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    J0bL9kNQiP73933

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    J0bL9kNQiP73933

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    続き、むつかしい。頑張るために途中まで書けたのを⋯

    #土銀
    hijigin
    #女体化
    feminization
    #先天性女体化
    congenitalFeminization
    #土にょ銀
    #土♀銀

    つれない向日葵(仮)あの日は何時頃の時期だったか、思い出せない
    いいや、忘れたいのだと思う。
    覚えていたらその季節の度、振り向いてしまうから

    けれども、腕の中で冷たくなっていく感覚。
    それだけは忘れ去ることが出来ず10年以上経った今でも鮮明に残っている。



    ───久方ぶりに見たな。
    遠くで蝉が鳴いている、夏本番だ。

    乾くはずもないのに額に浮かんだ汗を手の甲で拭きゆっくり起き上がった。すると蝉と一緒に混ざる声。

    時刻は朝7時半。
    俺と同じように暑さで夢見が悪そうな、汗ばんだ背中を揺する
    昨日の夜は少し冷えたから⋯長袖を着せたのが悪かった。

    「うぅ゙〜⋯」
    「神楽、起きろ。」
    「⋯⋯ぎんちゃ⋯おはようある⋯」
    「ん、おはよう。汗すげぇぞ、シャワー浴びる?その間朝メシ用意しとくから」
    「朝メシ!!銀ちゃんありがとネ」
    「あ、こら!その前に水分とれ!」

    食べ物関連の言葉を聞けばビーチフラッグばりに機敏に飛び上がり風呂場へダッシュ。若さ故の瞬発力すげぇわ。


    朝メシを支度してる間に新八も出勤してきていつも通りの朝。味噌󠄀汁をすすりながらテレビを着ければ今年も記録的暑さだのなんだのと気が滅入りそう。

    「⋯⋯そうだ、お前ら水浴びとか好きだっけ。ボーナスはあげてやれないけどそんくらいなら」
    「行きましょう」
    「行くアル」
    「はは、食い気味。どんだけ暑がりなんだよ。
    わかった、予定決めて室内プール行こうか
    俺はカナヅチだから荷物持ちするよ。だからお妙とか誘ったら?」
    「えー!銀ちゃんも浮輪あれば大丈夫でしょ、入ろうヨ!」
    「お前らパワフルだからぜってーすぐ穴あきそう」
    「そんな事ないです、イケますって」
    「その自信いっぱいな顔が明らかなんだってば。
    今日の依頼終わったらそのまま水着買いに行くぞ」
    「キャッホーイ!ごっさ可愛いの探すネ」

    波間の光を反射させたような、キラキラした目で喜ぶ二人。
    こういう顔に俺は弱い。誘ってよかった。
    その横で会話が分かってるのかしょんぼりな定春⋯今度水浴びしような。
    鼻の頭を撫でれば『別にいいけど』と拗ねたように見える。ごめんと頬もナデナデ。

    さてさて、財布が緩くなる予定が決まったんなら銀さん頑張んなくちゃね。

    ─それにしても、今日は本当に暑い




    ⋯⋯確かに、お妙誘ったら?とは言った。言ったけどさ。
    チケット売り場前にビニールカバンを持って集まったのはプラスアルファ九兵衛、さっちゃん、それに月詠までも。よく予定合ったな。

    「お前らも来たの」
    「妙ちゃんに誘われて」
    「うん、それはわかる」
    「銀さんのピチピチギャル姿が見れると聞いて♡」
    「うん、それはわかんねぇ。誰情報?」
    「⋯皆が楽しそうなもので」

    月詠、お前⋯新八神楽にするように頭に触れかけて耐えた。子供じゃねぇ相手に失礼だ。

    「アンタ銀さんにナデナデされようと屈んでんじゃないわよ!」
    「ち、ちがう、百円が落ちてたから拾おうとしただけじゃ!」
    「ま、いいや、新八ぃ良かったな。鼻の下伸ばすなよ」
    「ハーレムなのは否定しませんけどそんな目で見ません。」
    「よく言うアル、最近銀ちゃんにくっつかないようめちゃくちゃキョドッてるクセに」
    「それは言わないでよ神楽ちゃん!」
    「ハイハイここで立ち話も何だし早く中入ろうぜ。地面の照り返しもキチィわ」

    皆が皆騒ぎかけた所で手を叩けばこっちを向いた。俺引率の先生?

    「着替え終わったら出入り口すぐにあるベビープール横のベンチ集合な」

    「「「「「「はーい」」」」」」

    あ、今日はそんなスタンスね。オッケーオッケー。



    銀さんが僕達に初めて涙を見せてくれたあの日から、よく笑うようになった。
    あの人自身、よく表情が変わる人(特に変顔)だけれども。
    毒気の無い純粋な笑顔を、気の置けない相手には見せつつある。気がする。

    本当は喜ばしい事なのに⋯なんだか少し、寂しいと思ってしまうのは僕が子供だからだろうか。

    あの人は『親の顔を知らない』と話してくれた事がある。けれどもあの人の微笑みは、僕も知らない母ときっと同じなのだろう。その笑みを独占出来ない事がきっとつまらないんだ。

    銀さんの心を突き動かした人、土方さん。
    僕達だけでは出来なかった事を成し遂げた、その事も。

    姉上が近藤さんにアピールされている時はまたか、としか思わないのに⋯銀さんへ土方さんがアピールしている時は⋯銀さんが、僕達に見せない顔をするから。

    ──いけないいけない、今日はせっかく遊びに来たんだ。めいいっぱい元取るくらい楽しまないと!


    気を取り直して着替えを済ませ集合場所に行くと、もう既に銀さんが待っていた。

    ⋯あれ?女性って身支度に時間がかかるイメージだったけど。
    銀さんが身につけているのはゆったり長袖長ズボンの、ジャージみたいな真っ黒い水着
    簡素な格好だけれども海パンだけの僕の方が遅く出たのは考え事をしたせいかな

    「銀さん早いですね」
    「まあな、支度は早い方なんだよ」
    「銀さん居なくなったと思ったらもう待ってたんですか、てっきりお手洗いかと」
    「うぎぎぎ⋯!」
    「猿飛、その顔やめなんし。シワが寄るぞ」
    「そう言うアンタこそ眉間寄ってるじゃないのよ!銀さんのせっかくステキカワイイをカメラに納めようと思ったのに」
    「銀時、ホントに君は泳がないんだな」
    「元から荷物番のつもりだったからな。」

    続々と集まった女性陣たちは皆華やかで、周りの男性がチラチラ見ている。けれども声をかけないのは銀さんのオーラがあってだろう。
    これも見越していたのか。自分の事は二の次で。

    「新八、神楽、元取る勢いで楽しんできな。」
    「銀ちゃんと遊べないのつまんないヨ」
    「⋯俺もちゃんとのんびりしてるから。それにお前たちが楽しそうなの観てる方が俺も楽しいの」
    「⋯わかりました。銀さん、ありがとうございます」

    僕より小さな手がぽんぽんと、神楽ちゃんと僕の頭に触れる
    銀さんの微笑む顔、これは嘘をついていない。
    ならばその言葉に甘えるしかない

    「おめーら、水の中でも喉は乾くからな。適度に上がって水分取りに来いよ。」

    入口の時と同じように、皆でいいお返事。
    いざプールに行こうと歩き出した時、銀さんから手を差し伸ばされた

    「ほら、お前さん眼鏡ないんだから」
    「⋯はい、」
    「新八ずるいヨ、私も!」
    3人で手をつないで足元に気をつけながらゆっくり歩く。
    神楽ちゃんと目が合い、楽しもう、とお互いに笑い合った



    平日なのもあるけど、早い時間に来て良かった。
    休憩用のスペースは選び放題に空いている。
    テーブルに荷物を置いてその横、サマーベッドに腰掛けながらゆっくり息を吐く

    それにしても、この施設かなり規模が大きいな。
    遠目にはかなりの高さのスライダーに流れるプール、波が出るやつまで。

    テレビでやってたから少し遠いけれど、と思いつつ連れて行ったが
    無邪気に笑う姿を見たらそんな苦労も無いに等しい。

    プールとか、行楽とか、そういったものに俺自身『楽しそう、楽しい』と言う感性が薄いのか、参加しても周りの空気に乗れない。
    自分がその輪に入るのは難しいから、大人数で来れて⋯それも良かった。


    隣に誰かが座ってきた。こんなに空いてるのに何だよ、トナラーか?

    右に目をやる。

    「うおっ、お前か」
    「お前じゃない桂だ。一月ほどぶりだな」

    髪が邪魔にならないようにか、文化祭のJKみたいな高い位置の団子頭。似合ってんのがなんかイラっとくる。
    そして何故かモリまで持っている。人工プールに魚なんぞ居るか。そもそも危険物だ、よくセキュリティ通れたな⋯

    あの事件の情報交換以来会っていなかったが、相変わらずらしい。
    大江戸ビルにあの日戦える女たちが集まり、全員大きな怪我無く済んだのはコイツが影で動いていたからだろう。
    個々の配置や誘導の迅速さ、コイツでなければあんなに上手く行かなかった。


    「今日はあまりにも暑いのでエリザベスと涼みに来たのだ。偶然に会うとはな。」
    「確かに、今日は本当に暑苦しいわな。」

    ⋯エリザベス、普通にプール入ってる。
    水に浸かるのに適さなそうな風体してるのに物ともしてねぇ

    「銀時も涼みに来たのだろう。それなのに見てて暑苦しいな」
    「俺は荷物持ちとアイツらの引率。それにこれもちゃーんと水着なんだぜ」
    「⋯昔と変わらないな」
    「何時の事を言ってんだか」


    室内でも外と劣らずキラキラ光る水面を眺めため息までとは行かない呼吸をする

    ─覚えているさ。あの時は、俺も俺なりに楽しんでたよ。


    まだ幼かったあの頃、先生と、お前らと過ごした時間
    あの時は確か、村塾の男の子達が川に遊びに行くって言うんで先生が何かあったらのためにと付き添いに行ったんだ。そんで一人留守にしておけないって連れて行かれた。ほぼ強制的に。
    俺は木陰でそれを眺めたり、冷やした西瓜を切ったり手伝いしたっけ。

    そんでアイツに『暑苦しい見てくれしてんな』って、喧嘩売られて取っ組み合いして川に落ちて⋯。

    そん時俺はお咎めなし、アイツはゲンコツ食らってた。



    「⋯⋯綺麗になったな、銀時。」

    ぼんやり物思いにふけりきる手前に横から豆鉄砲くらわせるものだから鳩になった。

    「⋯俺がんなおべんちゃら言われて喜ぶとおもってんの?」
    「適当なことを言ってはいないさ。
    銀時、お前は幼い頃から容姿の事で物を言われるのを好まないのはよく知っている。そう言った物差しで測られる前に距離を取るのも。
    だがもうその柵にとらわれなくとも良いと分かってきたのではないか?」

    「⋯最初こそはそうだったよ、でももうこの年でいきなり分かりましたって割り切れる話じゃねぇ。
    それに、後ろ向きなわけじゃねえさ。
    ここ最近で色々変わっちまったところもあるけど⋯今はこの身体、嫌いじゃないよ。
    心配かけて悪かったな。ありがとう」

    これは混じりない気持ち。素直に伝わったようでヅラも口角が柔らかく上がった

    「して銀時、嫌いじゃないと言えばあの幕府の犬とはどうなっ」

    言い切る前に背負投。全力でプールにぶち込む
    礼を言った俺が馬鹿だった

    「お前そこもデリカシー持てやコラァ!今その話関係ねぇだろ!急カーブでデリケートな話ぶち込んでくんな!」

    仰向けにゆっくり浮上してこっち見てくる。ギョロ目怖っ。コイツ答えを聞くまで諦めないつもりだ

    しかも最悪な事にさっきまで何ともない顔して遊んでた奴ら全員がダンボ耳でこっち来やがった

    「そうよ〜銀さん最近土方さんと急接近したって言うじゃないですか」
    「私は断じて許さないわ!銀さんは私だけの女王ブババ、ツッキー水かけんじゃないわよ!」
    「で、どこまで進んだ。ABCのどれじゃ。」
    「アンタも結局気になるんじゃないの!私より聞いてる内容えげつなゴボボ」

    矢継ぎ早に騒ぐ声、やっぱこう言うのは余り好まないな。
    『聞いてくれるな面倒だ』と顔に貼ってみても誰も見ちゃいない

    「なんですと銀時殿、もしやアレヤコレヤホニャララなドブフっ゙!」
    「何時から着いて来ていた貴様!」

    うーわ最悪、東城も居たのかよ
    でもラッキー、一瞬全員の視線が俺から外れた瞬間。その隙にトンズラしてやった




    ◇◇◇◇◇

    「あの天パ荷物番数分で逃げるんじゃないわよ」
    「ならお妙さん、この俺が請け負いますよ⋯もちろんあなたのハートの見守り番もね」
    「お前も何時からいたこのクソゴリラ!動物園に帰れ!」




    ワーワーとやかましい所からやっと離れられた。
    空調は体を冷やさないためか高めに設定されているようで、水に入らなければじんわり汗ばむ

    気分転換も兼ねて自販機か売店でも行くか。ズボンのポケットに手を入れコインケースをチャリチャリ振る

    手が、止まる。足さえも。
    今日はやけに人が集まると思っていたが、お前らもか。

    道行く乙女たちの目線を奪い、離さない男二人。
    江戸の町どころか水辺でも変わらず。それ所か熱量が凄い
    そりゃあそうだ、顔も良けりゃ体も良い。

    コインケースをにぎりしめる
    切れ長の目と視線が合った


    頭を過ぎる紅紫色。

    ──なんで今、思い出したかな。


    「来てたのか。奇遇だな。」
    「お、お前さんこそ、こんな浮ついた所に来るなんて珍しい⋯」
    「まあな。つーか、こんな格好で入っていいのか?」
    「ああこれ?これでも水着なんだぜ。それに今日は荷物番。」
    「荷物番、か…」

    あの日図鑑を置いていった日から、土方は俺に感情を隠すことを辞めたらしい。明らか残念そうに見える。

    あの日はほんの少し、少しだけ心拍がとくとくと早まる感覚があったのに


    今はそこが、その心拍と共にヒリつく


    「うおぉっ!?」

    気が抜けた瞬間に膝カックンされた。
    振り向いたら沖田君で⋯構えと言う顔をしていてちょっと笑ってしまった

    「旦那、どーも、あの時ぶりで。すっかり調子いいようで何より。
    それとも、旦那よか姐さんの方がいいですかぃ?」
    「無一郎君久しぶり。旦那呼びのがいいなぁ」
    「総一郎ですらねぇんですか総悟です。旦那が名前呼んでくれねぇんならこっちも要求飲めやせんぜ銀時さん」
    「おま、ぎっ…!!」

    あらら、土方完全に乗せられちゃってる。
    そうこうしてる間に後ろからてちてち足音がしてきて腕に重み。
    神楽が抱きついてきた。その横には新八も。

    つい可愛くて水ではりついた前髪を流す
    気さくに挨拶する新八を他所に火花が散る

    「オイコラサド野郎気安く銀ちゃんに話しかけんな」
    「うるせぇちっさいものクラブ、月光町に帰りやがれ」
    「んだとゴルァお前もそこまで背ぇ高くないアル」
    「え、俺も入ってんの?」
    「旦那こそ会長でしょうよ。チャイナよか少し高い⋯大体160って所ですかぃ」
    「無一郎君しれっと当てるんじゃないよ。会長って⋯それは聞き捨てならねぇなぁ」
    「まあまあ銀さん落ち着いて」
    「何余裕ぶっこいてんだ新八コラァ、伸びしろあるからって調子こくなよ」
    「おかげさまで、銀さんのご飯が美味しいからですよ」
    「あ、ああ、そう⋯そりゃどーも。」

    個々の感情が、それぞれにぶつかっているのを目線や声で何となく感じる
    俺達少し前までそんなんじゃ無かったよね

    ああ、面倒だ

    「神楽、今日はもうよしときな。総一郎君も。
    喧嘩するなら帰るからな」
    「ぶーっ、分かったヨ」
    「ならよろしい。飲み物買ってくるけどお前ら何がいい?持って行くからあっち行っておいで」
    「じゃあ僕はお茶で」
    「私黄色いアレがいいアル、シュワシュワの」
    「じゃあ俺は乳酸菌入ったやつでお願いしまさぁ」
    「オメーには聞いてねぇよ他所さんだろが」

    遠くから私はあれ、わっちはこれ、と続く
    新八神楽と沖田君は大人しく遊ぶようでプールに戻ろうと背を向けた。お利口さん。

    「たく、あとで徴収すっかんな!」
    「坂田、一人じゃ持ちきれねぇだろ。俺も行く」
    「え、いーよお前らも遊びに来たんだろ。」

    坂田呼びにみじろぐ。慣れない、ヒリヒリ。

    「元々誘われたんだよ、近藤さんに。ここにゃ設備の整った温泉もあるって引かねぇもんだから。十中八九そう言うこったろうと思ったが⋯」

    ああ、なるほどね。お妙居る所に俺あり、と思ったわけ。下心すら隠さないとは

    ⋯で、近藤はまだ見てないけどどこに

    横を見やり、居た。目の前に。奥にはお妙が鬼の形相で投げきった姿勢、目先に駒ないし、今で言うハンドスピナーみたいに回転して飛んで来た

    え?ハンドスピナーはもう古い?うるせぇバカ。

    体中が激突しても尚近藤の回転は止まらない
    頬を腫らしべそをかきながら止まろうともがく手は
    ──俺の衣服に引っかかった

    金具が下がる音は布を巻き込んだのか悲鳴を上げる
    ズボンのポケットにももう片方の手が巻き込まれた

    オイオイどんなクソゴラスイッチだよ
    血の気が引いたのが自分でもわかる。咄嗟に踏ん張ることすら出来ない

    複数人の俺を呼ぶ声は一気に聞こえなくなった




    目の前で話していた坂田が一瞬で消えた。それと同時に横で上がる水しぶき

    「銀ちゃあああん」
    「さ、坂田ああぁ」
    「銀さん何処ですか!!どうしよう、あの人泳げないのに」

    眼鏡をかけていない眼鏡が目をこらすもピントが合わないのだろう、みるみる顔から色を失う

    「総悟、近藤さんを頼む」

    状況を判断しきる前に荷物を投げ捨て、返事を待たず音の無い世界へ飛び込む

    勾配がついておりここは最も深いのだろう大の大人でやっと足が着く深さ
    近藤さんたちが底に体を打った可能性は低そうだ。

    水底に目を凝らせば──居た。
    運動神経が良い人間とは思えない、手足をジタバタさせながら藻掻いている。

    泳ぎ進め坂田の肩を掴めば気がついたのだろう、動きが止まった
    腕が俺の胴に絡む。それでいい。光の方へ昇る


    「ぶはあっゲホッ」
    「しっかりしろ、大丈夫か!」


    プールサイドには坂田の安否を見守る女たち。
    大きく咳き込みながら頷く顔を見れば一気に緊張が解れ、複数人の安堵の息が聞こえた。

    近藤さんはそっちのけ、端っこに追いやられてる。
    総悟が対応しているから問題はないだろう

    プールサイドに泳ぎ進め、手をかける

    「坂田、上がれるか」
    「⋯⋯⋯ああ、行ける、先上がっててくんない?俺泳ぎたい気分になったから。」
    「何言ってんだ、足ついてねぇだろ⋯」

    水面に出て気がついた。先ほどまでぴったり閉じられていたチャックが開いている。その中を少しでも見られたくないのか布をたぐり寄せていた

    そういえば飛び込む直前、坂田のズボンらしき物が水面に浮いてるのが見えた。見渡す。
    ──見当たらない。女たちの誰かが持っている様子もない。

    坂田の顔色は恥じらいの赤とは正反対

    女たちに離れるよう手を振れば察したのか
    坂田を見ぬよう目を逸らし席を外す

    「ここ、掴めるか。」

    ここ数回見た、取り繕う余裕のない表情でもう一度首を縦に振る
    プールサイドに手を乗せたのを確認してから腰を支えていた腕を離し、先に上る
    なんの気もなしに持ってきておいて良かった。バスタオルを荷物の中から引っ張り出す

    「今着てるの貸せ、直す。その間これ使え」
    「⋯わかった」

    このまま居るのは心地が悪いのだろう、大人しく黒を脱ぎ陸に置いた

    その下に現れたのは、鎖骨の下、腕に横一直線にあしらわれた白いフリル。

    ─この領域は見てはいけない。一歩後ろに立ちバスタオルを広げ目を閉じた

    坂田はそれに気を許してくれたらしく、陸に上がりタオルを受け取った

    「目、開けるぞ」
    「⋯うん」

    視界を開けると坂田は居ない、と思ったら下。
    しゃがみ込んでいる⋯腰でも抜けたか?

    俺もそのまましゃがみジャージの金具を直せるか試みる

    「直りそう?」
    「分からねぇ、布が噛んでやがる⋯⋯あ。」
    「あ」

    金具以前に、布の縫合部分が思いっきり裂けていた。
    これはもう着ようがない

    「⋯⋯⋯」

    考え事をしているのだろう。普段百面相の坂田に表情が無い

    「帰るのか」
    「⋯帰りたい。けど、帰りたくない。新八神楽がせっかく楽しそうなのに」
    「テメェがんな顔してたら楽しいも何も無いだろ」

    布に成り下がった黒を床に置く

    「⋯そのタオル、着けたままならいけそうか?今度返してくれりゃいい」
    「⋯次会うための口実?」
    「そうだな、それが名案だ。」

    目にかかった髪すら気にかけられないのだろう。白い額に触れる
    肩を震わせたが、嫌がる素振りは無い。ささやかな喜びを感じつつ表に出すまいと後ろに流してやる

    坂田の顔をこんなに間近に、しっかりと見たのは初めてだ。
    この女は普段性を隠しているが、だからといって身だしなみに無頓着な訳では無い。

    整えられた眉、きめ細やかな頬
    髪色と同じまつ毛と伏せられた朱

    この女は、愛らしい

    「腰、抜けたか」
    「抜けてない」
    「なら立てるか」
    「⋯⋯」

    ここまで消沈した姿、原因は何か。俺の中で思い当たる理由はまだ一つしか無い。

    「⋯あの夜とは違ぇ、今はお前を脅かす奴は一人も居ない。それどころか見知った顔全員、お前の事を案じている。」

    まるで一人、どこかの世界に閉じ込められていたような坂田の目が覚めたように動き、女たちを見やる

    席を外したとはいえ、皆が皆坂田に見えない様なところには居らず、気にかけた視線を送っていた
    ─数人、俺に対してつまらなそうに見えるが。

    「もう、大丈夫。立てる」
    「そうか。」

    俺が立ち上がれば坂田もおずおず脚を伸ばす
    マトモに酸素を送れていなかったのだろう、ふらついた体を咄嗟に支えた

    「⋯ぶねぇ、また落ちる所だったぞ」
    「⋯⋯悪いね」

    坂田はもう、今を見ている
    けれども何処か、影を落としていた



    呼吸がまだ整いきらない。手足の先が痺れ、震える。

    危なかった

    元々ジャージの下は脱ぐことも無いと何かを着る予定は無かった。でなければ今頃⋯考えたくもない

    ──あれはそう、先日デパートで買い物した折の事

    ああじゃない、こうじゃないと神楽のファッションショーを見守りやっと決まった水着。
    新八も飽きた素振りもせず俺自身も楽しくて2人で『可愛い』『似合うよ』と褒めちぎったから小一時間ほどかかった

    「おし、会計行くか」

    会計レジへ歩く途中、目をつけていた黒へ流れるように手を伸ばしカゴへ。
    そのまま数歩歩くと後ろから2人に腕をつかまれた
    先程のふくふくとした顔は何処へやら、何だか不満そう。

    「銀ちゃん、それにするアルか」
    「おう、安いし楽そうだし」
    「銀さんも自分に買ってみたらどうですか」
    「いやいや、俺水に入らないしチャラついたの苦手だから」
    「⋯じゃあこうするのは?これの下に水着着るネ。それなら誰にも見られないしいいでショ?
    銀ちゃんの好きって気持ち、大事にするアル」
    「⋯⋯好き、か⋯」
    「本当は嫌いじゃないんでしょう?たまには自分の事、甘やかしてあげて下さい」
    「⋯⋯わりぃ、フードコートで少し待っててくれるか」

    俺はあの時、どんな顔をしていただろうか
    それを見た二人は嬉しそうで、でも少し泣きそうにも見えた


    ──1人で悩み、選んだ水着。
    誰にも見せない、秘密だったのに。

    土方に気を取られていた自分が不甲斐ない。普段なら避けれたハズなのに

    近藤の事をぶっ叩いてやろうかと思ったが、そもそも伸びているし今は1ミリも隙間を開けたくない

    バスタオルでも体全ては隠しきれない、腰回りまでは見えているだろう。

    誰も見ないし見せない、今日着るだけと試着すらしなかった。くすんだ茶色い、ハイウエストのパンツ、両サイドには編み上げた紐、余りはリボンになる作り
    上は白、フリルが大きく何だか安心感があったから。それで選んだ。
    パンツも飾り気が無くズボンの下からデザインが透けないだろうと高を括ってた


    最悪だ、もっと質素なものを選べばよかった
    ほんの少し、浮かれていた。ぐるぐるとマイナスな思考が頭の中で渦巻く。

    だからといって、この最悪な空気もう断ち切りたい。

    「いやぁ、わりぃわりぃ。この通り何ともねぇよ」

    黒を手に取る
    タオルを羽織ったまま、待っている奴らの所へ戻る

    「ごめんなさい、銀さん⋯」
    「んな気にすんなって、お前がゴリラ投げ飛ばすのいつもん事だろ。」
    「土方さんと楽しそうな物だからつい⋯」
    「オイ待てコラ話変わってきたぞ。前言撤回ふざけんな」
    「銀さん怪我はなぁい?私が隅々余すことなく診てあ・げ・る」
    「ヨダレ垂らしながらこっち見んな目玉潰すぞ」

    キレキレのボケとツッコミをかませば誰とも言わず吹き出し笑う
    ほんの少しぎこちないけれど。

    そう、それでいい

    「オイ土方、ゴリラ起きたら言え。百叩きの刑⋯⋯」

    そういえば、ズボン何処行った。現状の把握に気を取られ過ぎていた。ポケットの中にはコインケースが入っていたのに

    先ほどまで沈んでたプールをみても、まばらな客の中に黒は見当たらない

    「⋯マジでか。やっちまった。」
    「どうかしたか」
    「ズボン中に金入れてたんだよ。無くなっちまった。誰か見て無かったか」
    「すまない、僕達の方からでは遠目で⋯」
    「ねぇって事は、誰か拾ったか⋯?ちょっくらスタッフん所行くわ。お前らもう大丈夫だから遊んでてくれ、心配かけたな」
    「銀さん、僕着いて行きましょうか」
    「あー、大丈夫、小銭しか持ってなかったし大事じゃねぇからさ」

    気にかけてくれる奴らが居るのは、ありがたい
    自然に出た笑みをもう取り繕うことはしない
    皆の顔を見やって背を向け歩く

    足元が心許ないけれど、ここまでなら、大丈夫。


    ◇◇◇◇◇

    「⋯銀時、アレだな。てるてる坊主というやつだな」
    「銀さんちゃんと見ると、本当はちんまりしてて可愛いのよね。九ちゃんも可愛いけど!」
    「妙ちゃん⋯っ」
    「どうしよう⋯私、抱きつきたくて仕方ないの⋯ぶっ飛ばされても構わないわ、寧ろそれがいい」
    「銀ちゃん背の事言われるの嫌がるアル、内々だけの話にするネ」
    「⋯⋯あの人、普段は背中が大きく見えるのは何でだろ。やっぱり腐っても侍、背筋が伸びてるからかな」
    「それもありんすが、きっと、そうして身を守っていたんだろう⋯そうしなくとも良いようになればいいが」



    スタッフに落とし物が無かったか聞けばサービスカウンターに届いているかも、と丁寧に対応頂いたので礼を言いひたひた歩く

    少し距離がある、ホント規模すげぇなここ。
    スライダー、3カ所あんのかよ。あとでアイツらに声かけよ。

    一人になれたおかげか、気持ちの切り替えも早く終わりそう。ゆっくり落ち着くよう呼吸を意識しつつ呑気に歩いていたら人を呼ぶ声。⋯⋯ん?俺を呼んでる?


    「お姉さん、お一人?」
    「⋯いや、違うけど」

    チャラい野郎が2人、肩を並べて前を遮る

    「お姉さん超お尻キレーって思ってさ、なんかスポーツ?とかやってんのかなぁって」
    「オイオイ、兄ちゃんもしかしてナンパってやつ?」
    「そうそう、そういうヤツ〜。連れの子女の子?だったらオレらと遊ばない?」
    「あー、辞めときな。ダチと来てるがお前さんらじゃ役不足だ。それに年増に声かけるなんて時間の無駄だせ、他あたりな」
    「え〜そんな事言わずにさぁ〜俺らお姉さんの事メロいって思ってんの、飽きさせないからさぁ」
    「何ならナイトまで?お姉さん超上手そうだし」

    「こっちが下手に出てりゃ⋯こう言えばいいか?
    黙れ。失せろ。」

    「⋯チッ、調子乗ってんなよブスが」
    「こっちが誘ってやってんのにお高くとまってんなや」


    こっちは上手い下手どころかした事すらねぇっつの。

    夏は脳まで湯だった阿呆がうろついて鬱陶しいったならない。
    少し睨んだだけで逃げた羽虫はサービスカウンターでついでに報告しておくか。

    さっきから立て続けに問題ばかり、気の休まる隙も無い
    せっかくのんびりうたた寝しようと思っていたのに⋯
    溜息ひとつ、振り返る

    「⋯で、何でお前来てんの」
    「来ちゃ悪いか」
    「おーおー、おっかない顔」

    気配で気がついてはいたが、鬼みてぇな顔した土方が居た。まるで自分が言われたかのようにキレてやがる。

    「落ち着きなよ、あんなのよく居るカスみてぇなもんさ。アイツらにとっちゃ都合のいい女はべっぴん、そうじゃないのはブスなの」
    「なら、お前はチャイナや志村姉が同じ事されたら黙ってられんのか」
    「ははっ、無理だなぁ」

    たしかに、矛盾がおかしくてつい笑ってしまった
    それに土方も怒りが消えたのか表情筋が一気に緩む

    一歩離れた感覚で歩く
    どうやらこの男、ボディガードをしてくれるらしい

    「⋯昼飯、どうする予定?」
    「適当に何か買うつもりだ」
    「俺らん所、皆が皆大量に弁当作ったらしくてさ。まあ神楽が食いきれるだろうけれど全部食べさせたらあの子暴れて吐くし。良かったら食べる?」

    熱に浮かされているのは、俺も、らしい。
    後ろの足音が止まる

    「あー、人の作ったもん無理な感じ?だったらわり⋯」

    振り返り、俺の足も止まる

    「⋯なんつー顔してんのさ。」

    土方の顔が、赤い。引火したみたいに俺の頬も熱い。
    胸の中がヒリヒリと早い心拍で忙しない

    「⋯有り難く頂戴する」
    「かしこまり、すぎでしょ。」

    先日も、さっきも、土方に世話になりっぱなしで
    ほんの少し礼になるかと深く考えず口走ってしまった
    女達が囃し立てるのを好まないくせに、そうなる材料を自分から用意するなんて阿呆は俺の方だ。

    ◇◇◇◇


    中途半端に会話を終わらせた赤い耳の2歩後ろをついて歩く
    飯の誘いは表情からして何も考えてないなかったのだろう。ここ最近、坂田の考えている事が分かりやすい。気がする。

    それは俺の自惚れか、坂田が俺に気を許しているからか

    どちらでも構わない。てるてる坊主の下を暴かれた時の無表情よりか、今の方が百倍良い。

    サービスカウンターには無事、求めていたものが届いていたらしい。

    「⋯安物買いの銭失いって、言葉の通りだな」

    口をへの字にして広げたそれは、近藤さんの馬鹿力で上と同様裂けて使い物にならないようだ
    ⋯その他に、3カ所連なって空いた穴。
    何が原因か謎だがそれがあっても無くても使い用が無い。

    「土方、飲み物持ってくれるんだろ。手伝え」

    また考え込むかと思った横顔は直ぐ様普段通りの気だるさを取り戻していた
    どうフォローを入れるべきかと頭を働かせたが取り越し苦労のようだ。この女、身体と心、両方更に強くなったらしい。

    「それが人に頼む言い方か」
    「最初にお前が言ったんだろ有難がれよ」
    「とんだ女王様だな」
    「なんとでも言いやがれ」

    近くの自販機の前に立ち何度もしゃがみ立ちを繰り返す小さな尻
    ⋯⋯⋯男の性だ、コレだけは了承願いたい。

    背にも目があるのか
    腕を引かれ『お前がしゃがんで取れ』と目で訴えられた。悪かったな。



    良いか悪いか、布切れの上にボトルを乗せる事で人数分の水分を抱え持つ事が出来た。

    「銀さん土方さんお帰りなさい」
    志村姉を先頭に、女達がニヤけ顔で俺達を見やる
    隣で聞こえる溜息はそこそこ大きいが誰も気に留めるつもりは無いらしい。
    そして俺も、その内の一人なのは否定出来ない。
    各々水分を受け取る

    「荷物番ならホレ、2人になった。銀時も好きにしなんし」
    「いや、だから俺そういうの良いって」

    サマーベッドに寝かせられてる、まだ目を覚まさない近藤さんと、柳生の所のロン毛

    そのまた隣に坂田も背を丸めて座る
    近藤さんの隣だと尚更小さい。



    ──坂田を見る視線はもう一つ。鼻息も荒い

    「⋯オイ。あまり見てやるな」
    「アンタには言われたかないわよこのぽっと出野郎。ついこの間は?オイタすんなって言ったけれどそういう意味じゃ無いわ、勘違いしないでよね。アンタの事認めた訳じゃないんだから」

    俺の前に立ちはだかるストーカー女。面白い、ふっかけられた喧嘩は買ってやるタチなんだ。
    向かい合い睨み合う

    「よく言うぜ、オメーみてぇな百合キャラ、もう柳生の方で腹いっぱいなんだよ。ぽっと出だぁ?俺のほうが坂田と面識ある時間は長い方だ。テメェの方がぽっと出だざまあみろ」
    「お、おい、二人ともよしなんし」

    間にフック女も入ろうとするが知ったこっちゃない

    「銀ちゃーん、ボールとって〜」
    「はいはい、そらよっ」
    「旦那ぁ、中々良い投げで。ちょいとラリー参加してくだせぇよ」
    「何度言わせんだ、そっちに行かねぇって言ってんじゃん」
    「ならそこからで良いんで、銀さんも居てくれた方が繋げやすいんでお願いします」
    「しゃーねぇなぁ⋯」

    俺達のことを知らぬふりで坂田はガキ達とビーチボールでラリーを始めた。視界の隅でタオルの角を結びマントのようにした坂田。正直、見たい。

    しかし、今はそっちよりかハッキリ白黒つけなければならない。紫頭に目を離してなるか、自然界で言えば目をそらした方が負け。ここでも然り。

    「何よ、アンタは銀さんの事ちっとも分かってないクセに!アンタより私の方が銀さんの事理解して愛しているわ」
    「理解してるだぁ?テメェは一方的にストーキングして覗き見てるだけだろうが、面と向かって話した数は俺のほうが多いってんだ」
    「だったら銀さんのこだわりとか知ってるわけ?アタシはねぇ、銀さんが寝起きにまず何をするかすら知っているわ!教えてやんないけどね、羨ましいでしょ〜アンタの負けよ!」
    「俺だってクセの一つや二つ知ってるぜ?オメーには俺だって教えてやんないけど、何なら日が暮れるまで話せるけど、それでも教えてやんないけど!」
    「キーッざけんじゃないわよだったらアンタが知る由もない事言ってやらぁ銀さんのカップサイズはBeautifulのび」

    ──バチン
    発砲音に近い音が響く。ストーカー女の側頭部で何かが破裂し吹き飛んだ。そしてそれは俺にも。

    ⋯⋯⋯俺まだ何も言ってねぇ。
    意識が途切れる直前、フック女の呆れ冷めた目が見下ろしていた


    ◇◇◇◇◇

    「いやぁ旦那ナイスアタック」
    「たまにゃこう言うのもいいな、俺ワンチャン選手になれんじゃね?オリンピックいけんじゃね?」
    「だとしたら銀さん身長が足りないわ、あと15センチは欲しい所よ」
    「俺は平均身長だ!おめーらが大きいの、この今ドキ娘め!⋯あれ、九兵衛どうした?」
    「⋯身長なら僕のほうが小さい」
    「何言ってんだ、お前さんまだ18だろ、まだまだイケるって、魚食っとけ」
    「じゃあ何で銀ちゃん好き嫌いしてないのに伸びなかったノ?」
    「⋯痛いところつくなよ」



    東城、近藤、さっちゃん⋯そして土方
    屍集団は放っておいてそろそろ飯の時間だなぁと月詠と二人飲食スペースで支度をしていると、散り散りに遊びに行ってた子供らが集まって来た

    「おなかすいたアル」
    「だろうな、めいいっぱい遊んでんの遠くからでも見えてたぜ」
    「姐さん、ご馳走になっていいんで?」
    「姐さんじゃなく旦那な。俺らの所だけじゃないからね、ツッキーと九兵衛とさっちゃんにも礼言いなよ」
    「あら私も沢山用意して来たんですよ?」
    「あー、紙皿持ってきといて良かったなー」
    「ねえ銀さん聞いてます?聞けやコラ」

    1.2⋯総勢11人、かなりの人数ではあるが女子全員がやれ日輪が晴太のついでだ、東城だ、と物理的な愛が大きい弁当を持参していたから事足りるだろう。
    さっちゃんのは⋯勝手に開けるのは忍びないので起きてから頂くとしよう。

    お重持参の三人と違い、万事屋で作った弁当は神楽の腹が満たされるようにとおにぎりが半分、残りは卵焼きに唐揚げ、タコやカニ、ウサギのウインナー(神楽希望)明太スパにハンバーグなどなどとオーソドックス

    支度が終わった所で沖田が携帯で連絡したのであろう復活した四人も合流してきた

    ワイワイわやわや皆が皆喋るので収拾がつかない。土方がこっち見て物申したげだけれども知らんぷり。

    あぐらをかこうにもこの人数、それに今の格好ではこう⋯鼠径部周辺を見られたくない。
    上か下か、今隠す場所は下
    正座を続けるには床が固い、少し崩してひざ掛けのようにタオルをかける

    全員用意が出来た所で揃って手を合わせいただきます。
    コイツらの言葉を大事にする所を見ると、なんだかんだこの縁は良いものだと思える

    「いやぁまさか飯を頂けるなんて有り難い、また何か礼をしないとな!」

    近藤が先の惨事を忘れ大層ご機嫌に笑っている
    まあ、これくらいあっけらかんとしてないと妙しかり色々やっていけねぇわな。

    そんな近藤と目が合った。二度見、三度見。

    「⋯⋯⋯え?」
    「どうかしたか、近藤さん」
    「え、ァ、エト⋯」
    「近藤さんち◯かわになってますぜ、アンタの図体じゃあ真逆でさぁ」

    俺の事を驚きの表情でギョロギョロ見ている。
    お前はそんな事だろうと思ったよ

    「よ、万事屋って、女の子、だったってコト⋯」
    「あっっっきれた、貴方知らなかったの?流石ゴリラね銀さんの玉のような肌を見れば一目瞭然でしょう」
    「僕の時でも思ったが、勘が鈍いな」
    「先は銀時の服を破いたのだぞ、謝りなんし」
    「銀ちゃん困ってたアル、謝るネ」
    「そうですよ、銀さんに謝って下さいついでに消えて下さい」

    「ええええ知らなかったの俺だけ嘘嘘だと言ってねぇ新八君」
    「僕に振らないでくれます?銀さんに謝って下さい」
    「新八君もそっち混ざるの」

    女子のブーイングと謝れコールが響く中、男たちはあーあやったな。のあきれ顔
    その中で唯一怒りのオーラを纏うものが一人

    「近藤さんアンタ⋯報告書呼んでねぇな⋯⋯」
    「あ〜そ、その時はその、色々忙しくてさぁ」
    「アンタはストーキング集中月間だとか抜かしてたろーが」

    ギャーギャーやかましくて飯そっちのけ。周りの客もドン引き。

    「お前ら他所さんに迷惑だろうが、そもそも言ってねぇし近藤が知らなくて当然だって。」
    「⋯⋯⋯万事屋⋯ごめん。」

    あーあ、小学校の学級会かよ。べそべそ泣いて謝られていいよ、なんて。
    とはいえ、俺自身かなり変わったものだ。少し前ならきっとこの空気に堪えようともせず離れていただろう。
    それを越えて、今は自分の性を偽りなく言えるとは。

    「俺自身、あんまし言いたくなかったからさ。今考えたら無茶な話だけど」

    無意識に眉がハの字に下る。いい意味で諦めがついた。
    なんだか胸が、すっと軽くなる。

    こんな事ならもう少し早く言ったら良かっただろうか
    ⋯いいや、今この瞬間だからこう言えたんだ。
    皆が皆、俺の事を待っていてくれたから

    「そうか、それであの時⋯トシがやけに調べ物をしていたのは万事屋が関与していたからか」
    「オイ近藤さんそれは」
    「そうそう、旦那のために土方のヤツ、やれ薬や、やれホルモンや調べ倒してたんですぜ」
    「⋯テメェ、勝手に人の部屋漁ったな」
    「専門書返してもらいに来ただけでさぁ」

    え、なにそれ、初耳なんですけど。

    晦冥の中を彷徨っていたあの時、土方の行動は確かに俺にとって最善だった。己の事しか考えられず、感情のまま怒りをぶつけ泣きわめいたというのに⋯土方は嫌な顔一つどころか俺を見る目は温かいもので。
    まさか、そう対処出来たのは普段から足りない時間を割いてまで俺の事を。

    考えている事は女子達も同じように感じ取ったようで
    まるで男子に書いてもらった友達手帳の『好きな人は◯◯なんだ!」に名前があったかのようにキャーどころかギャーと騒ぐ

    「まちなんし、詳しく話せ!」
    「土方さんが銀さんを姫抱きして歩いてたのは同僚から聞いてましたけれど献身的すぎません!?」
    「姫抱きですって!?アンタしれっと2度も銀さんの事抱いてんじゃないわよだったらあの時アタシが抱きたかったわ」
    「猿飛、その言い方は齟齬をきたしすぎているぞ。⋯ハッ、そういえば東城から聞いていたが、新八君神楽ちゃんに花を買っていたそうじゃないか。丁寧にラッピングもしていたと⋯まさか貴様!」
    「マヨラ、銀ちゃんに花言葉つきの図鑑渡してるアル」
    「アンタまじでか、キザすぎるでしょうよ。
    少女マンガ読んで脳みそシロップ漬けにでもしたんですかぃ」

    待て待て待て、お前らどんだけ情報知ってんの?筒抜けなんて所じゃねぇ
    俺恋愛バラエティ番組出てたっけ?俺常にカメラの前立ってたっけ?

    女子の圧に流石の土方もたじろいでやがる
    近藤の次は土方がちい◯わだ。

    他人の惚れた腫れたの話は面白おかしく聞けると言うのに
    自分のこととなると遊びに参加する以上に気が乗らない。

    ──それどころか不快感が積もる。

    だからといって、この空気を一蹴してしまう方が一番つまらないだろう。

    「銀さん、これ全部本当なんですか!?」

    食い気味の妙の目は年相応に輝いている

    「あー、まあ、そうだね」

    周りと自分に薄い壁が出来上がる実感を持ちながら、口角が上がり目を細める

    余裕の微笑みに見えたらしい。騒ぎ声は一層大きくなった

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