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    pandame23

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    凌澄ワンドロワンライ
    第31回のお題【二日酔い】お借りしました

    💛💜は良いぞ

    #凌澄
    lingCheng

    二日酔い「ううん……頭が痛い……」
    「二日酔いだろう。全く情けない。お前ももう子供じゃないんだぞ」

     叔父上は寝台に仰向けになったままこめかみを押さえて唸る俺を見下ろしてそう冷たく吐き捨てると、濡らした手拭いを俺のおでこに載せて背を向けた。
    昨晩、この叔父は少なくとも俺の倍は酒を呷っていたのに不調を訴えるどころか顔色ひとつ変わっていなかった。

     まったく、澄ました顔しちゃって。誰のせいだと思ってるんだよ。
    俺は叔父上の背中を睨みつけて腹の中でそっと毒づいた。

     

    「なんだ、お前……叔父の酒が飲めないと言うのか?随分と生意気になったものだな」
    「はいはい……わかったよ頂きます」

     
     叔父上に酒を勧められてからかれこれ二刻くらいたっているが、叔父上は頬がほんのり桃色に色付いているくらいで殆ど酔っ払っていなかった。
    雲夢は古くから他国との交易が盛んで酒席を催す機会が多いということから雲夢の人間は蟒蛇の如く酒を飲むと言われている。
    そして例にも漏れず、この叔父もまるで茶を嗜むように次から次へと酒を飲み込んでいった。
    机の下に置いた盆には空いた酒瓶がどんどん積み上がっていき、叔父上が動くたびにかちゃかちゃと音を立てた。

     俺はたった今注がれた酒をゆっくりと口に含んだ。そして、叔父上が空になった酒瓶をその盆の上に置こうと目線を逸らした隙に、足元に隠しておいた手拭いにこっそり吐き出した。
    いくら酒が飲める年になったとはいえ叔父上に合わせて飲むなんてことをしたら体がいくつあっても足りない。
    修練を重ねれば酒精を金丹で消すことも出来るようになるらしいが今の俺には酒に慣れること以上に無謀なことなため、こうして叔父上の目を盗んで酒を吐き出すという姑息な手段しか使えないのだった。

     気を付けてはいたが、流石に俺も飲み過ぎたらしい。腹の下辺りがもぞもぞするあの感覚を覚えた俺はちょっと厠に言ってくるよと叔父上に声を掛けてふらりと立ち上がった。
    すると、俺は腰紐を後ろから強い力で引かれて畳の上に転がるとあっという間に叔父上の膝の間に引き摺り込まれてしまった。
    驚いて腕から這い出ようとすると、叔父上は俺を後ろからぎゅうっと強く抱きしめて長い脚を絡めてきた。

    「……どこに行く」
    「ちょっと、厠に行くだけだよ……離してよ」
    「うるさい」
     叔父上はそう言うと俺の髪に顔を埋めてきたり、すりすりと肩に擦り寄ってきたりと甘えるような仕草を見せた。
     
     何だよこの生殺し状態は……
    俺は着流しの上から太腿を抓って悶々とする気持ちを誤魔化した。
    肩に乗せられたその顔は安心しきっていて警戒心の欠片も無い。俺に組み敷かれることなどあり得ないと信じきってるのだ。

     この人は、口ではもう子供ではないなどと俺に言っておきながらも結局はこうして子供扱いをするのだ。
    俺が夜な夜な夢想するこの人はどんな姿をしているのか、俺にどんなことをされているのか、一度絵姿に描き起こして見せ付けてやれば多少は警戒心を持つようになるのだろうか。
    まあ、そうは言ってもとてもそんなことは出来ない。この人を傷付ける事は自分が傷付くよりもずっとずっと怖いことだからだ。


    「……ねえ、お願いだから離してよ。漏らしちゃってもいいの?」

     そう言えばいくらこの頑固な人でもいい加減に離してくれるだろうと思った。
    しかし、叔父上はいやいやと頭を横に振って更に強い力で俺を抱きしめた。
    肋の軋むごりっと言う音が肌の下で気味悪く響いた。

    「……どこにも行くな。ずっと、ここにいろ」
     子供が甘えるような寂しげな声で言われたその言葉が耳に届いた途端、背中をびりびりと電気が走って心臓が一瞬止まった。

    「なんだよ、それ」

     なんだよ。なんなんだよ。なんで急に、そんなこと言うんだよ。そんなの、まるで、
    「俺のこと、好きみたいじゃない」

     すると、叔父上は俺の肩に埋めていた顔を上げて不思議そうな表情を浮かべて
    「……俺は、お前が、嫌いだなんて一度も言ったことないぞ」と呑気に答えた。

     やっぱり全然わかってないじゃないか。
    叔父上を見る目が思わず鋭くなった。
    「貴方に、欲情してるって言ったら、笑う?」
    むしろ笑い飛ばして欲しかった。
    ここまで明確に相手にされていないことが分かるとやりきれなかった。
    叔父上は俺の肩に顎を乗せてくっく、と小さく笑うと
    「俺を口説くつもりなのか、お前は」と妙に艶のある声で問うた。
    「……はい。そうです」
    それに対して俺は自棄になった口調で返事をした。
    「……いいぞ」
    「…………へ?」
    「面白い。……俺を口説いてみろ。気の利いた言葉の一つでも言えたなら、褒美をやってもいい」
    「褒、美」
    「……そうだな、口付けでもしてやるか?」
    そう言うと叔父上は俺の唇を指でなぞった。

    「い、いん、で、すか……叔父上」
    「……俺が、お前に嘘を吐いたことはあるか?」
    叔父上は俺の髪を耳に掛けると、とろりと微笑んだ。
    酒のせいだろうか、目は潤んで目尻がほんのりと赤く染まり、唇はふっくらとしていて柔らかそうだった。
    もしそこに触れたなら、さぞかし蕩けるような味がすることだろう。
    ごくり、と喉を鳴らすと酔いが一気に醒めた。

    「叔父上、この金凌は、誰よりも貴方を愛しています」
    「……ほう?」
    「もしも、貴方と心を通わすことが出来たなら、私は……」

     どさり、
    「……は?」
    俺は突然糸が切れたように落ちてきた叔父上の体を抱えた。
    「……叔父上?」
    俺は恐る恐る顔に手を添えてみると、叔父上は静かに目を閉じていた。
    そして、叔父上、ともう一度声をかけてみても返事はなく、代わりにすうすうと小さな寝息が返ってきた。

    「嘘だろ……」

     人に向かって口説いてみろだなんて言っておきながら堂々と寝るだなんて無粋にも程がある。
    俺は心の底から脱力した。
    それと同時に、もうこの叔父は将来自分以外の誰とも添い遂げることは出来ないであろうことを確信した。

     俺は渋々叔父の体を仰向けにして寝かせ、机の上に置かれたままの酒瓶を引っ掴んで瓶から直接酒を呷った。

    「あーもう。やってらんないよ全く」

     こうなったらやけ酒だ。
    俺はどかりとそこに座り直すとすうすうと心地良さそうに寝息を立てる男を肴に一人で飲み直すことにした。

     もし明日二日酔いになったら、この男に介抱してもらおう。俺にはその権利はあるはずだ。
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