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    ちょこ

    主に企画参加の交流小説、絵など投稿してます
    よその子さん多め

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    ちょこ

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    エガキナ

    よその子さんお借りしてます

    琥珀は真っ暗な廊下で泣いていた、母親はどこかに出かけており家には琥珀しかいない。廊下に座り込み泣き続ける琥珀、窓から入ってくる薄暗い明かりだけが廊下を真っ暗闇にはしなかった。今日も母親から理不尽な暴言と暴力を振るわれた。一体自分がなにをしたのだろうか、琥珀には分からない事だらけだった。父親の顔もほとんど見た事がない、出張というお仕事でほぼ家に帰ってこないのを琥珀は幼いながらに知っていたからだ。
    左腕を優しく撫でる、母親から強く叩かれ、特に左腕を母親は執拗に暴力をふるう。そのせいが傷が酷く、一度それをみてしまった親友は酷く心配して治療をしてくれたこともあった。子供の治療だったが、琥珀はその気持ちだけでも嬉しかった。
    ズキ、ズキと左腕が痛む、また傷が残るのだろうかと琥珀は泣きながら考える。琥珀は心の中で自分にとっての勇気の言葉を呟いていた、親友が読ませてくれた物語、【リインと時の鐘】の主人公──リインのセリフだ。
    ──オレが、いるだろ!
    琥珀はその物語の主人公であるリインが大好きだった、どんな困難な状況でもその言葉で仲間たちを鼓舞して敵に立ち向かう。幼い琥珀にとってそれは衝撃的だった、それと同時に勇気を貰えていた。あの母親からの恐怖が薄れるのだ。
    「……リイン……」
    泣きつつリインの名前を呟くとふと、廊下から漏れていた月明かりが先程より明るく琥珀を照らした。思わずそっと顔を上げると綺麗な月が窓から見えていた。なんとなくだが、それを見てリインがやってきたような、そんな気がした。
    ──泣くな! オレがいるだろ!
    リインは物語の中の登場人物だ、ここにいるわけが無い。けれどリインの声が聞こえたような気がした。リインが自分を励ましてくれてるような、そんな気に。
    「……リイン……」
    まだ涙は出てくるが、琥珀はほんの少しだけ笑う。リインが居てくれるなら、この地獄のような日々が少しだけ明るい方へ向かってくれるのではないか、そう思いながら琥珀は母親が戻ってくる前に部屋に入っていった。

    琥珀は一人寮の部屋にいた。寮は一人部屋で部屋に備え付けで置かれている本棚から【リインと時の鐘】を取り出した、琥珀の好きな巻ではなく、最終巻を手に取っていた。琥珀はどこか悲しげな顔をしつつパラパラとページをめくる。
    「……リイン、俺、今日で十六になった。リインと同い年になっちゃったな」
    あれから六年がすぎた、あの日から少しずつ、少しずつ状況は代わり母親とは別に暮らし、中学上がる前に父親と暮らすようになったが、それでも父親とすれ違いを起こし、高校ではそんな父親から逃げるように全寮制の男子校へ進学した。親友も自分が心配だからとついてきたのには驚いたが、あの頃より平穏な日々だ。
    琥珀は本を持ったまま窓を見る、今は夕方で夕焼けが琥珀の部屋を照らす。どこか悲しげに、音も何も聞こえなかったこの空間に寂しさを覚えた。この【リインと時の鐘】の最終巻の話がどうしても未だに受け入れきれない自分がいた。作者であるカナタにも酷いことを言った、琥珀は本の表紙をそっと触る。
    琥珀は去年から認可作家として活動していた、今は読み切りの短編などを書いてる程度だが、作者として活動するうちにカナタに罪悪感を覚えていった。カナタは、あんな最終話を描きたくて描いた訳では無い、気づくのは遅くなったが分かったのだ。分かったのだが、受け入れきれない。その苦しみを抱えていた。
    「……リイン」
    十歳の頃、あれほど心躍るかのように読んでいて、物語にでていたリインは、自分の傍にいてくれてると思っていたのに、十六歳になった琥珀からしたらリインが消えてしまったかのような感覚に陥っていた。最終巻のように、誰もリインの事を、冒険を、覚えていない。そんな事を思ったからか、琥珀は一人部屋で静かに涙を零した。
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    ちょこ

    DONEダミアさんお誕生日小説
    ダミアさんお借りしました!お誕生日おめでとうございます!
    モンブラン「ダミア、お誕生日おめでとうございます」
    「おー! ありがとな!」
     レイフが借りている拠点と言っていい住まいにダミアを呼び、目の前にケーキを出す。ダミアと前もって連絡を取っていたため、こうして呼べたのだ。ケーキはレイフの手作りだ。本当なら、料理も出そうかと言ったのだが、間髪入れずに断られてしまった。今度こそ上手く作れるような気がしたのにな、とレイフは残念そうに思いながらも、ダミアを見た。
    「このケーキ……モンブランか?」
    「そうです、アマロンを使ってます」
    「へー! 王様って呼ばれてるやつじゃん!」
     ダミアは感心したようにケーキを眺めた。アマロン、様々な栗の中で特段に甘い栗の事だ。身も大きいのだが、育てるのが難しく、しかも、大きく育てようと魔力を使うと、すぐに枯れるという性質を持っていた。なので、完全な手作業、時間をかけてゆっくりと育てる。そのため、栗の中の王様、という意味で【アマロン】と呼ばれるのだ。一粒だけでも驚くほどの高額で取引される。その高額さに、一時期偽物のアマロンが出回るほどだった。偽物のアマロンと区別を測るための道具すら開発されるほどに。
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