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    koyubikitta

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    koyubikitta

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    X年後の、くらゆかくら……ぽい……もの。全部ない話。※無から甥が生えてます

     まあ、お久しぶりです記者さん。ええ、わかっていますよ。私を通報したんでしょう? 覚悟はできていますよ、好き勝手やってきましたからね。司法の手が私を捉えてもすり抜けて、余生はのんびり飛行船で過ごします。
     ……え? 通報してないんですか? なるほど。記者でもない。私の甥っ子? へー、私って甥っ子がいたんですね。週一でこの家に来てる? そうでしたっけ?
     ……ごめんなさい、丁寧に一つずつ突っ込んでくれるので、つい。てへぺろ。古い? なるほど。
     さあさあ、おやつですよ。可愛い甥っ子のために私、キュートな缶に入った素敵なクッキーと、旬のアッサムをご用意しちゃいました。
     この間はどこまでお話しましたっけ? ようやく怪盗ウェスペルが名探偵の実在を知ったあたり?
     そう、これは昔々、世界にまだ殺人があった頃のお話……夜の闇には魔物が住み、赤い夢には名探偵や怪盗が泳ぎ……。
     え? プロローグをスキップしたい? 無粋ですねえ、悲しいですねえ……。私はこれ、とっても言いたいんですが……。
     たしかに毎回五分もプロローグ語るのは長いかな? と我ながら思いますが、嵩増しでもあるんですよ。なんといっても所縁くんの思い出っておぼろげで、語ることが思い出せなくて。
     ……ええ、あんなに愛おしくて狂おしい相手だったのに、私は所縁くんのことを忘れていっています。悔しいですね。世界が彼を忘れても、私は彼をしっかり覚えているはずだったのに。いえ、そもそも世界が彼を忘れないように奪い返すのが、私の役目だったのに。
     最近では所縁くんの身長が五メートルあった気がするし、目が光ってビーム撃ててたような気もするし、神アイドルだったような気さえしています。この真偽が闇に葬られてしまう時、『皋所縁』は本当に消滅してしまうんでしょうか? 嫌ですね、そんなバッドエンドは。
     所縁くんが欲しい気持ちは痛いほどわかりますよ。私もそうでした。八百万一余のはぐれものも、寂しさのあまり彼を求めたんでしょう。許し難いことですが、わからなくもない。……絶対に許しませんけどね?
     ともあれ、私やカミにそんな感情を抱かせるほど、彼は魅力的な人間でした。トランプ弱いし心も弱いし本当は人を疑うのが下手な人だけど、必死になって探していました。人々の幸せってやつを。
     歌や踊りの才能があったわけではありませんが、人を惹きつける才能には溢れていました。
     もちろんそれは、名探偵をやっていた時からそうです。皋所縁が人々を集めて『さて』と言うだけで、皆が彼だけを見ます。スポットライトなんてものはいりません。彼は主役で、名探偵だから!
     ……というか、本当は事件が起きて五分くらいで「おい」と犯人を指したりしてたんですけどね。彼ってば本当に規格外ですから。私たちの物語が青春アイドルものでよかったですよ、ミステリ小説だったら事件パートが薄いって文句言われてたかもしれません。
     え? ……闇夜衆を組んだ時ですか? 私は二十四でした。所縁くんはたしか……二十二?
     ……失礼ですね。そりゃ確かに、青春って一般的には高校生くらいかもしれませんけど……。
     あれが私の青春でなくてなんなのでしょうか。皋所縁と萬燈夜帳が世界に存在していて、私の横に立っていて、共に舞い、奏でたあの時が!
     なにものにも変えがたい時間でしたよ。
     うーん、こんな話をしてるとカミへの怒りがどんどん湧いてきちゃいますね! やけ食いでクッキー食べちゃおっかな〜。でも冷蔵庫にまだまだマンゴーがあるんですよね。私くらい皆から愛されてると、頂き物がたくさんでうれしい悲鳴です。
     そういえばマンゴーお裾分け部隊がそろそろ帰ってくる時間ですかね?

     玄関のドアが開く音がした。飼い主の帰りを察した犬のように目を輝かせて、昏見有貴が立ち上がる。その視線の先には、帰ってきたばかりの人影。
    「ただいまー」
    「おかえりなさい所縁くん! おつかいちゃんとできました?」
    「いや、お裾分けくらいできるわ。あ、萬燈さんからお返しに桃貰ったぞ」
    「あら。また果物が増えちゃいましたね」
     昏見有貴は微笑んで、愛しの甥っ子に振り返る。
    「桃まで増えちゃったみたいなので、マンゴーと桃とクッキー、好きなだけ持っていってください。お母さんも喜ぶと思いますよ」
    「そんな山ほど押し付けんなよ……。無理して持ってかなくて良いから。大丈夫か? また叔父さんがメチャクチャな与太をのたまってただろ」
    「ちょっと、所縁くん! 私が嘘つきみたいな言い方やめてください!」
    「お前は嘘つきだろ」
     罵るような口調で言われても、昏見有貴は幸福そうに微笑んでいた。
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