可惜夜 不揃いな長さの髪が、慣れた手つきで綺麗に結われていく。
頬杖をついてそれを眺めていたものの、どうにも面白くない。その感情のままに、結い上げられた直後に髪紐を引っ張り、再び髪を下ろさせた。
「何すんだよ。せっかく結ったのに」
怒ったように言いながらも構われたことが嬉しいのか、彼の表情は緩んでいる。手にした髪紐を置いて顔を寄せれば、当たり前のように目を伏せ、彼は酷くあっさりと唇を受け入れた。
「んっ……ふ……はは…………そんなに名残惜しいのか?」
唇が軽く触れただけで離れても文句を言わず、包帯の巻かれていない私の頬を撫でて顔を覗き込む眼差しは、愛おしさが溢れている。
今はそれが、心底不満だ。忍びたるもの本心を表に出すことは未熟な証であることはわかっている。数多の部下を抱える立場である自覚もある。しかし現状にそれらの事実は無関係だ。
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