空があんまり青いから。【オル相】 お元気ですか。
もう死んでるあなたに元気かって尋ねるのはかなり矛盾している気もしますが、どう呼びかけたらいいのかわからないので笑って聞いてください。
早いもので、あなたが眠るように逝ってからもうひと月が経ちます。九十が見えて来た頃なら大往生でしょう。少なくとも、ヒーローなんて死に方を選べない生き方を選んだあなたが、穏やかに、安らかにベッドの上で逝けたことは俺にとっては安堵以外の何物でもありませんでした。
お別れの会も遺産の件もまあ恙無く……と言えば語弊はあるかもしれませんが、取り敢えずは無事に片付いたと思います。あなたの全財産は遺言通り、親を亡くした子供達の支援団体に寄付しました。遺言書に書いてあった俺の取り分も全部まとめてそこにやりましたからね。俺はあなたと暮らした思い出のあるこの部屋があれば他には必要ありませんので。
今日はいい天気です。風は緩やかで洗濯物が良く乾きそうだ。空気も澄んでいて、遠くまで見えます。
……何年も離れていたことがあるから、あなたがひと月くらいいなくても特に何も思わないというか……要らないって言ってるのにお土産の袋抱えて今にもドアを開けてあなたが帰って来そうな気がして時々玄関を見てしまいます。そんなこと、あるわけないのに。
俺は喪失に慣れなければいけない。
あなた最後に言いましたよね。自分がいなくなった後、俺が一人でさみしく生きるのを望まないと。俺は今更新しい恋ができる歳でもなし、と一蹴した時にあなたが複雑な顔をした気持ちを今でも思い出します。
あなた以上に俺を愛してくれる人なんかいませんから、俺はこれから先誰といたってずっとさみしいままですよ。そんなことにも気付かないで死ぬまで好きだ愛してるって繰り返して、本当に、あなたの愛情のデカさと深さと密度には誰も敵いません。自覚ないんですか?
そのうち俺もちゃんと生き切ってそちらへ行くと思います。その時には、待っていてくれると嬉しい。
俺の方が年上になってるかもしれませんけど、あなたならちゃんと見つけてくれるでしょう。
こんな話をね、これから事あるごとにするんです。わかっていた別離のつらさを、ゆっくりと馴染ませるために自分に言い聞かせるように。
おかげさまでもう俺はドライアイじゃありません。
これが最後の置き土産だとしたら、あなたは本当に頭の切れる人ですよ。腹が立つくらいにね。
俺にどやされたくなかったら、今夜の夢には出て来てくださいよ。化けてでもいい。無性にあなたに抱き締められたくなった時にはお願いしますから、ちゃんと叶えてください。
頼みましたよ、俊典さん。
聞こえてます?
ったく。人の気も知らねえで。