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    china_bba

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    china_bba

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    こっそりアップロード。支部にある長編の焼き直しを書いてます。

    愛の泥〜Restart〜 不揃いな序曲 首尾は上々だった。計画は順調。全ては上手くいっていた。
     ……あの少女さえ、現れなければ。
     計算外の存在。狂う歯車。あらゆる物が、かき乱される。
     ……しかし、どんな嵐も、やがて去る。その果てに見た、摩訶不思議な光景。この手の中に残ったもの。
     振り返ると、おかしな話だ。どんな劇作家もこんな脚本は書かないだろう。奇妙な喜劇。あるいは、悲劇だ。
     
     順番に話そう。
     最初は、アジトに少女がやって来た。いきなりだ。腕の立つ侵入者が来たと聞いて、どんな奴かと思っていたら、まだ顔に幼さの残る少女だった。
    「あなたが、ボス?」
    「ああ、そうだ。何かご用事かな、お嬢さん」
     どういう事だと思ったが、その目はきりりと真っ直ぐで、ああ、こいつは怖いものが無いんだなとすぐに分かった。苦手な目だった。純粋で、美しいもの。もう、自分には無いもの。闇の中で生きていく中で、とっくに失ってしまったものだった。
     ……塗り潰してやる。絶望で。真っ黒に。
     そんな思いで、すぐに戦った。ベストのメンバーではなかったが、それなりに鍛えていた手持ちだった。
     それであっけなく、負けてしまった。
     ゲンガー一体に翻弄され、手持ちの全てをやられてしまった。
     勝負が決まった瞬間に少女の、緊張に満ちていた瞳から力が抜ける。にっこりと笑った。笑い方にどこか上品さを感じる。子供と大人のちょうど中間に立っているような、そんな印象を受けた。
    「あった、シルフスコープ。これ、貸してください。どうしても幽霊が見たいの」
    「……ああ。キミは勝者だ。好きなものを持っていきなさい」
    「ありがとうございます」
     少女は机の上からシルフスコープを取ると、一礼して、部屋から出ていった。
     団員たちが、オロオロと戸惑いながらこちらを見てくる。
    「狼狽えるな。勝敗はバトルの常。私とて、時に負ける事はある」
    「はっ……!」
    「この程度の事で、私は揺るがない。お前たちも、どっしりと構えていろ」
     ソファに座って、煙草に火をつけた。
     
     次に会ったのは、シルフカンパニーだった。
    マスターボールの入手と量産化を目的として、ビル全体を乗っ取り、全ての社員と研究員、ポケモンを人質として社長に交渉していたところだった。
     扉が開いて、少女がやってきた。
     前と同じ、綺麗な目のままで。少したくましくなったかもしれない。微妙な年頃だが、前会った時よりわずかに大人に近づいたように感じた。
    「やあ、お嬢さん。また会ったな」
    「…………どうも」
     アジトで会った時よりも、緊張しているようだった。お互い、あまり多くの事は語らなかった。やる事は決まっている。
     バトルだ。
     この間よりは本気を出したつもりだった。少女のポケモンはゲンガー、マタドガス、フシギバナと三体目までは手持ちが見れた。
     ……毒ポケモン使いか。
     だが、傾向が分かったところで、こちらの手持ちが尽きた。相性は、決して悪くないはずだった。なのに、勝てない。
     あの力の抜けた笑顔を、また見てしまった。戦いが終わると少女は、どうしてか笑いかけてくるのだ。楽しかったとでも言いたげに。普通のトレーナーと戦ったかのような振る舞いに、若干腹が立つ。だが、敗者には何も許されない。許されるのは、笑顔に見送られながらその場を立ち去る事だけだ。
     
     この後、もう一度戦うことになる。
     目を瞑ると、あの美しい瞳に見つめられているような感覚に襲われるようになった。日ごとに眠りが浅くなった。二度にわたる敗北に、精神が追いつめられていた。
     
     最後に何が待っているか、この時は何も予想出来ていなかった。
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