2作品(2021/10/17更新) 『春はさかしま』(三人称初挑戦文、坂富の導入と富田くんについての妄想、まぜこいイメージ)
男、坂上修一は、落ちてくる桜を素手で掴み取ることができる男である。
彼が奇しくも恋という煉獄へ引きずり落とされ、愛と言う命の法に汚名をきせることとなるのは。高校生活が始まったばかりの、4月が息を引き取る頃であった。
坂上は時計塔前に佇んでいた。彼の背後では登校する生徒たちの声が不揃いに流れ込んでくる。男子校特有の声変わりを迎えたもの、未だ迎えぬものの声が粒立って響き、混じり合う。それが春の空気を通して、妙な騒がしさと共にこの男と存在していた。彼の正面では桜が舞い踊り、さながらヘリオガバルスの薔薇の絵画のようであった。その華やかさ同士の中間にポツンと立ち尽くしている坂上は、どこにも所属できぬような、どこか佗しい雰囲気を漂わせるようにも思える。
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