【連載予定】美しきモノ_美しきモノは排除せよ。
__裏切り者には征伐を。
___これら我らを救うもの。
🐑「ここは地獄だ。」
歳の離れた兄弟が小説に目を落としつつ溜まっていたストレスを吐き出すかのようにそう言い放った。
👹「一体どうしたんだ。昨夜私に負けたのが悔しいのか?」
🐑「お前…一体私をいくつだと思っているんだ…?」
👹「いくつになろうが君は私の可愛い子羊だからな」
🐑「この国の考え方はやはりおかしいと思う」
…無視したな?まぁいつも通りではあるのだが…ファルガーのことは充分に知っているはずだ。もう何十年と一緒に居るだろう。ただ、コイツの時々出る考え方に私は恐怖を抱いていた。
👹「ファルガー、世の中には知らなくて良いこともあるんだ。」
👹「さぁ。昨日の戦いの続きをしようじゃないかファルガー!私は絶対に負けないぞ!」
🐏「…はぁ」
隠し通さねばならない。この国では国の考え方を批判するものは。"裏切り者"には征伐を与えねばならないのだ。征伐とは言いつつその先に待ち受けているのは "死" のみである。
私は昔から小説を読むことが好きだ。色んな感性を得られるだけでなく私は単純にその作者の描く物語が面白くて仕方がない。だが流石に何千と読んでいるとお馴染みな展開が待ち受けているのだと薄々感ずいてしまい少しつまらなさを感じる。その時に出逢ったのが一冊の本だったんだ。そこには何も囚われることなく自由に生きている人々。対して私はどうなのだろうか?そんなことを考えたとき私は囚われているのだと感じた。ヴォックスも私も何不自由なく育てられた。一般的に見れば私は何も囚われずに生きていると感じるだろう。しかし物心ついたときにはまるで呪文のように3つの言葉を聞かされてきた。
_美しきモノは排除せよ。
__裏切り者には征伐を。
___これら我らを救うもの。
私はこれは普通のことだと思った。生まれたときからこれを聞かされていたのだから。だが小説を読み、ある程度知識をつけ、世界を知ったときこれはおかしなことなのだと思った。ヴォックスはきっと隠しているつもりなのだろう。しかし十数年もお前と居るんだ。私には分かってしまった。私がこれについて聞こうとすると明らかに何かを隠しているような動揺が見られる。きっと私の行動は裏切り者の行動となるのだろう。私はそこでより行動を起こそうとするほどバカではない。
なのだが…美しきモノとは一体なんなのか私には分からなかった。この世界にはありとあらゆる美しい物がある。しかし全体として見ると自然というものは季節や天候、気温によって大きく変化する。一部分を切り取っても全然違ったものになるのだ。私は自然以上に美しい物を知らない。でもいつかそれを知るときは来るのだろうか…自然以上に美しい物を…私はそんな淡い期待を胸に抱きながら今日も呪文のようにそれを聞かされるのであった。
月日が流れ私たちは父から託され、"美しきモノを排除する剣士"としての任務を果たすことになった。……もう何十年も経ったがあれ以来ファルガーから何かを聞いてくることはなくなった。私としては本当に安心したのだが、あんなにもキラキラとした瞳を持っていたアイツの瞳には今はそんな面影はどこにもない。大好きだった小説もいつからか読まなくなってしまった。別にアイツの態度が大きく変わってしまった訳ではない。私とは変わらずバカみたいに騒ぎ、好きなアニメを語りながらお互い夜明けまで喋る。なんら変わりないのだ。しかし、ファルガーが読んでいるものは物語ではない。彼の物語を私は…いや私たちが奪ってしまったのだ。何が正しかったのだろう…いや。いつまでも悩んでいたって仕方がない。私はアイツの兄弟なのだ。これは兄弟である私の責任にもなる。私が出来ることを全てしよう。今は…
👹「ファルガー、何故そんなにも小説が好きなんだ?」
🐑「私はもっと色んなことを知りたいんだ。もっと多くのことを、世界を。」
つづく