名前 エリーの豪邸の庭、丁度綺麗にバラが咲き誇っており、先程まで少し雨が降っていたからか、花弁や茎は濡れていたが、ジュードのエガキナで晴れにしたからか、太陽の光で雫が反射し、宝石のように輝いていた。
ぼんやりとバラをみつつ、そっと手に触れる。ジュードの顔立ちがいいからか、まるで絵画を切り取ったような雰囲気を醸し出す。そんな時、誰かに声をかけられた。
「あ、天気の子くん」
声が聞こえた方に視線を向けると、そこには連理がいた。エリーの知り合いの連理はこうして遊びに来る。最初の頃、連理のことを認可だと勘違いして、連理の頭上に大雨を降らした事があったのだ。後に勘違いに気づいて慌てて謝ったのは記憶に新しい。それにしても、連理がエリーと同じ無免なのが今でも信じられない、彼の纏う雰囲気がどうしてもそうには見えなかったから。
そんな連理は、ジュードの事を『君』や先程のように『天気の子』と呼んでくる。あの騒動で名前を教えそびれた……みたいなものだ。一応名前は教えたのだが、恐らく相手は呼んでいいのか分からないのだろう。エリー以外に名前を呼ばれることはあまりない、だから慣れてないところもあった。エリー以外に、名前を呼んでくれた相手は、この世にはいない。
けれど、名前を教えたのだ、名前で呼んで欲しいところもある。
「……別に名前でいい」
「え?」
素っ頓狂な声が聞こえて、思わず笑う。自分の名前は、天気の子ではない。
亡くなったツクリテから、忘れることのない形あるものが、自分自身なのだから。
「……大事なヤツが俺の名前を決めてくれたから、名前で呼んで欲しい」
そう微笑むように笑ってジュードは連理を見た。エリーに引き取られてから、指摘されるまで気づかなかったが、どうも自分は感情を出せているらしい。意識したこと無かったが、もしかしたら、この暮らしに安心しているのだろう。
ジュードの言葉に連理は微笑む。
「じゃあ、名前で呼ばせてもらうね。ジュードくん」
実は、連理の事を名前で呼んでいいのか迷っていた。エリーの事ですら、名前で呼ぶのに時間がかかった。名前を呼んだら、別れが辛くなる。線引きをしてしまう。けれど、相手が呼ぶというのだ。自分も呼ばないと、おかしいだろう。
「……よろしく。……れん、り」
慣れてなさそうに相手の名前を呼んだ。