手段は選ばず 毒に体を慣らすことは上級生として必須だ。その上で保健委員長である伊作の同室である俺は、他の奴らよりも毒に耐性があると自負していた。
「こら、早く手を退けなさい」
駄々をこねる子供を窘めるような言葉とは裏腹に、手を引き剥がそうとする力は強い。それを首を振って拒んで口元を手で覆ったまま、目の前に立つ男──雑渡昆奈門を睨む。
鍛練中に意図せず出会い、勝負を仕掛けたのは俺だ。勝負の最中に忍びから狙われていることに気付かなかったのも、俺だ。俺を庇ったりしなければ避けられたはずの毒矢を手に掠めたのは、この男だ。それに何とも思わないわけがない。直後に忍びを仕留めた男を引き留め、血液以外の液体で濡れる手の甲に吸い付き毒抜きをし──毒で口が痺れるという失態を晒している。
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