想いの、贈り物/なるみか 三月三日。
なるちゃんのお誕生日。
朝に手芸部の部室に寄ってから教室に行った時には、もうお目当ての席は満員御礼やった。
「嵐ちゃん先輩! おめでとーなんだぜーーっ」
楽しそうな声がして、キャッキャキャッキャとはしゃいでいる後ろ姿が見える。
光くんが、A組のアドニスくんとなるちゃんのお誕生プレゼントを持ってきとったらしい。陸上部はほんま仲良しさんやなぁ。
ありがとう、って笑うなるちゃんの机の上にはプレゼントっぽい紙袋がいっぱいあって、なるちゃんはさすが人気者やね~っておれも何かうれしなってくる。
他にもKnightsのひとたちや、なるちゃんは友達多いからいろんなひとにももろてんねやろな……。
完全に出遅れてもたし、ひとの輪のなかに入ってくんもできひんから、手に持っとる包みを後ろに隠しながら自分の席に座る。
窓の外を眺めながら楽しそうなみんなの声となるちゃんの声を静かに聞いとったら、唐突に勢いよく背中押されるみたいにイスにだれか座ってきてぎょっとする。
「んあっ!?」
「みかりん、おはよ~」
肩越しに見てみたら寄りかかっとる黒い頭があって、同時にのんびりした眠そうな声がするからホッとして体の力を抜いた。
「も~、驚かさんとってぇや~……」
「ね~ね~、みかりんは~?」
「……?」
勝手にイスに半ケツしてきた凛月くんは、体重をおれの背中に預けながらそう聞いてくる。
何のことかわからへんくて首傾げとったら、後ろからおれの肩にあごを乗せて、それ。って膝の上に置いとる包みを見てた。
「ナッちゃんにそれ、渡さないの?」
めっちゃバレとる……。
うぅ~ん……って唸りつつ、なるちゃんの席の方をもっかい見てみる。
あかん……。
さっきよりひと増えとる……。
「ん~……おれはあとでええわ……。今まだみんないっぱいおるし……」
肩を落としながら言うたら、ふ~ん。って耳の横から凛月くんの声。
そんで、今度はいきなしぎゅ~って抱き締められた。
「みかりん、いいこいいこ」
「んあ~! 頭撫でんとって~! ねむなってくるやん~!?」
「よ~しよ~し。じゃあ一緒にお昼寝しよう~」
「まだ朝やから~!」
頭撫でてくる凛月くんにツッコむけど余計撫でられて、あかんねんて……! 前髪のあたり撫でられたら、ほんまウトウトさんなってまうやろ……!
前からずっとそない言うてるのに凛月くんはやたらおれの頭撫でたがる。抗議してみても凛月くんはさらにム●ゴロウさんよろしく撫で続ける。
もう寝ようとしてる凛月くんと一緒にだんだんまぶたが重なってきたら、てめ~ら寝るな!! って、大神くんに二人いっぺんにどつかれてもた……。
「みかちゃん、ちょっといいかしら?」
結局タイミング掴めへんくて全然なるちゃんにプレゼント渡されへんまま放課後になった。
今日はもうやめよかな……なるちゃんプレゼントいう名の荷物もいっぱいあるし、明日にしよか……思って帰る用意してた時やった。
なるちゃんの方から、声をかけてきてくれた。
慌てて鞄の横の包みを背中に隠したら、なるちゃんは楽しそうに、手招きをして教室から出てこうとする。
ここやったらあかんの? って思いつつ、これはチャンス到来なんちゃうん……!? って、おれもプレゼントを背中側に隠したまま急いでなるちゃんの後を追う。
なるちゃんはもうええんやろか……。
まだ教室おったら、ほかのひともお祝い来てくれるんちゃうん……。
ぼんやりそんなこと思いながら、なるちゃんの背中を眺めて廊下を歩く。
なるちゃんの周りにはいつもひとがいっぱいいてるんを、ちょっぴり寂しく感じることに気づいたんはけっこー最近やった。
最初は、羨ましいんかな思とった。なるちゃんは明るいし優しいし、そらお友達いっぱいできるやんって、そんななるちゃんが羨ましいんかと思っててん。
でも、なんかそれも違う気ぃしてきて。
何やろ。なるちゃんがほかのひとと一緒におったら、おれはなるちゃんの近くには行かれへんから。それがちょっと、ほんまちょびっとだけやで? ちょびっとだけ、寂しいんちゃうかなって。
そう気づいてもた。なるちゃんはなんもわるないのに。
そない思う自分が嫌で、なんや、ひとりぼっちやった昔の自分に戻ったみたいで。
せやけど、めっちゃ自己嫌悪なってひとりでおったら、
「みかちゃん」
……こないな風に。
なるちゃんが迎えに来てくれんねん。おれの手ぇ取って、どっか一緒に連れてってくれんねん……。
今もちょっとだけ振り向いておれの手を取ってから、また歩き出す。
廊下を進みながら、ドアの小さい窓から中を覗き込んで、誰もいない練習室に入ってく。
なんか知らんけど泣きそうになりながら続いて中に入ったら、なるちゃんが奥の窓側までおれを連れてってようやく振り返った。
「……さて。みかちゃん、アタシにまだ言ってない言葉があるんじゃない?」
腕を組んでドヤ顔のなるちゃんは、泣きそうなおれに気づいてか一瞬だけ困ったように微笑んで、またすぐにドヤ顔に戻る。
…………なんでなるちゃんは、おれのことこんなに分かるんやろか……。
きっとなるちゃんは、おれが今日ずっとプレゼント渡されへんくてうだうだしとったのなんお見通しなんやろね。
せやからこないして、自分からその機会を作ってくれてんねやろ?
もうほんま、かなわんわぁ……。
なるちゃんがさすがすぎて、おれもようやく笑えた。
せやね。せっかくのなるちゃんのお誕生日やねんから、こない暗くなんしてたらあかんかったわ。
「……なるちゃん、お誕生日おめでとぉ~」
おれがそう言うたら、なるちゃんも、笑ってくれる。
「ハイ、よく出来ました。……んもうっ、遅いわよっ」
「ごめんなぁ……今日はみんながお祝いしてくれてるから、明日にしよかとか思ってもた……」
「明日じゃ意味ないわよ!! もう、あんたって子は……!」
褒めてくれてからほっぺた膨らませるなるちゃんに正直に白状したら、ぷんすこ怒りつつデコピンされた。
「んぁ~っ!」
「その後ろに持ってるやつも! まさか持って帰ろうとしてたんじゃないわよね~!?」
「ん、んん……そ、ないなこと……」
「あるわね。その顔は」
問い詰められて言葉濁しとる間にも、なるちゃんはズバズバおれのこと当ててく。
なるちゃんに隠しごとはできひんわ……って諦めて、後ろに隠し持ってた包みをなるちゃんの前に出す。
「……アラ、何かしら?」
白々しく聞いてくるなるちゃんやけど、その顔はめっちゃ楽しそう。
これが何やなんて絶対分かっとんのに、それでも聞いてくるんは優しいんかイケズなんか紙一重やね……。
「あんな……、これ、お誕生日プレゼント……」
言わされてる感満載やけどちゃんと言うたら、なるちゃんはクスクス笑ろてる。
ありがとうっておれの手から包みを受け取って、開けていい? って聞いてくるからうなずく。
なるちゃんの綺麗な指先がリボンをほどいて、柔らかい袋を開けた。
中身を覗いてたなるちゃんのスミレ色の目が、中のもんが何かを分かったからかだんだん細なって。
優しい微笑みでなるちゃんが袋からそれを取り出した。
「……可愛い。みかちゃんが作ったの?」
なるちゃんへのプレゼントは、くまちゃんのぬいぐるみ。
おれの好きな緑色のリボンを耳につけて、リボンとフリルつきのケープみたいなんを着せてる。いちおうこの子、女の子のつもりやねんけど。
「作ったいうか……型紙が元からあるやつやけど……。最初おれの自由に作ろ思っとったらお師さんが、相手の部屋に合うかも考えた方がええんちゃうって……」
たしかになるちゃんのかわいいもんばっかの乙女な部屋に、かわいいけどちょっとグロいぬいぐるみは合えへんかもって思ってもた。
あと、ケープはかなりお師さんの手を借りてるのはナイショにしとく……。
そっと優しくなるちゃんの手に抱かれたその子は、それでも不安そうに見える。
なるちゃんはこの子のことどない思う……? っておれも不安になって、前髪の隙間から見たら、なるちゃんはくまちゃんを抱っこして頬ずりした。
「アタシのお部屋に合うようにって、さらに可愛くしてくれたのね。ありがと」
くまちゃんとおれに微笑んで言うてくれるから、良かった~ってホッと胸を撫で下ろす。
おれもホッとしたけど、くまちゃんも安心したみたいやった。
かわいがってもらうんやで~。嬉しなっておれも撫でたら、くまちゃんもなんや嬉しそうに見える。
「大切にするわね。…………でもっっ! みかちゃん。アタシちょっと怒ってるんですからねッ」
「んあぁ? う、うぇっ……!? な、なんで!?」
ほんわか和んでたのに、急になるちゃんがこわい顔をしておれに顔を近づけてくる。
くまちゃんを挟んで恨めしい目で睨んでるなるちゃんに、つい、びくぅぅってキョドってまう。
「そりゃそうよ。みかちゃんには一番最初にお祝いして欲しかったのに、まさか下手したら明日に持ち越されそうになってたなんて……!」
「ご、ごめんて……。なるちゃん、ほら、この子もびびってんで……」
「許さないわよっっ! お詫びに、もう一つ欲しいものがあるから頂戴っ」
くまちゃんのラブリーさで、もっかい和ませよう作戦も失敗や……。
相当おかんむりななるちゃんをどないしたらええか分からんくて、ううう……って唸るしかないわ……。
「せ、せやかて……あんま高いもんとかあげられへんよ……? なるちゃんあとほかに何が欲しいん……?」
「……じゃあ。みかちゃんの飴、貰おうかしら?」
何言われるんかビクビクしてると、なるちゃんがそう言うて目の前でにっこり笑ろた。
「飴ちゃん……って、そんなんでええの? それやったらいっぱい……」
構えたわりに何でもあれへんもんを言われて肩すかし食らった感じで、ポケット漁ろうとした手を掴まれて。
そのままくまちゃんがおれの胸元に渡されて。
そしたら、今度はなるちゃんの手がおれの顔を挟んで。
気ぃついたら、なるちゃんの顔がどアップになっとった。
ぱちくりまばたきしたら、おれの睫毛がなるちゃんの睫毛に当たる。
「ん……っ!? ん、ん……んっ、……ぅッ……」
何が起きてるんか分からへん間に唇の隙間からあったかいぬるっとしたもんが入ってきて、おれの口の中を舐めまわすから、さらに訳分からんくておもわずなるちゃんの制服にしがみついてもた。
ぎゅ~って目ぇつぶってみたら、なんや音がやけに耳に響くし背筋痺れたみたいになるしでさらにパニクってくる。
息苦しなってきた頃にようやく解放されて、必死に新鮮な空気吸ってたらクスクス笑う声がした。
「みかちゃんの飴ちゃん、もらっちゃった~っ」
まぶた開けてぼやける視界で見たら、イタズラが成功したみたいな顔でなるちゃんが笑ろてる。
笑いながら口開けて、べろの上の飴ちゃんをおれに見せた。
「…………っっ!? んんんんううぅぅんんんっっ……!!!????!???!!」
それがどうやらおれの口に入っとった飴ちゃんやて気づいた途端に、声にならん悲鳴で手で口を押さえてまう。
な、なな、何しとんの……!?
なるちゃん何やっとんの、い、今の、ちゅー、しかもベロチューとかいうやつちゃうん……!!!????
顔から火ぃ吹き出しそうなくらい真っ赤になるおれと違て、なるちゃんは涼しい顔で笑ろてる。
混乱しすぎて距離を取ろうとしたら、おれとなるちゃんの間に挟まれて潰されかけてたくまちゃんが落ちそうになって、慌てて手で受け止めた。
「……ひょっとして、みかちゃんのファーストキスかしら?」
こっちは心臓が飛び出そうなほどバクバクいうてんのに、悪びれずに聞いてくるなるちゃんを恨めしげに見てまう。
せやねんけど、素直に言うのも悔しいから精一杯記憶を辿って無駄な抵抗をしてみようとする。
「ふ、ファーストキ……、キ……っ、ちゅ、ちゅーは……ジローに捧げたんやからっっ」
……あかん、キ、き……す……やなんて言葉めっちゃ恥ずい。恥ずかしくてよぉ言わん……。
「ジロー……? 男の子?」
「お、男の子! ……あれ? いや……、もうあん時じーさんやったっけ……?」
「…………人間?」
抵抗を見せたのになるちゃんの鋭いツッコミが入る。
「…………い、……犬やけど……」
「ノーカンで。じゃあそのジローさんとやらの次かしら?」
「次は……っ、うんと、あっ! アレや!! ヤッさんと、あとエリザベス!!」
「……今度も犬?」
「ぬ、ぬいぐるみ……」
「それもノーカンで。生きてる人間でカウントして」
ごまかそうとしてんのに、なるちゃんは許してくれへん。むしろだんだん声も低なってきとるし、目はとりあえず据わってる……。
あぁああ……あかん……。
これもう逃げられへんやつや……。
正直に言わんかったら絶対なるちゃん許してくれへんぽい……。
でもそんななるちゃんは、口の中でおれから強奪した飴ちゃんを転がして舐めてるぽくて、なんでなるちゃん平気やねん……おれむっちゃ顔あっついのに……。
「い、生きてる人間やったら…………。……なるちゃんが、はじめてやけど……」
…………あかん。
なんやこれ、恥ずかしすぎて死ぬ……。
くまちゃんに隠れるようにしてボソッと言うたら、なるちゃんが嬉しそうに、あらあらあらあら~! って緩んでく口許を隠すように手ぇを口に持ってってる。
「あら~! じゃあアタシ、みかちゃんの大事なものもらっちゃったのね~っ」
「~~~っっ、もうっ!! その顔腹立つわ! なるちゃんのアホ~~!!」
わさとらしくニヤケるから、くまちゃんの手ぇ掴んでおれの怒りと一緒にぽかぽか叩いてみるのに、さらになるちゃんは嬉しそうに笑う。
くっそ~っ、くまちゃんの駄々っ子パンチも全っ然効いてへんやんっっ。
ぷぅ~ってほっぺた膨らしてくまちゃんと一緒に抗議の姿勢を見せたら、そんなおれらを見て、なるちゃんがごめんなさいねってようやく謝ってきた。
「でもこれでおあいこ。アタシのお誕生日を祝うのが遅くなったお詫びに、みかちゃんの大事なものもらったんだから」
なるちゃんもおれみたいにほっぺたぷぅ~って膨らして、おれのほっぺたとくまちゃんのほっぺたつついてくる。
それもそうやねっておれもなるちゃんのほっぺたつついて、同時にほっぺたの空気が抜けて二人で笑い合う。
…………うん、でもほんま、良かった。
なるちゃんのお誕生日、今日おめでとう言えて。ほんまに良かった。
んふふ~って自然に笑顔になっとったら、なるちゃんが、何か思い出したようにこっち見た。
「……? どないしたん?」
おれの声に微笑むなるちゃんは、うっとりとした目で自分のほっぺたに手ぇあててる。
あ、これ……アレや。なるちゃんが乙女ちっくなん入ってる時の顔やわ。
「んもう~、これ、ほんとなのかしら……あぁんっ、やだ~ぁ……っ」
腰をクネクネさして自分の体も抱き締め始めるから、いよいよもって乙女モード炸裂な感じやで……。
「何がほんまなん?」
「だってみかちゃんは初めてなんでしょ? ほら、昔からよく言うじゃない? ファーストキスは……」
「レモンの味って……」
完全に乙女モード入ってるなるちゃんが、片手を口許、片手を胸元に置いて口の中の飴ちゃんをモゴモゴいわしてる。
「みかちゃんちょうどレモン味の飴舐めてるんですもの~……。……え? レモン味よね、これ?」
「ん~……なるちゃん、これな……」
うっとりしつつも、人工甘味料だと似たような味よねって言うなるちゃんには申し訳ないんやけど……。
そんななるちゃんの夢を壊すようでほんま言いにくいんやけど……。
「これ……。ゆず茶味やねん……」
静かに教えたったら、なるちゃんが急にヒス起こすみたいにイヤァァァーーーーッ!! って叫び声を上げた。
「な、なるちゃん……ど、どないしたん!? 大丈夫……!?」
「何!? 何なのその微妙な味……!? 何でゆず茶!?」
「凛月くんが昨日くれてん。おいしーやろ?」
「せめてゆずじゃない!? 何で『ゆず茶』なの!? そこ、『ゆず味』で良いじゃない!?」
「でも、ゆずかてほら、なんやっけ……んっと……せや! 柑橘系? やし!」
「そんなフォローいらないわよぉぉ~っっ!!」
落ち着かせようっていろいろ言うてみるけど、乙女の夢をぶち壊されたショックは相当みたいで、なるちゃんが暴れ始めてまう。
んあ~っ、あかん。おれには暴走乙女な時のなるちゃんは止められへんねや……。
そもそもなるちゃんは乙女やけど、力は強いんやから……って思てるうちに、気ぃついたらなるちゃんがおれの両肩を掴んでた。
ほら、ほら……っ!
今かてこれ、なんやおれの肩、ギチギチいわしてるから……! なるちゃんの指、おれの肩にめり込んでるから……!
「な……、なるちゃ……」
「みかちゃん。レモン味の飴は? 持ってないの?」
「な、なな……なんで?」
「やり直しを要求するからよ」
やけに低い声で言うなるちゃんの目は、本気やった……。
そ、それ……そない大事なことなん……? ていうか、やり直しとかしたら意味ないんと違うん??
ツッコミたいけど、なるちゃんの目が本気すぎて下手なこと言うたらあかん気ぃする……。いや、確実にあかんやろ。生死に直結しそうや。
ポケットの中の飴ちゃんを確認してみる。
「レモン味はないわ~……」
ごめんなぁ~……って顔上げたら、思っとったよりなるちゃんの顔が近くにあって。
……ん? これ別におれが謝らんでもええんちゃうん? って思いつつ、おれの肩掴んでるなるちゃんの指にさらに力入ったんがわかって、あれ? そもそも何でこないなことになってるん?? って、慌ててくまちゃんを顔の前に出したら、ムギュウ……ってなるちゃんが顔面でくまちゃんにちゅーする形になった。
「…………みかちゃん」
「な、なるちゃん……。んと、えっとな……」
くまちゃんを手でどかしながら見てくるなるちゃんが恨めしそうな顔で見てくる。
そ、そんなんしゃあないやん……。
なるちゃんの顔近くにあるだけで、なんや、めっちゃドキドキしてまうんやから……。
「な……、何でなるちゃんは……。おれにちゅーするん……?」
くまちゃん越しにおそるおそる聞いてみる。
心臓ばっくんばっくんいうてんの、なるちゃんには聞こえたりせぇへんのやろか……。
おれの質問に、数回まばたきをして。
なるちゃんの眉毛が、ちょっと下がった。
「…………みかちゃんは……。嫌だった?」
「い、嫌やないけど……」
悲しそうに聞いてくるから、恥ずかしくてまっすぐに目ぇ見られへんけど、先にそこは否定しとく。
けど……? って続きを促すなるちゃんの指が、おれの肩から少し力が抜けてく。
ど、どないしよ……。
このままなるちゃんが離れてくのも嫌やから、なるちゃんの指がおれの肩から離れへんうちに、なるちゃんの制服をちょっとだけ掴む。
こんなん言うたら、なるちゃん困ってまう? しょんぼりしてまう……?
それでも意を決して、あんな、って口を開いた。
「めちゃくちゃびっくりしてまうから……さ、さっきみたいなスゴいちゅーは……もうちょい慣れてからにして欲しいんやけど……」
言うてから、自分で恥ずかしすぎて頭から湯気出そうになってくる。
数秒待っとってもなるちゃんから何のリアクションも返ってきぃひんくて、うう……。やっぱあかんねや……って恥ずかしさと一緒にだんだん涙も出てきた。
鼻すすりながらおそるおそるなるちゃんを見上げてみたら、なるちゃんは。
なんや少し震えながら、ほっぺたピンク色にして、涙目でおれを見てた。
…………んあ?
これ……。なるちゃんがかわいすぎるもん見つけて、悶え始める直前みたいな顔ちゃうん……? そう思った瞬間、
「みかちゃん……っっ!!」
くまちゃんごと、なるちゃんがおれをぎゅーってしてきた。
ぎゅうぎゅうしてから、おれの足浮くくらいにくるくる回りだす。
「なるちゃん、目ぇまわる~っ!」
「あぁんっ、アタシったら……! がっつきすぎてみかちゃんを恐がらせちゃうなんて~~っっ!!」
回りながらおれにめっちゃ頬ずりしてなるちゃんが謝ってくる。恐いは言うてないやん……! いや、ある意味今がいっちゃん恐いんやけど!?
ひとしきり回ってからなるちゃんがようやくおれを下ろしてくれた頃には、目ぇぐるぐるしててまっすぐ立たれへんくらいやった。
ふらつくおれを、なるちゃんの腕が支えてくれる。
気ぃついたらなるちゃんの顔はまた思ったより近くにあって、また顔が熱くなってきた。
なるちゃんはそんなおれの顔まっすぐに見ながら、一つ、深呼吸をした。
それからニコって笑ろて、目を開いた時には、まるで歌ってる時みたいな真剣な眼差しでそのスミレ色の瞳に、緊張しすぎて変な顔のおれを映してた。
「……お誕生日のプレゼントに。大好きなみかちゃんの、キスが欲しいんだけど。……ダメかしら?」
至近距離で、真面目な顔で言うなるちゃんの破壊力……ほんまあかんて……。えらいこっちゃ……。
イケメンにも程があるで……。これでオチひん女子、おらんよきっと……。
男のおれですら、かっこよすぎて直視できひんのに……。
ほっぺたがさらに熱くなってきて、なるちゃんはそのきれいな瞳を細めて、おれのほっぺたにかかってる髪を後ろに流してく。
ひええええ……。
何でなるちゃんは、普段かわええのにこないな時はかっこいいんよ……。
おでことおでこコツンてされて、心臓も脳内も大変な騒ぎになるからおもわず手に持ってるくまちゃんをぎゅって抱き締める。
なるちゃんが、おれにしか聞こえないくらいの声で、ねぇ? って聞いてくる。
その声ですら、ドキドキしすぎて自分が震えたんが分かった。
「…………ゆ、ゆっくりしてや……? 最初は……」
震える声で何とかそれだけ言えた。
最初て何なん……次もあるみたいになってもうたやん……。
自分の中でツッコんでれば、同じこと思ったんか、なるちゃんが小さく笑ろた。
なるちゃんは、軽く目を閉じて顔を近づけてから。
急に、ちょっと何か思い出したみたいにいっかい目を開いた。
何で下見るん? っておれもなるちゃんと同じように下見てみたら、腕の中のくまちゃんと目ぇ合ってもて。
見られてることに無駄に恥ずかしくなったおれにも気ぃついたんか、クスクス笑うなるちゃんは、くまちゃんの目許を手で隠してから。
今度こそ。
まぶたを閉じて、おれの顔に自分の顔を寄せてくるんやった。