「 ……うーん、今年はどうしようかなあ」
冬から春にかけてはイベントごとが多い。
クリスマスに大晦日、三ヶ日が明けると千空ちゃんのお誕生日。そこから一か月でバレンタインとせわしない。
そして今月はホワイトデー。
本来はバレンタインのお返しをもらう日だが、バレンタインもホワイトデーも、昔から互いに贈り合っていたからプレゼント交換のような感覚がある。
バレンタインには手作りトリュフとホットチョコレート、実験や読書で手が荒れやすい千空のために、ハンドクリームを贈った。
さて、ホワイトデーはどうしたものだろう。
……そうだ。お揃いのネイルケアセットはどうだろう。デコレーションはしなくても、爪の保護用に使えるものだし、実用的だ。
あと……ああ、勾玉を通せるチェーンネックレスなんかもいいかもしれない。
それと、うさぎのクッキーを焼いて持っていくことにした。
明日の帰りにショップに寄って、色々物色してみよう。……そう思ったところで、背後からいきなり胸をまさぐられた。
「 …んッ、ぁ……は……せん、くうちゃ…ッ!待って、待って!」
ふわふわの乳房を揉みしだく手を取って制止すると、心外そうに幼馴染がこちらを覗き込んだ。
「 あ"ぁ?……んで、今日は何だ?制服じゃねぇし、服も広げてねぇし、なんか問題あんのか?」
改まってそう訊かれて。
ゲンは言いづらそうにもじもじする。
「 だ、だって……今日の下着可愛くないんだもん…… 」
脱がされる前提の発言が、なんともかわいらしい。……まあ、これまでの行動が行動なので、学習してしまったというのが正しいのだろうが、かわいいので問題ない。
「 そんなん、テメーがかわいいんだから100億%関係ねぇわ」
そう言って、スウェットの襟から中を覗き込む。白地にピンクの小花柄で、ピンクのフリルがあしらわれたフロントホックブラ。デザイン自体はやや幼い印象だが、十分に可愛らしいデザインだと思う。
「 ……なんだ、普通にかわいいじゃねぇか。気にしすぎだろ」
そう言って、そのままスウェットの下に手を潜り込ませた。
器用に指先でホックを外すと、やわらかな乳房が溢れ出す。
マシュマロのような感触を堪能しながら、頬にくちびるを寄せた。
「 ああ、そうだ。……バレンタインチョコ、美味かったぜ?」
意味深に笑われて、羞恥を煽られる。……贈り物は、確かに普通のトリュフだった。
けれど夢の世界でなかなか会えなくて。
ようやく再会したテンションのままに、チョコレートを使って、ちょっと口では言えないようなプレイに興じてしまったりした。
……それは、すごく、きもちよかったけど。
「 ……せんくーちゃんの、えっち」
「 えっちな俺も、好きだろ?」
「 …………すき」
頷いて、千空の腕に身を預ける。
「 ……ん、ぁ……ああ……ふ、……は……ぁ 」
やわやわと胸を捏ね回す、千空の手の感触が心地よくて。先をねだるように頬を寄せた。
すき。すき。だいすき。
いくら言っても言い足りない。
いくら聞いても、もっと聞きたくなる。
中ツ国ではずっと一緒にいるのに、夢の世界で会えなかっただけで、もう何年も離れていたような気分だった。
……だからだろうか。
互いに、いつもより距離が近い。
「 ……ねぇ、そういえば」
「 あ"ぁ?」
「 こっちの持ち物って、あっちに持って行けないのかなあ」
突拍子もない言葉に、髪を梳きながらゲンの顔を覗き込んだ。
「 まあ、夢の世界だし、あっちにはあっちでの実体があるからな。浅霧は特殊みてぇだが。……何だ?なんか持って行きてぇモンがあんのか?」
「 ……ヘアピン。千空ちゃんにもらったやつ。ずっと付けてるから、ないと落ち着かなくて」
応えが、あまりにいとおしくて。
背後からぎゅう、と抱きしめてしまう。
「 おう。……なんか方法ねぇか、調べとくわ」
そう答えると、腕の中の幼馴染はふにゃっとやわらかくわらった。
そうして戯れているうちに、なんだか眠くなって。そのまま、二人でベッドに横たわる。なんとなく、そうした方が早く会えそうな気がして、眠る前に手を握った。
目を覚ますと、いい加減見慣れた異世界。夢の中で目を覚ますというのも、なんだか妙な感覚だ。
ちょうど今日は城下町で市が開かれていると言う話を聞いて、そっと城を抜け出した。
やはり、中ツ国のものは勾玉以外は高天原に持ち込めないようだ。
……となると、こちらの世界のものを改めて贈る必要があった。
店を物色して、足を止める。
翠と紫が、絶妙に混ざり合った不思議な色合いの石が嵌った耳飾り。……ピアスだ。
これならいつでも身につけていられる。
素材を確認して、検分し、アレルギー反応がないかを散々調べたのち、それに決めた。
中ツ国で言う、ピアッサーのような道具とそのピアスを購って、贈り物用に包装してもらった。
……夜になって。
部屋を訪ねてきたゲンに、かわいらしく包装された箱を手渡すと、ゲンはぱあっと表情を輝かせた。
「 ホワイトデーのプレゼント」
素っ気なく言うと、たちまちに顔が綻ぶ。
こう言うところが、本当にかわいい。
「 開けていい?」
そわそわした様子に頷いてやると、もどかしげに包装を解いて。
中身にキラキラした目を向けた。すげぇキラキラしてる。……これは超絶ヒット顔。
よし!と内心ガッツポーズを決めた。
「 うわー!どしたのコレ!?すご〜い!ゴイスーきれい!ありがとう千空ちゃん!すっごいうれしい♡♡♡」
矢継ぎ早に返される言葉がうれしくて、思わず笑顔になってしまう。
「 ……付けてやるよ」
「 えっ、ホント?……千空ちゃんにピアスホール空けてもらうって……なんかドキドキするね?」
……それはこちらも同じで。ゲンの身体に孔を空けるとか、貫通させるとか。
なんだかいかがわしい気分になる。
まあ、すでにこちらの世界では、そちらも済んではいるのだけれど。
「 せんくーちゃん、なんか目がえっち」
「 そりゃ、いつでもテメーにえっちなことしてぇしな」
「 ……すぐそうゆうこと言う…… 」
それは、いつでもこんな初々しくかわいらしいリアクションを返されたら仕方ないだろう。そう思いながら、ピアッサーを手に取って、説明書を読む。
中ツ国のものと、大まかな構造は同じであるようだ。針の部分と耳たぶを消毒して、一番石が映える位置を計算すると、耳たぶに針を押し当てた。ぱちん、と軽い音がして、右耳に小さな孔が刻まれる。
「 ……痛くねぇか?」
「 うん、思ったより全然痛くないよ」
それより、真剣な視線が真っ直ぐこちらに注がれていることが気になってしまって。
ゲンの側でも、気もそぞろだった。
そうして千空に見惚れているうちに、ぱちん、ともう一度軽い音がして。
一ミリの誤差もなく同じ位置に孔が空いた。
それを、丁寧に消毒して。
贈ったばかりのピアスを挿入する。
キャッチャーを耳たぶの少し手前で留めて、鏡を差し出す。
石は、ゲンのしろい耳たぶによく映えていて。ゲン自身も気に入ったようで、いろんな角度からそれを眺めていた。
「 ありがとう千空ちゃん!大事にするね」
「 あ"〜、孔が安定するまでは毎日消毒が必要らしいから、ちゃんと毎日来いよ」
「 うん!」
屈託のない、眩しい笑顔のそばで、鮮やかな色の石が光の三稜線をかたどって。
その表情に色を添えていた。