に取りかかる気分になれず、花束をそのまま机に置いて眠ってしまう事にした。今やるのも朝になってからやるのもそう変わり無いだろう。元々この部屋には強固な結界を敷いているし、万が一にも花束が逃げ出す事は無い。扉か窓の前で横たわっている事はあるかもしれないが。
     まるで牢獄の中の罪人みたいだなと同情しながらベッドに横たわると眠りはすぐに訪れた。


     そして再び目を覚ました時、初めからそうであったかのようにいつの間にか現れた花瓶に花束が活けられているのを見たファウストは暫くの間呆けたように固まった。
     よく見れば花瓶自体は元々棚にあった調合用のガラスであったが、少なくともファウストがそれを取り出した記憶は無い。近付いてみると、かけられた魔法は役目を果たしたと言わんばかりに自然と消えており、それはただの綺麗な花となっていた。
     様子を確認に来たフィガロはそれを見て呪い屋としてのファウストを賞賛したけれど、ファウスト自身は一切手を出していないのだから褒められるいわれは無い。黙っていようと思っていたが、このままでは心地が悪いので正直に話す事に決めた。
    「……僕は何もしていない。持ち帰っただけだ」
    「え?」
    「寝て起きたら魔法が解けていた。……おい、顔を隠すな」
    「だって、ねぇ……うわぁ……なんていうか」
     普段のよく回る舌がまるで嘘のように言葉を紡がない。その様子を見て、今まで平然としていたファウストまでもが表情を崩す。
     正しい相手ってどういう事かを聞きたいのはファウストの方だ。それなのにこうも恥ずかしがられては訊ねにくくて仕方ない。
    「……本当に自覚が無かったのか?」
    「いや、あったよ。あったっていうか、真っ先に浮かんだのが実はファウストだったから……やっぱりかぁって」
    「ならどうして、真っ先に僕の所に来なかった!」
    「何を理由に渡せば良いのか分からなかったから……」
     シャイロックのバーに行ったのだって、もしかしたらそこで飲んでいるかもしれないという思惑があってこそだった。シャイロックには見抜かれていたようだが。酔いに任せれば渡す事も出来るだろうとの考えだったが、他の面々には渡せて、自分に渡せないというのはどういう了見だとファウストは憤慨した。しかし南の国の先生は、ファウストの文句など気にもせずにへにゃりと微笑む。
    「全く、理由なんてどうでも良いだろう。渡したかったから以上に誠実な気持ちは無い」
    「……そうだね。それで、君には少しでも祝福が届いた?」
     早くもいつもの調子を取り戻したらしいフィガロに、呆れながら眼鏡を押し上げる。贈られた相手に祝福の魔法がかけられるという、気まぐれのような些細な魔法。振り回された分の幸福が与えられたかというとそうでは無いかもしれない。ファウストは机の上に咲く花を見て目を細めながら答えた。
    「花が綺麗なだけで、十分その意味は果たしたよ」
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    tono_bd

    DOODLEフィガファウ冥婚企画(https://mhyk.web.fc2.com/meikon.html)で書いたお話です。
    レノックスと任務で東の国に行くファウストの話。
    任務についてがっつり書いて、恋愛要素は潜ませました。
    ああそういう事だったのね、という感想待ってます。
    赤い川を渡って そこに横たわっていたのは血のように赤い色をした川だった。
     流れがひどく緩慢なため、横に伸びた池のような印象がある。大地が傷つき、血を流した結果出来たのがこの川だという言い伝えがあってもおかしくは無いだろう。濁っているわけではなく、浅い川であることも手伝って川底の砂利まで視認出来た。尤も、生きた生物は視認出来なかったが。
     任務でこの地を訪れたファウストは、地獄を流れる川のようだと感想を持った。
    「きみは驚かないんだな」
    「見慣れた風景ですので……懐かしさすら覚えます」
     水質を調べようとファウストは手を翳したが、既に手遅れであることは誰の目にも明らかだ。オズくらいの魔力があれば力業で全ての水を入れ替えてしまえるのかもしれないが、正攻法であれば浄化になる。媒介は何が必要で、どのような術式で、とぶつぶつ呟きながら暫く考えていたが、少なくとも今打てる手はファウストには無い。
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    tono_bd

    DOODLE同級生の中で一番初体験が早かったのが生徒会長だったら良いな……って思いながら書きました。
    スペースに集まった人全員「夏の現代学パロ」というお題で一週間で作り上げるという鬼畜企画でした。
    私が考える「現代学パロ」はこれだ!!って言い切るつもりで出します。
    どう見ても社会人パロとかは言わない約束。
    ノスタルジーが見せる 夏休みを失って二年が経った。
     手元で弾けている生ビールの泡のように、パチパチと僅かな音を立てて消えていく。気付いたら無くなっているような二年だった。社会に出れば時の流れは変わるのだという言葉の信憑性を疑った時期もあったが、自分がその立場に立ってはじめて理解出来るものだ。
     ノスタルジーが生み出す感傷だろう、自分らしくないなと思いながらジョッキを傾ける。
     同窓会なんて自分には縁の無いものだとファウストは思っていた。誘う友人もいないし、誘われるような人柄では無いと自覚している。それなのに今この場にいるということは、認識が間違っていたという事だろうか。今日の事を報せてくれた淡い空色の髪をした友人は目立つ事も面倒事も厭うきらいがある。そんな彼が声をかけてくれたのは、単に僕がのけ者にされないよう気を遣ったのか、巻き添えを探していたのだろう。
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    DONEほしきてにて展示していた小説です。

    「一緒に生きていこう」から、フィガロがファウストのもとを去ったあとまでの話。
    ※フィガロがモブの魔女と関係を結ぶ描写があります
    ※ハッピーな終わり方ではありません

    以前、短期間だけpixivに上げていた殴り書きみたいな小説に加筆・修正を行ったものです。
    指先からこぼれる その場所に膝を突いて、何度何度、繰り返したか。白くきらめく雪の粒は、まるで細かく砕いた水晶のようにも見えた。果てなくひろがるきらめきを、手のひらで何度何度かき分けても、その先へは辿り着けない。指の隙間からこぼれゆく雪、容赦なくすべてを呑みつくした白。悴むくちびるで呪文を唱えて、白へと放つけれどもやはり。ふわっ、と自らの周囲にゆるくきらめきが舞い上がるのみ。荘厳に輝く細氷のように舞い散った雪の粒、それが音もなく頬に落ちる。つめたい、と思う感覚はとうになくなっているのに、吐く息はわずかな熱を帯びてくちびるからこぼれる。どうして、自分だけがまだあたたかいのか。人も、建物も、動物も、わずかに実った作物も、暖を取るために起こした頼りなげな炎も。幸福そうな笑い声も、ささやかな諍いの喧噪も、無垢な泣き声も、恋人たちの睦言も。すべてすべて、このきらめきの下でつめたく凍えているのに。
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