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    モデルの猗窩煉
    ■現代パロディ

    モデルの煉獄杏寿郎と刺青いっぱいの彼氏

    #猗窩煉

    「いいのか、杏寿郎。」
    「いいんだ。」
     恋人の胸に背中を預けて、抱き締められる。この時間が好きだ、彼の甘やかで心地がいい声がより耳の近くで響くから。背後から回された両腕が、腹の上で組まれる。十本の指先は藍色に染まっていて、さっき塗ったばかり赤色のマニキュアが目が覚めるような彩りを放っている。祈るように指を絡めて組んだ彼の手に触れて、その甲を撫でる。肌の色こそ藍色に塗り替えられているものの、伝わる体温は変わらない、違うのはその見た目だけだった。二人で、テーブルに広げられた雑誌へ視線を向ける。見開きに男性が立っている、モノクロの写真で薄暗い部屋の中、ライティングも抑えていて、湿った質感の空気が伝わってくる写真だ。大きな文字で煉獄杏寿郎、俺の名前が記されている。

     今時、モデルのような人気商売をしている者はソーシャルメディアから逃れられない。プロモーションとして事務所任せではなく、商品である自分自身も有効に活用すべしと何度となく声をかけられた。それでも、自分のアカウントを作ることはなかった。興味がないというのも半分、その界隈に明るくないので過ちを犯してしまいそうだというのが半分、建前を抜かせば、誰とも知らない者からの意見を受け止める自信がない。誰とも知らない者に支持されているのに、という大いな矛盾を抱えている。幸いなことに所属事務所の理解もあり、未だに自分はソーシャルメディアと距離をとって活動を続けられている。だからこそ、自分がその小さな媒体の中の、無限に広がる世界で、火種になって燃えていることに気が付かなかった。

     広げられた見開きのグラビアページ。頭の先から爪先までずぶ濡れの自分が立っている。カメラテストを終えて何枚か撮影をした後に、夏号の紙面特集なので涼しげなカットも撮ろうという話しになって、その場のノリと勢いだけで水を被ったのだ。春先とはいえ、スタジオは肌寒かった。遠景と近景のカットを撮ったところで、スタジオに響き渡るくらい豪快なくしゃみが出た。露出していた両腕に鳥肌が立って、見た目もよろしくなくなった。カメラマンもマネージャーも、自分自信も笑えるくらいに見栄えが悪くなったところで、この撮影ももうお終しまいだろうと談笑に気が抜けた。シャツの裾を捲って、顔に垂れる水滴を拭う。そこをダメ押しに一枚撮られた。その、あまりにも自然体すぎるカットが採用されたようだった。

    「いい表情をしている。」
    「そうだろう、完全にオフショットだぞ。」
    「妬けるな。」
    「嫌か?」
    「いいや。」
     濡れたシャツで濡れた顔を拭っている。視線はこちらに向いている、こちらと言うのは紙面のことで、カメラのレンズのことで、あの場ではスタジオカメラマンの男性のことだ。「鼻水がでる前に着替えた方がいいですよ、美丈夫の鼻水なんてレアショット絶対撮り逃しませんから。」と言われたので思わず笑ってしまったんだ。プロ意識が高くて素晴らしい!と答えた気がする。冗談ではなく本当に寒かったのでその後すぐに着替えて、撮影はお開きになった。カメラテストの延長で撮ったものが採用されるのは、よくあることだ。問題は、今までひた隠しにしていた、鳩尾の大きな傷痕が隠れることなく晒されているということだ。生まれた時からそこにある、拳ほどの大きさの傷痕だ。今は、恋人の組んだ手の下、さらに服の下に大切に仕舞っている。

     雑誌が発売されたのは三日前。自分の名前は表紙に載っているものの、表紙を飾っているのは違う人物だ。反響も普段と同じ程度のものだろうと、そう気にしてはいなかった。自分が出演する媒体は、自分よりもマネージャーが、それよりも家族が、更にそれ以上にこの恋人が把握していた。発売日当日に、恋人からすぐに着信があった。それに気が付かずに働いているうちにあれよあれよとスマートフォンの通知欄はいっぱいになった。着信とメッセージの嵐にバッテリーは消耗し、事務所公式の告知アカウントにも様々なメッセージが届いたらしい。初めは、暴かれた傷痕についての好奇の目、それから落胆に似た声、伏せられていたが恐らく批判めいたものもあっただろう。こうして公に露出する前の人生経験でも、勝手に畏れられたり、面白がられることがあった。インターネットという匿名性を上乗せした世論が、そんなに優しいものではないことくらい、想像に易い。

     ちょうど傷痕の上で組まれた恋人の手の平から、じんわりと体温が伝わってくる。こうして暴かれる前まで、この痕を知っているのは極々限られた人間だけだった。意図せぬ形で世間の目に触れてしまったことは、正直戸惑いもあるが、もう隠さなくてもいいという安堵もある。
    「いいのか、杏寿郎。」
    「いいんだ、これが俺だ。」
    「そうか。」
    「妬いてるのか?」
    「焼けるような気分だ。」
     初めは火種が大きくなって、燃え広がるように拡散していったらしい。確かめる術もなく他人事のように聞いていたが、恋人の顔が青くなったり、赤くなったり、落ち着きなくなっていたので面白かった。立ち上った炎は、思わぬ形で「隠さずに自分の欠点を晒すこと」を讃える流れに変わったようだった。いつだって他人は身勝手なものだな、とこれも合わせて面白く感じていた。世に出たものを、自分の姿を見て、他人が何を思うかは受け手次第だ。俺が幾ら頭を捻っても仕方がない、考えたって仕方のないことに囚われるのは止めにした。

    「腹に刺青を入れたら、怒られるだろうか。」
    「マネージャーは泣くかもな。」
    「どうせなら笑ってほしいな。」
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    Cloe03323776

    SPUR ME毛入りさんの素敵漫画に触発されて、書いてしまいました。ドフ鰐♀。女体化注意。原作沿いです。毛入りさん、ありがとうございます!
    ボタン・ストライク それは、初デートだ。
     誰がなんと言おうと。
     二人にとって、生涯で。
     初めての。

    「フッフッフ! さァ、どれがイイ?」
     ドフラミンゴがクロコダイルを連れてきたのは。世界最大級のショッピングモールだ。この島は、観光業で成り立っている春島。世界各地のブランドが集結し、買い物客は1日で余裕で万を超える。常に大盛況であるこの島を、初めてのデートの舞台として選んだ。ちなみに、ドフラミンゴが羽織っているのはいつものピンクの羽根のファーコートと、クロコダイルは彼が用意した黒い羽根のファーコートを羽織っている。
    「……あァ、そうだな」
     そして。一件ずつ、店を見させられては。そこのお店で欲しいと思う物全てを「買われて」プレゼントされるクロコダイル。荷物は全て、ドフラミンゴが持つ。買ってくれると言うのであれば、特に逆らう必要もない。クロコダイルも気持ちが赴くまま、何の躊躇いもなく、欲しいものをどんどんレジへ持っていく。服でも、宝石でも、小物でも、鞄でも、靴でも。何でもだ。そんなクロコダイルの様子を、ドフラミンゴは楽しげな様子で眺めている。そして、嬉々としてレジでお金を支払う。そんなドフラミンゴの様子を、クロコダイルは呆れた表情で見つめていた。この男は、こんなにも貢ぐ男だったのか、と。だが、この程度の金など、微々たる物なのだろう。そうして漏れなく一件ずつ、店回りは続いた。
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