取り立てしましょそうしましょカツン、と革靴が音をたてるその床は薄暗がりの中では分かりにくいが赤黒いもので濡れている。そこを眉一つ動かさず男は首元のネクタイを緩めてながら歩いた。
「またこんなに汚したのか」
「悪い」
「そういう事は本当に悪いと思ってる奴が言うんだぞ」
「でも手伝ってくれるだろ?」
「ふん」
鉄臭いその空間でまるで世間話の様に話す男たちにか、隣で椅子に縛られたまま事切れている仲間に対してか。震える体を抑えられない。
「それで?手伝ってやる代わりの礼がこいつか?」
深い深い水底のような蒼い瞳が自分を写す。なんの温度も感じられないその目がさらに恐怖を掻き立てた。
「ああ。お前も鬱憤ぐらいはらしたいかと思ってな」
先程まで無表紙で仲間を殴り殺した時とは打って変わって少年のような顔で返り血を浴びたまま笑う男も恐ろしい。
自分たちは間違いを犯したのだ。
新参のファミリーなどと甘く見たのが間違いだったのだ。
「あぁ、良い目をしているな」
目の前で屈んだ男が美しく微笑む。その目に加虐を宿して。
「自分の命を理解している」
その代償を払わなければいけない。この命で。
「良い子だ」
しなやかな指が首元へと伸びる。自分が最後に見るのは、この美しく恐ろしい男なのだろう。
「俺はベニマルよりは優しいぞ?」
「はは、よく言う」
あぁ、清算が始まる。