colorsそれは、突然のことだった。
ある朝起きて、いつものように、隣に眠る恋人の髪を撫でると、白い髪が触れた部分からうすい緑色に染まっていった。色の変化は、そこに留まらず。
黒い髪も、徐々にその色を変えていく。白黒半々の髪が、すっかり自分と同じ色に染まった頃、ようやくゲンは目を開けた。
「 ……うん?……おはよー、せんくーちゃん……なんか、あった?」
開いた目は、いつもの青みがかった闇色ではなく、茶色みがかった赤色で。
鏡で見慣れた色のはずなのに、ゲンの目に嵌っていると硝子玉めいていて。……ねこの目のように見えた。
小首を傾げるゲンに、鏡を差し出すときょとんと目を見開いた。
「 えっ、千空ちゃんカラーになってる?なにこれカラコン?」
「 寝てる奴にカラコンとか装着できるかよ」
「 うーん、それもそうだよね。……何でこうなったの?」
経緯を話すと、少し考え込んで。
今度は、ゲンの方から触れてきた。
「 あー……うん、そっかなるほど」
納得したような口調のゲンに怪訝な目を向けると、鏡を手渡された。
鏡には、メッシュのような形で白黒半々になった髪と青みがかった闇色の瞳をした、いつもと違う自分が写っていた。
「 コレ、最近流行ってる奇病だよ。…染色症って言ったかな。好きな人に触ると、相手が自分の色になっちゃうの」
「 へー、好きな人に」
「 そう、好き、な」
その瞬間に、ばちりと目が合って。
なんだか急に恥ずかしくなってしまう。ゲンは赤らんだ顔を隠すように、腕で顔を覆った。
「 えっと、少し経つと元に戻るみたいだから……!そんなヘンテコなカラーリングじゃ、外出れないもんね。……せっかくのイケメンが台無しになっちゃう!」
あわあわと誤魔化すように捲したてるゲンの長い髪を一房手に取って。
さらりとした冷たい表面に、くちづける。
「 まあ、イケメン云々は置いといて」
「 テメーの色、……俺は好きだけどな。今のも、悪くねぇ」
テメーが、俺の色に染まってるのは、……あ"あ、なかなかに唆るぜ?
髪にくちづけたまま、上目遣いに囁かれ。ゲンはたまらず、首まで真っ赤になってしまった。
「 せんくーちゃん、イケメンすぎてずるい」
なんだそりゃ、と笑って。
ゲンを抱き寄せると、もう一度。
今度はくちびるにくちづけた。
その瞬間、中和されたのか、変わった時と同じようにじわじわ色が戻り始めて。
「 呪いを解くのは王子様のキス、だっけか?」
冗談めかした口調でわらいながら、ゲンの、混ざり合った色の髪を撫でた。