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    manju_maa

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    manju_maa

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    明主ワンドロから【心臓の音】のお題を頂きました。

    心臓の音と明主の話────夢を見た。
    幼い頃の僕は母の胸に抱きつくのが大好きで、母も優しき抱きしめてくれて。
    温かくて、幸せで。そんな時間が好きだった。

    「お母さん、胸の中から変な音するよ。どくどくって言ってる」
    「それは心臓の音だよ吾郎。変な音なんて言っちゃダメ」
    「しんぞう?」
    「お母さんが生きてる音だよ。吾郎の胸の中でもちゃんと同じ音がしてるんだから」
    「僕も?」
    「そうだよ。心臓が動いてる限り、私は吾郎のそばにいることができる。吾郎が今聞いたのは、そういう大切で、大事な音なんだよ」
    「そうなんだ!じゃあ僕、この音好き!」
    「ふふ、ありがと。吾郎」
    「えへへ!」

    そんな会話をしたのが、遠い日のことのように思える。
    母はその後、僕を置いて死んでしまった。
    あれだけ動いていた心臓は、元から動いていなかったかのようにその音を止めてしまった。







    ────また、夢を見た。
    狭い部屋の中で、焦げた匂いと、血の匂いが充満する。
    漕げた匂いは、左手に持ったピストルから。血の匂いは、目の前の机に倒れ伏した好敵手の額から流れ出たものだ。

    「明智は、心臓がドキドキすることってある?」
    「そりゃああるよ、僕だって人間だもの。走れば心拍数は上がるし、緊張すれば動悸だってが起きるさ」
    「そうなのか。明智は意外と心臓に毛が生えてそうな顔してるから、ちょっと意外」
    「それを言ったら君の方こそ剛毛そうじゃない。何があっても動じないって顔してるよ」
    「そんなことない。俺だってドキドキすることはあるぞ」
    「へえ。それってどういう時?」
    「んー。明智と会うとき?」
    「あはは、何それ。緊張してるってこと?」
    「そうなんだけど、悪い意味じゃなくて。もっと、こう。別の意味でドキドキするっていうか」
    「別の意味って?」
    「お前といる時間は楽しいし、好きだから。こういうのって心が躍ってるって言えばいいのかな?」
    「さあ、どうなんだろうね。僕はそういうの、よく分かんないな」

    なんてことを言っていたそいつも、今は机に突っ伏したまま微動だにしない。
    首筋に触れても、何も動かない。動いているはずの心臓は止まっている。僕を前にするとドキドキすると言っていたコイツの心臓は、僕がこの手で止めた。
    止めてしまったものはもう動かない。もう一生、こいつと会うことは叶わない。
    お前と同じなんかになってたまるかと、あの日は強がって嘘をついた。僕だって、お前と話している時はずっと高揚感で胸が高鳴っていたんだ。

    今更認めたところで──それを伝える相手はもうこの世には存在しないというのに。










    ───次に目覚めたとき、そこは夢ではなく現実だった。
    薄暗い部屋の中、ベッドの上で横たわっていて、すぐ隣には蓮の寝顔がある。
    すーすーと穏やかな寝息を立てて、深い眠りについている。

    「…………」

    そっと手を伸ばして穏やかに眠る蓮の首筋に手を当てると、夢の中では動いていなかった脈拍を指先に感じた。
    かつて母にしていたように、丁度良く横向きで寝ている蓮のがら空きの胸に吸い付くように抱きついた。
    ドクン、ドクンと音がする。あの日、母の胸の中から聞こえたように。蓮の胸の中からも生きている音が聞こえる。蓮の心臓は、止まることなく、絶え間なく、ずっと動き続けている。

    「(……生きてる)」

    かつてはこの心臓を止めるために、あらゆる人間達を騙し、したくもない演技を沢山して、仮面を被り続けながら罠に嵌めた。
    殺意は本物だった。蓮の死体を見て、僕は確かに喜んだ。機関室でも絶対に殺してやると思っていたはずだった。

    けれど今は。
    この音が消えることが何よりも怖くて、この音が在ることにどうしようもなく安心する自分が、ここに居る。
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    manju_maa

    PROGRESShttps://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24435026の続き。

    明智先生過去編まとめ。
    『そうはならんやろ』がいっぱいあるけど勢いで読んでください。
    新任教師明智先生と前歴持ちの雨宮君の話⑧────『獅童正義』
    その名前と姿を初めて見たのは、中学生の時だった。
    社会科見学として国会議事堂に行った時に、あろうことか案内役の大人が当時はまだ知る人ぞ知る程度の認知度だったその男を連れて来たのだ。教育側の人間からしたら実際に現場で働いてる人間に説明させる方が子供の学習になるはずだ、という方針だったのだろうし、担任だった女も満足気にその話を聞いていた。周りのクラスメイト達も『へー』だの『すげー』だのと中身のない返事をしながら聞いていた。
    ……僕だけが、その男の顔を焼き付けるように見ていた。話は自分の心臓の音で何も聞こえなかった。
    母は生前に『まさよしさん』と知らない男の名前を呟きながら泣いていることがあった。それが父の名前であるのはなんとなく察していて、母の死後は何処にいるかも分からない『まさよし』をいつか見つけたいと思っていた。見つけて、どうして母を捨てたのか聞きたくて、ずっと迎えに来てくれなかったことを謝ってほしくて。ずっと。ずっと、いつか会いたいと。
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