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    猫カフェの猗窩煉
    ■現代パロディ
    ■猫カフェの猫の煉獄と常連客の猗窩座っていうとんでもパロディです

    #猗窩煉

    大きな光取りの窓から午後の柔らかな日差しが差し込んでいる。青空に浮かぶ雲の動きは穏やかで、時折窓の外を飛んでいく野鳥の羽音までが聞こえてきそうなほど、静かで、平和な一日だ。
     窓枠へ肘を付き、眼下の路地をあくせくと行き交う人の姿を見下ろす金髪の青年の胸には、猫の顔を象った朱色の名札に「きょうじゅろう」と丸い癖の付いたひらがなが記されている。ここ、ねこカフェ藤屋敷の看板猫の一匹だ。

    🐈

     入店は完全予約制、手荷物は入口横のロッカーに預け、手指の消毒をしながらスタッフからキャストの猫との触れ合いかたのレクチャーを受ける。きまぐれな猫たちと効率よく戯れるためのおもちゃ各種は有料オプション、一日数量限定で販売されているおやつもまた、猫を近くに呼び寄せたい時に重宝する有料課金アイテムだ。
     陽が差し込み、ほかほかと陽光のぬくもりを蓄えたソファーの一角、微睡み半分に寛ぐきょうじゅろうの尻尾が不規則にしなり、尾先でクッションをたしたしと叩いている。目と鼻の先には、有料オプション品である、ふわふわのモールで出来たねこじゃらしが揺れている。

    「きょうじゅろう、お前うちの子にならないか。」
    「ならない。」
    「うちに来い、来ると言え。」
    「行かない。」
    「強情。」
    「君にだけは言われたくないな!」

     きょうじゅろうが腰掛けているソファーへ凭れ掛かって、その鼻先で猫じゃらしを振っているのは常連客の薄紅色の髪をした青年だ。来店初日にきょうじゅろうを見出してから、ホームページで公開されている展示情報を逐一チェックし、きょうじゅろうが店先に顔を出す日は決まって来店をする熱心な客である。課金アイテムのおもちゃとおやつを抱えて、きょうじゅろうがどこで寛いでいようとも駆け付ける姿は、きょうじゅろうのTO(トップオタ)と言って過言ないだろう。キャスト猫の嫌がること、無理に抱っこを強いること、追いかけまわすこと等の禁止行為を全く行わない優良な常連の一人であるものの、ちゃっかりと店外での接触を匂わせる勧誘が目立ち、要注意リストに名を連ねている一人でもある。

    🐈🐈

     ねこカフェ藤屋敷にこたつが導入された。都内で今年初めての雪が落ちてきた日に届いた新品の四人掛けこたつは、クッションフロアが敷き詰められた、普段であればボールや走るねずみのおもちゃを追い掛けて遊ぶプレイブースの一角に設置された。空調の温風が届きにくく、窓の近くということもあって冬場は肌寒く、寒さに敏感なキャスト猫たちがなかなか寄り付かなくなったデッドスペースに熱気が戻る。
     電源を入れたばかりのこたつ布団から、毛足の長い尻尾が二本伸びている。くるくると絡み合って巻いている二本の尻尾が、まるで風に揺られているようにゆっくりと揺れている。こたつ布団の中には、きょうじゅろうとその実弟のせんじゅろうが、兄弟仲良く身を寄せ合って眠っている。あまり暑さ寒さを苦にしない兄のきょうじゅろうに比べると、せんじゅろうはもっぱら寒さに弱く、店内換気の為に窓を開け放つと直ぐに尻尾の毛を逆立てて、兄の背中に張り付いてその体温で暖を取ろうと試みるほどだった。
     ツイストドーナツよろしく絡み合った尻尾の愛らしさに、客の一人がそうっとこたつ布団を捲ってその中を覗き見る。二回りほど躯体の違う弟をその胸に抱いたままのきょうじゅろうが、本当に微睡みの中だったのか疑いたくなるような程のぱっちりと開いた瞳で、暖気が逃げる隙間へ視線を向ける。すうすうと眠ったままの弟が冷気に気が付いて目を覚まさないようにしっかりと腕の中に抱き直すと、視線の先の客へほんの僅か申し訳なさそうに垂れた眉尻を見せる。そんな顔をされてしまってはこれ以上、兄弟の昼寝タイムを邪魔できる者はいないのだ。

     こたつ布団が再び下ろされるのを見届けるきょうじゅろうの視線に、薄紅色の人影が映る。いつもきょうじゅろうが気に入って寛いでいるソファーに腰を下ろして、黒色の立ち耳を揺らすぎゆうに布製のとんぼのおもちゃを振っている姿が、それはそれは鮮明に飛び込んできた。─俺の気に入りの場所で、あの客が、俺ではない猫に向かって愛想を振りまいている!
     今まで弟を気遣って呼吸の音すら腕のなかの小さな胸の動きに合わせていたと言うのに、まるで目の前にねこじゃらしが垂らされたように、またたびボールを投げられたかのように、おやつのちゅーるが早い者勝ちだと宣言されたときのように、勢いよく顔を上げて強かにこたつ机の裏側にぶつけた。天板が浮かぶ程の衝撃、突然の物音にせんじゅろうの裏返った悲鳴が短く響く。解くのが惜しいと誰もが思った尻尾のツイストドーナツははらはらと二本に別れ、額に受けた痛みで立ち耳が頭部の輪郭へ沿って垂れたきょうじゅろうがこたつ布団からそろりと出てくる。

    「きょうじゅろう、そこにいたのか!」
     とんぼのおもちゃを片手に握った薄紅色の青年が、きょうじゅろうの姿を見付けて声を上げる。すぐ隣に座っていたぎゆうが、めいわくそうに青年側の耳を倒すと表情の読めない涼やかな視線をきょうじゅろうへ向ける。激しく打ち付けた額は、時間が経つにつれてじんじんと熱を持って痛み出し、続いてこたつから顔を出すせんじゅろうが心配そうに赤くなっている打撲部分を見詰めている。
     ぎゆうの迷惑そうな視線、せんじゅろうの今にも泣きだしそうな視線、そして薄紅色の常連客から注がれる熱を持った視線を一身に受けながら、きょうじゅろうの痛みで涙に湿った瞳は、なんだかきらきらと星が瞬くように眩しく見える薄紅色の彼に向いていた。


     その日の業務日誌には、こたつに頭を打ったきょうじゅろうが痛みに混乱し常連客へ爪を立ててねこぱんちを繰り出したと報告が記されている。
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