幕間の楓恒⑤眠る必要の無くなった身で、寝る動作を行うのはそうしなければ丹恒が眠りにつかないとわかっているからだ。
資料室に余の為に敷かれた布団は生前使っていたものに比べれば薄く、固く、寝心地はあまり良くない。だが、常に誰かの気配を感じていた以前よりも眠りやすい環境であると言える。
何時まで起きているつもりか丹恒に問えば、手を止めて自分の布団に向かって行く。それを見届けてから目を閉じ、丹恒の寝息が聞こえだしてから目を開けて布団から出る。
あどけない表情で眠っている丹恒の顔を見ると、視線を感じるのか身動ぎしていた。
そんな所は余に似ていると思えばいいのか、それともそうならざるを得ない環境を強いてしまったと悔いればいいのだろうか。
「…っ、く…」
「丹恒」
「は…っ…」
夢見が悪いのかうなされている丹恒の額に触れる。
どんな夢を見ているのかは、想像するのは難しく無い。それだけの体験をさせてしまったのは余のせいでもあるのだから。
それに、丹恒がうなされているのは何も今日がはじめてなどではない。
ほぼ毎日、夢見の度合いは違うが悪夢を見ていることは確かだった。
「……すまない、丹恒」
言葉を紡ぐつもりはなかったが、丹恒の姿を見ていると溢れてしまった。
謝罪など今更した所で何も変わらぬ、ただの自己満足であると己自身で気づいているのに。
「…たん、ふ…」
「…起こしてしまったか?」
「…いや……」
まだ寝惚けているのか目を開けてぼーっとこちらを見てくる。
先程の言葉を聞かれてしまっていたのだとしたら些か情けない話ではあるが、今の丹恒の様子からは何も読み取れない。
「…丹楓」
「まだ朝ではない…、眠ると良い」
「…丹楓は寝ないのか」
「其方が寝たら眠るとしよう」
「…、本当だな?」
「無論だ」
ふ、と小さく息を吐き出した丹恒の瞼がまた降りていく。今度は悪夢を見ずに眠れるだろうか。
「丹楓」
「どうした?」
「……お前だけのせいでは無い、だから…あまり気にするな」
「………そうか」
やはり、溢れた言葉は聞かれてしまっていたようだ。自嘲気味な息を吐き出してから、丹恒の顔を覗き込む。この一瞬で再び眠りに落ちたようだ。
「…其方は強いな」
力の話だけではない。精神面も心の在り方も。
それが、嬉しくも感じる。
「よく眠れ、丹恒」