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    ankounabeuktk

    @ankounabeuktk

    あんこうです。オル相を投げて行く場所

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    髪が千切れたラプンツェルのやつ。🐈‍⬛が切られるのはよく見るのでうちでは🐐を切りました。お付き合い済み

    狸寝入りの猫じゃらし【オル相】 ポケットの中のスマホが震える。
     相澤はそれには構わず教卓に手を付き「じゃあ小テスト」と告げた。クラスの半数から上がる悲鳴は無視してプリントを配り終えると机の間を通り抜けて教室の一番後ろに立った。不正行為を監視するためのポーズだが、今はポケットの中のスマホを確認するためにちょうど良かった。
     オールマイトが授業に来ない。
     幸いにも今の時間は座学のためオールマイトが居なくても授業に穴が開くことはなかったが、それでも担当教師としては無断欠席など言語道断である。
     職員室にもおらず、先に教室にいるかと思いチャイムと同時に顔を出したがあの目立つ金髪とヒョロ長い体はどこにもなかった。一瞬だけ眉を顰めた相澤の表情を静まらない教室のせいだと思った飯田が『静粛に!』と言ったが、それは悪いことをしたと思っている。
     さてその無断欠席の男からの連絡かとスマホの画面ロックを解除して相澤は目を見開いた。
    『普通科生徒 個性事故 ケアで遅れる』
     それだけを記した内容がぽこんとメッセージアプリ画面に表示された。
     だが、校内で爆発のような音は聞こえなかったし緊急性の高い呼出放送も流れていない。ということはオールマイトや周囲の教師で対応できていると受け取る。
     無断欠席ではあったが、理由があるならばまだ理解できる。
    『怪我は?』
     メッセージを打ち込んでから送信ボタンを押す。
     それと同時に終わりを告げるチャイムが鳴って、直接話を聞きに行った方が早いかと教卓に戻った。
    「はいテスト回収」
     再びの悲鳴を無視して相澤は集めたテスト用紙を小脇に職員室へ向かい早足で廊下を歩いた。
     事情は既に知れ渡っているのか、相澤が職員室に入った時には皆が一斉に此方を見た。そして、目的の人物じゃないとわかるや一斉に視線を離す。
    「……何があった?」
     席に座っていたマイクに尋ねると、朝遅刻しそうになった生徒とオールマイトが廊下でぶつかった際に普通科生徒の個性が発動してしまい、慌てた生徒がパニックを起こしたとのことだ。
     良くある個性事故の導入部である。
    「で? その個性は? 被害は?」
    「怪我はしてない、らしい」
     それ以外は誰も何も聞いていない。だから皆、オールマイトが職員室へやって来るのを待っているのかと先程の視線の意味を理解した。
     相澤はポケットのスマホを取り出す。だがオールマイトからの返信はない。
    「……まあ、そんな怖い顔すんなよショータ」
    「うるせえ」
    「マイティのことだから多分大丈夫さ」
    『その多分大丈夫にどれだけ俺達がおんぶに抱っこでぶら下がり続けてあの人がああなっちまったと思ってるんだ』と言いかけて、それはただの八つ当たりだからと言葉を飲み込んだ。
    「心配なのはわかるけど、そんな殺気立ってちゃNo Noだぜ」
     指先を猫を揶揄うみたいに振られて相澤は顰め面を僅かに緩めた。
     ガラリと扉が開く。
     また皆が条件反射で入り口を見遣る。今度は相澤も一緒に。
     ひょいと姿を見せたオールマイトはいつもの明るい笑顔でおはよう遅くなってごめんと言った。
     だが、そのトレードマークであるうさぎの垂れ耳だの金色の触覚だのと言われる象徴的な対になった二束の前髪の片方が、途中からバッサリと切り落とされている。
     言葉を失う相澤の隣で、マイクが素っ頓狂な悲鳴を上げた。




    「怪我は?」
    「生徒は無事だよ。私も前髪だけで済んだし」
     済んだというレベルではない。オールマイトの象徴とも言えるそれが半分、いや四分の一程度失われてしまったのだ。
    「何があったんです」
     席に着くなり質問責めに遭ったオールマイトが周囲を落ち着けるように手のひらでポーズを取る。
    「それが、ちょっと厄介な事になって」
    「厄介?」
     蚊帳の外で話に耳だけ澄ませていた相澤がぴくりと頬を歪ませる。オールマイトは目敏くそれに反応し、怪我とかじゃなくてと再度念を押した。
    「普通科の少女、遅刻しそうになって走ってきたところで書類を運んでいた私とぶつかってね。ぶつかったのが私だと分かった瞬間にびっくりして個性が出ちゃったみたいなんだ」
    「その生徒の個性って何なんです」
    「紙を硬くする個性だそうだ」
     説明を聞いてその場にいる教師陣にそれは育てようによっては十分にヒーローになるのでは、という騒めきを産んだ。その反応も想定内なのかオールマイトは続ける。
    「ただし、特定の紙にしかその個性は発動できないんだそうだ」
    「全ての紙を、ってんならベストジーニストにも負けじとも劣らず……まあ紙は身につけてないけどな俺達」
     大いなる可能性と現実の落差にマイクはひとり頷く。
    「つまり、オールマイトさんが持ってた書類の紙がたまたま生徒の個性の対象物だったってことですか」
    「そういうことだね。聞いたところによると紙にも成分や重さや、まあ色々と種類があって、彼女が硬さを操れるのは『六十四グラム平米の白色度七十パーセント以上古紙配合率七十パーセント以上の中性紙』に限るそうだ」
     突然オールマイトが喋り出した呪文に相澤だけでなくマイクも理解しかねる表情を浮かべる。
    「つまり?」
     ああ、と納得したような声で13号が手を打った。
    「コピー用紙ですか」
    「ご名答。コピー用紙にもまた色々あるそうなんだが彼女の説明によると、雄英で使っているコピー用紙がまさに条件に合致すると」
    「だから、あなたが抱えていた書類の紙が刃物に変わってしまった」
    「コピー用紙を硬くする個性か……」
    「彼女の個性の持続時間は十秒程度、対象は一枚だけと聞いた。ぶつかっただけなら良かったんだがぶつかったのが私だと気付いて驚いた少女が紙を硬くしてしまい、舞い上がった紙が私の前髪をスパッと」
     手刀で切り落とすジェスチャーをしてオールマイトは話は終わりだと両手を広げた。事態を把握した教師達は三々五々散って行く。
     相澤だけがそこに取り残されていた。
    「ごめんね相澤くん、授業に行けなくて」
    「生徒のケアもされていたんでしょう。なら仕方ありません」
    「ああ……その事なんだけど」
     プツ、と校内放送のスピーカーのスイッチが入った音がしてオールマイトと相澤はそろってそちらを見上げた。
    『一年A組担任副担任、校長室まで』
    「……その事ですか」
    「そのようだ」
     顔を見合わせて二人は並んで職員室を出る。相澤の溜息にオールマイトはごめんねと謝り、その全てはこの人のせいではないのにと相澤はまた息を吐いた。





     ノックをして校長室に入ると、根津の机の前に居たのは塚内とその部下の玉川である。
     この二人がいる、つまり事故は事件の可能性を帯びたものだということだ。
     相澤の後ろでオールマイトが重厚な扉を閉めた。
    「……今被害者を探しているが、複数人から似たような男の証言が取れたところだ」
     塚内の説明にオールマイトは頷く。
     何が起こっているのかわからないまま交わされる会話を相澤は黙って聞いていた。大きな猫が二足歩行しているように見える玉川の毛並みは今日も魅力的で触りたくなる容姿をしている。
    「少女は?」
    「今は校内の別室で事情聴取の最中」
    「……どういうことです」
     生徒が事情聴取とは。
     オールマイトとぶつかって個性を発動しただけでそんな事になるはずがない。オールマイトが校長室に呼ばれ、警察がお出ましの時点で彼女は被害者あるいは被疑者と見做されている。
     オールマイトの言う「その事」の説明を求めるために低い声で牽制した相澤にオールマイトがうんとひとつ呼吸を入れた。
    「私とぶつかった少女が電車通学なんだけれど、最近その路線で痴漢被害が多発しているそうでね。今日少女が遅刻寸前で走ってきたのもそれが関係しているんだ」
    「は? 痴漢?」
     それは撲滅して然るべしという顔した相澤にオールマイトはそうだねと相槌を打つ。だがその痴漢と個性事故が結びつくのがまだわからない。そこからの話を塚内が引き受けた。
    「結論から話すと、彼女は痴漢に遭った際個性を使用して小さく切った紙で痴漢の手に傷をつけていたようなんだ。犯人を捕まえて警察に突き出すにしても、テスト前や遅刻ギリギリの生徒を狙って被害の声を上げにくい状況ばかりが狙われていてね。せめてもの抑制と腹いせに、と言うところだろう。彼女が男の手に残した十字傷が、複数の被害女性からの証言と一致した。現在路線で該当男性の捜索をしている」
    「私とぶつかって個性が発動したのも、その直前に電車で使用していてストッパーが緩くなっていたから、と本人から謝罪も受けた」
    「事情聴取って被害生徒の個性の不正使用についてですか」
    「そう。形ばかりでもしないわけにはいかないし、注意はする必要があるだろう」
    「正当防衛では?」
    「限りなくね」
    「一刻も早い犯人逮捕を」
    「勿論」
     相澤の口撃を塚内はのらりくらりと躱す。
    「オールマイトさんが呼ばれたのはその件で?」
    「そうさ!」
     塚内の影で姿が見えなかった根津が声を張った。塚内が気付いて視界を遮っていたことを詫び一歩横へずれる。
    「俺が呼ばれる理由はありましたか」
    「うん。オールマイトが授業サボったんじゃないってこと君には分かってもらおうと思って」
    「それなら授業中にオールマイトさんから連絡がありましたので問題ありません」
    「でもただの個性事故なら君「またそんなのに首突っ込んで」ってガミガミ言うだろ?」
     ぷく、と隣でオールマイトが笑ったので相澤は反射的にそちらに睨みを入れる。すぐにオールマイトは咳払いをしてすっとその背筋を伸ばした。途端に相澤の視界からオールマイトの顔が消える。
    「……否定はしませんが、不可抗力に説教は無意味です」
    「うん。仲良きことは美しきかな、さ」
    「報告が以上であれば退室してよろしいですか。授業がありますので」
    「また何かあれば連絡する」
    「少女のケアをくれぐれも宜しくね塚内くん」
     相澤の後を追ってオールマイトが廊下に出て来た。
    「あなたは別に残っても構いませんよ」
    「私が居ても話は変わらないさ」
     授業が始まって一気に静まり返った校内を無言で進む。隣を歩くオールマイトの、普段ならばふよふよと揺れている前髪の片方が短くなっているのは、どうにも心落ち着かない。
     髭を切られた猫が平衡感覚を失うように、この人は真っ直ぐ歩けるのだろうかなどと突拍子も無いことを考えてしまう。
    「……見目良くないかな」
     あまりにも相澤がガン見するので決まり悪そうにオールマイトが申し訳無さそうに呟く。
    「そんなことは」
     即座に否定して、それから言葉を探した。
    「……その。見慣れなくて違和感はありますが、すぐに慣れると思います」
    「切っちゃおうか? 別にこだわりがあって伸ばしてる訳じゃないからなあ」
    「それがなくなったらオールマイトじゃないって言われますよ」
    「私の本体ここじゃないよ?!」
     思わず叫んだオールマイトの口に相澤はびたりと人差し指を当てた。ここは教室エリアではないが、特別教室までは近いしオールマイトの声はそれでなくとも遠くまで良く響く。
    「心配しなくてもそのうち伸びるでしょう。左右揃えるくらいはしても良いと思いますが、極度なイメージチェンジはあなたの髪を切ってしまった生徒にも罪悪感を残すのでは?」
    「そうだね」
     職員室へ戻りながらオールマイトが残念そうに漏らした。
    「でも、ひとつ残念だな」
    「何がです」
    「一緒に寝た日の朝、明け方とか君よく私のここ指に絡めたりキスしたりして可愛がってくれてたじゃない? そういうことされる部分が減っちゃったなーって」
     相澤の呼吸が止まる。
    「あんたそれ、気付いて……」
     すやすやと寝ているとばかり思っていた。思っているからこっそり甘えていたのに、まさか全部バレていたとは。
    「君の可愛いところは逃したくないからね」
    「二度としねえ」
    「どうして」
    「寝たフリなんて趣味が悪い」
    「寝たフリじゃないよ! 本当に寝てたんだけど、触られた感触に起きて薄目を開けたら幸せそうな君が見えたから胸がいっぱいになって」
    「口閉じて貰えますか」
     そのシーンを思い浮かべてうっとりと微笑むオールマイトを置き去りに相澤は早足で進む。
     待って相澤くん置いてかないで、と後を追ってくるオールマイトが左右非対称な前髪を揺らしながら真っ直ぐこちらへ歩いて来るのを見て、やはり猫ではないんだなと相澤は思った。










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