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    maya_machida

    @maya_machida
    腐女子。文字書き、ラクガキ(アナログ)

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    続かない、仁笹。こないだメモに書いた、どちゃどちゃに面倒なメンタルの仁が、他メンバーとそこそこなかよくやってる笹に嫉妬する話。

    #仁笹
    ##仁笹

    仁科が菩提樹寮の談話室に足を運んだ時、オケメンバーに囲まれる笹塚がいた。ちょうどおやつをいただいていたらしく、笹塚の隣に榛名が居て、彼の見た目よりもずっと旺盛な食欲を彼の相方である弓原が、もうおしまいだと止めていた。それでも諦めきれ無い榛名が、ふっと横を見た。もくもくと、頬を膨らませてオヤツを食べている笹塚を。
    「半分…」
    「はぁ?」
    何を突然と眉を顰める弓原をよそに榛名が続ける。
    「半分、笹塚さんに食べてもらう」
    これならいいでしょ、と弓原の返事も聞かずに榛名は手にした焼き菓子を半分にして、スッと笹塚の前に差し出した。笹塚は何かを言うでも無く、一瞬だけ榛名を見るとその手から半分の焼き菓子を受け取り、パクリと一口で、口に入れてしまった。

    その様子を談話室の入り口近くから眺めていた仁科は、感慨深く思う。
    笹塚は馴れ合わないわけじゃない。必要最低限に固定されていたり、優先順位がハッキリしていてその上位は揺るぎなく彼の中の音楽が占めている。
    友好的とはお世辞にも言えないが、必要があればそれそこそこの会話も嗜むし、そこに音楽が絡めば饒舌になるということを知っているのは今のところ、仁科だけだろう。

    仁科が突っ立っているところを発見した三上が慌てたように仁科を呼ぶ。一緒にどうですか?と。

    苦いものを飲み込んだような…と聞いたことがある。苦いものを飲み込んで無かったふりをして、仁科は笑顔でその輪に足を進めた。

    「笹塚がここに居るとは思わなかったな。進捗どう?進んでるの。」
    柔かな笑顔を取り繕って仁科は真っ先に相方に声をかける。その言葉を受け取って仁科を見つめ返した笹塚は、あぁ。と簡潔に返事をした。
    「もう完成した」
    「え、もう?昨日はまだうまく音がはまらないって言ってたのに?」
    「あの後、サンプリングできそうな音を探してたら南に出会って」
    「ざわざわ〜な、音が欲しいっていうからな〜僕のとっておきの場所に連れてったんさ〜〜」
    ニコニコと南が言葉を繋げる。
    「落ち葉をかき集めて山みたいになってる場所があってな〜そこに飛び込むのが気持ちいいんさ」楽しかった!ね!と笹塚に満面の笑顔を向ける南は、その穏やかさから人に好かれるタイプとは仁科も認識していたが。その後の笹塚の表情と言葉にチクリと胸が痛むのを覚えた。
    「楽しんでたのは、南だけだ。けどおかげでいい音が取れた。落ち葉に突っ込んで行って、あんな音が拾えたのは面白い」
    相当に満足できる音が録れて、おかげで創作意欲に火がついたのだろう。口許を綻ばせて、心なしか頬も好調している気がする。
    「まだ仁科にデータを送ってなかったな」
    今送ると手持ちのノートパソコンを開いたところに更に声がかかった。
    「せっかくだからここで聴かせてくださいよ。仁科さんだけズルいじゃないですか」
    赤羽だった。それに呼応するように、竜崎や榛名や弓原まで、興味がある、聴きたいと言い出す。
    待って!と仁科は声をかけようとした。笹塚は拘るのだ。
    「PCのスピーカーで流すと音質に限界がある」
    ほら、やっぱりと仁科は肩をすくめる。言うと思った。そこにさらに、コンミスがそれでも聞いてみたい、皆んなも聞いてみたいって言ってますし、お願いします!と追い縋ってきた。
    周りの視線をぐるりと一周目線で追った笹塚がふっ、と短く息を吐き、キーボードをタンっと叩く。

    待って、とは仁科は言えなかった。
    流れ出す音を止めることなどもうできない。
    そして仁科の中で溢れ出す黒いドロリとした何かも止められない。笹塚の音を最初に聞けるはずの特権がその瞬間、消失してしまったと強く感じた。

    2人だけじゃなく、こうやって仲間になったオケメンバーと囲んで、笹塚の新しい曲を聴くなんて経験、嬉しいことのはずじゃないか。
    そう思うのに、仁科はみぞおちから迫り上がってきた気がする苦いものを、誰にも悟られないようにグッと飲み込んだ。口直しにと、皿の上にまだ残っていたクッキーを手に取して、なんでもないフリをして、笹塚の新曲を耳に受け取りながら一口食む。けれどそれは甘さは一欠片もなく、ざらりとした砂のようにしか感じられなかった。
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