「ごめん、ごめんな」
その言葉を聞いて、目が冴えてから何分経っただろうか。男二人が並んで寝るには少し狭いベッドで、上体を起こした蘭丸は、隣で背を向けて眠る嶺二から目が離せなかった。
その夜、先にベッドに入っていた蘭丸に覆い被さるようにベッドに入った嶺二は、蘭丸の背中に、ただ黙って抱きついた。それが、いつもの合図と思い、体を動かした蘭丸は、嶺二の後頭部を摩って、応えようとする。向き合うように体勢を変え、口付けを交わし、身体を寄せ合う。いつになく優しく、柔らかく、何かを確かめるような唇。
「嶺二……?」
蘭丸が嶺二の顔色を伺うように呼びかけるも、嶺二は申し訳なさそうに笑みを浮かべ、「今日はこれだけ」と言って、蘭丸の額にキスを落とした。誰しも気が向かないことなど当然のようにあり、それは蘭丸とて例外ではなかったから、特段気に障ることではない。しかし、明らかに何かを抱えたその態度に、蘭丸は一抹の不安、もしくは、若干の違和感すら覚え、浅い眠りの中をぼんやりと過ごした。隣の体温は、やけに遠い。
「ごめん、ごめんな」
浅い眠りの中で聞こえたその声は、嶺二から確かに発せられた声だった。蘭丸は上体を起こし、眠る嶺二の背中を見つめる。微かに震えているようにも見えた。その謝罪は、不思議にも、そして漠然と自分に向けられたものではないと、蘭丸は感じた。狭いベッドの上は、明らかに見えない何かで遮断されている。温かいはずの体温に触れても、どこか冷たさを感じてしまう。触れているのに、触れていない。
「嶺二……」
蘭丸はベッドに横になると、背を向けた隣の体温に寄り添い、その震える背中を抱きしめて眠りについた。