「後遺症」「砂時計」「芋」「芋粥」
「いもかゆ」
「好きなんだ」
「お前だけだろ」
「まさか!」
ベッドの柵に渡すように設置されたテーブルを、色合いの淡い食事が細やかながら彩りを添えている。
温かさだけが好意的な、見るからに薄味そうな小鉢が少し。それから、異彩を放つように明るい黄金色を保ったさつまいもが柔らかく炊かれた粥の中に潜んでいる。
煉獄が、木製の匙を手にほかほかと湯気の立つ粥を掻き混ぜる。湯気よりも先に、蒸かしたさつま芋の甘く、優しい香りが二人の間に漂って、匙を持った煉獄の目許が綻ぶ。
「冷める前に食べたらどうだ」
「冷ましているんだ」
「猫舌か」
「君だけだぞ」
「甘やかされた長子は猫舌になるらしいぞ」
「俺もそうだって言いたいのか」
ベッドサイドに置かれた砂時計が、ゆっくりと砂を落としている。沈黙の間にさらさらと粒子の細かい砂粒が落ちていく音が聞こえ、無機質な時計針よりもあたたかみを感じさせる反面、残り時間を視認出来てしまう利点がそのまま欠点でもあった。
「腹の具合は」
「満腹だ!」
「違う、まだ病むのかと聞いている」
「む!平気だ、心配には及ばない」
「目は」
「こっちは駄目だな、もう使い物にはならない」
「そうか」
「謝るなよ」
「分かっている」
砂時計の残りが僅かになった頃合いで、窮屈な椅子から立ち上がる。
揺れる金糸は明り取りの窓から射す陽光を反射させ、生命の息吹が宿ったように艶やかに揺れる。ほんの少し重心がぶれ、よろめく程ではないもののバランスを崩して筋肉が強張っているのを見逃さず、猗窩座の両目が文句ありげに細められた。
「杏寿郎、」
「煉獄さん、お話しのところすみません。そろそろお時間ですよ」
「ああ、分かっている」
「杏寿郎、お前」
「君!好き嫌いしないで良く食べるように、それから屋敷の娘たちとも仲良くな」
「煉獄さん、お静かに」
戸口の前で人の好さそうな笑み向けている胡蝶の背に、三人分の小さな影も並ぶ。嗜めるように繰り返し名前を呼ばれた元炎柱は、罰の悪さを顔に出すでもなく木匙を器へ返しベッドで休む猗窩座の肩を叩く。いつの日か拳を交えた武骨さは影を潜めた、武人のものではない手指の細さに近付けた眉間を緩めることは出来ない。
それでも、生きていた。優しく、あたたかな香りを共有し、砂時計の速さが同じ時の中で。