15歳になった江澄、初めて親元を離れる寂しさと新しい環境に胸を膨らませ故蘇で机に向かう日々
姉の江厭離が金鱗台に嫁いでから出来た子供ということもあり周りの大人たちから愛され友人にも恵まれ美しく心優しい婚約者もいて慎ましくも幸せな日々を送る。
そんな江澄が気掛かりなのが蘭陵金氏の現宗主金如蘭との関係。
周りの大人たちが自分を蝶よ花よと可愛がってくれる中、金如蘭だけは自分に冷たく当たった。
無理もない。
彼は歳の離れた姉と先代宗主金子軒との子であり、血縁上は自分の甥となる。
突然現れた年下の叔父が煩わしいのだろう。
そう自分を納得させてざらついた寂しい気持ちに蓋をしてきた。
ある日江澄は故蘇藍氏の門弟たちと一緒に夜狩に行く事に。
藍氏の門弟たちの向かった大梵山で突然現れた食魂天女に劣勢を強いられることに。
必死で剣を振るうが未熟な体で太刀打ち出来るはずもなく江澄は地に伏してしまう。
とどめの一撃を食らうかと目を伏せた時ぱたり、と頬に温かい雫が落ちてきた。
恐る恐る顔を上げると
そこにはあれほど自分を忌み嫌っていたはずの金宗主、金如蘭が。
そして彼の腹には食魂天女の赤く染まった鋭い爪が突き抜けていた。
「金宗主!!」驚いて江澄が駆け寄ると金如蘭は苦しそうに微笑んだ
「金叔父上!!なぜこんな、なぜ私なんかを!!」
「江、晩吟……ははは、叔父は、お前だろう……」
そう答える金如蘭は腹に穴が空いているとは思えないほど穏やかな顔でこれから世間話でもしようとするようだった
「なあ、江晩吟。最期に一つ……頼みがある」
「それは、私に出来ることでしょうか…」
「私を……阿凌と、呼んでくれないか」
姉と同じ琥珀色の美しい双眸はとてもふざけているようには見えなかった。
「阿……凌…………」
望み通りにそう呼ぶと、金如蘭は花の綻ぶような笑みを浮かべた。
「江晩吟……私の……叔父上……」
血の気の失せた体はどさりと崩れ落ちその息は絶えた。
「金、宗主……なぜ、貴方は笑っておられるのですか……」
江澄は頬を伝う涙に構うことなく金如蘭の顔に手を添えた。
血の気のない白い顔は肩の荷が下ろせたと言わんばかりの穏やかな表情を浮かべていた。