4グループ合同ツアー、札幌公演2DAYS。
1日目の公演を終えた後、札幌公演担当の天と三月は控室で翌日公演に向けてのプチ反省会を開いていた。特にルールはなかったが、大阪公演で百と虎於が反省会をしていたのを見て、札幌担当の2人も真似して取り入れることにした。他のメンバーは明日に響くからと早めにホテルに帰した後だ。
「なんか今日、Re:valeの2人はっちゃけてたよな。」
今日の公演で気になった点をメモに羅列していく三月。
「担当がキミとボクだから少し散らかっても締めてくれるって思ってたんじゃない?」
天は定点カメラ映像を早送りで流しては、気になったところで止める。
「あー、ありそう。」
「それより、陸も今日はペース早かった気がする。」
陸を心配してか、天がしかめっ面になる。
「オレも思った。久しぶりの札幌でテンション上がってんだろうけど、明日はぶっ続け3公演だからセーブさせないとなぁ。」
「気温も真冬並みに低いし、体調にも気を付けないとね。」
「逆に寒さに強いナギが絶好調だわ。TRIGGERとŹOOĻは安定してたな。ŹOOĻなんかはツアー初めてなんだろ?」
「まあ、彼らは海外の経験があるくらいだから。」
「それもそうか。あと気を付けることは?」
「後はないかな。さすがにツアー終盤ともなるとね。」
「うん、みんな慣れてきてるから安心して担当できるな。さて、と。じゃあ行きますか。九条、めちゃくちゃ楽しみにしてただろ。」
三月がニッと笑うと、天は口元を綻ばせる。
「わかる?」
「そりゃ、絶対九条が好きだと思って誘ったんだもん。」
「そういうキミだって興味あったでしょ。」
「ケーキ屋の息子的にはそりゃな~!」
そうして2人が向かった先は……
***
小規模なバー。木のカウンター、小上がりと和モダンな内装を施された店内はシックに淡く照らされており、大人な雰囲気が漂う。
「いらっしゃいませ。メニューでございます。」
カウンター席に案内され、2人並んで座る。手渡されたメニューを開くと、色とりどりのパフェのイラストが目に飛び込んできた。
「九条、決まってる?」
2人で顔を寄せてパフェメニューを見つめる。
「1番人気のピスタチオ。来る前から決めてたんだ。キミは?」
「オレはフルーツのパフェにする。」
それぞれ迷うことなく決まったパフェを頼み、メニューを下げられる。
「一度来てみたかったんだよなー、シメパフェ。」
三月は店内の様子をちらちらと見ながら言う。
「今日はお酒飲んでないじゃない。」
その言葉に天は怪訝な顔を見せた。
「ライブの後のシメパフェっていうのも乙じゃない?」
「まだ明日あるけどね。でも、その考え方良いね。」
三月の提案に天は頷く。
「明日は打ち上げあるじゃんか。それに、こういう店はみんなで来るもんじゃないだろ。九条と2人だから来たかったんだよ。」
「ふふ、こういう店にキミから誘ってもらえるのは光栄だね。」
天はほおずえをついて妖艶に微笑む。
「九条も結構テンション高いな。浮かれてる?」
「ライブの後で浮かれない男なんていないでしょ。」
「そうだな。オレもまだ体が熱を持ってる感じがする。」
「パフェで冷やさないとね。」
カウンター越しに店員が声をかける。
「お待たせしました。ピスタチオのお客様、」
「はい。」
天が挙手すると、メニューのイラストがそのまま出てきたようなパフェが目の前に置かれる。
容器はパフェグラスではなくカクテルグラス。下層はフルーツ味のゼリー、上層はムースとその上にピスタチオのアイス。さらにキャラメリゼされた大きなチュイールで小ぶりながらもフォトジェニックに仕上がっている。
「フルーツのパフェでございます。」
続いて三月の前のカウンターにフルーツパフェが置かれる。ワイングラスの中、わざと隙間を作るようにフルーツが重なっている。その上にヨーグルトと桃色のソルベ、イチゴだろうか。天のパフェと同じチュイールが乗っていてこちらも見栄えが良い。
パフェが置かれると、天と三月はごくりと喉を鳴らす。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。」
「それでは、ごゆっくり。」
店員が去ったあと、三月は天に提案する。
「なあ、ツーショット撮ろうよ。溶ける前に。」
「ラビスタに挙げる用?」
「そうそう。担当2人で行きましたーって。」
三月がスマホのカメラアプリをインカメラに設定する。
「じゃあボクも挙げるから後でちょうだい。」
「オッケー。よし、九条こっち。」
パフェを写り込ませるようにスマホを掲げる。
「うん。」
「撮るぞー。」
パシャ。
シャッター音が鳴り、三月はスマホを天の方に寄せる。2人で写真を覗いて、頷き合う。
「じゃ、食べるか。いただきまーす。」
「いただきます。」
それぞれ、上に乗っているアイスを口に含んだ。
「おお、さっぱりしてる。」
「ね。ピスタチオもあまりくどくない。」
2人は口元を緩めて、互いにレビューし合う。
「思ったより軽くて食べやすいなー。」
「これなら飲み会や食事の後でも全然入るよね。」
「シメパフェって言うだけあるわー。ピスタチオちょっとちょうだい。」
三月は自分のスプーンで天のアイスを掬って言う。
「ねえ、取ってから言わないで。キミのフルーツ1個貰うよ。」
天も仕返しと言わんばかりに三月のグラスから大きなイチゴを掬い返した。
「あっ、イチゴのデカいやつ!」
「先に食べたのキミじゃない。いいでしょ、大人なんだからちょっとくらい。」
「うわーそれ言う?」
天がすました顔で言うと、三月は小さく眉をひそめた。
「このイチゴ美味しい。ね、他のもちょうだい。」
「えー、もう。1個だけな。」
「ほら、ボクのも下の方食べていいから。」
天は浮ついた様子でずいっと自分のグラスを三月の方に寄せる。
「今日の九条マジでテンション高いな。」
三月も自分のグラスを天の方に寄せる。天はラズベリーを掬って口に含んだ。
「美味しいんだもん。さっきも言ったけど、ライブ後だし。」
「九条はマジでライブ好きだなー。あ!このゼリーおいしい。」
天のグラスからフルーツゼリーを口にすると、三月の口角が上がる。
「キミもライブ好きでしょ。」
「大好き。今回さ、ツアーで何回もライブできるのマジで嬉しくて!」
三月が瞳を輝かせると、つられて天の口元も緩む。
「そうだね。いろんなところで、いろんなファンに会える。」
「いつか47都道府県全部回りたいなぁ。」
「大変そうだけど、すごく楽しそう。IDOLiSH7は好きそうだね。」
「陸、ナギ、環はすげーはしゃぎそう。帰ったら社長に聞いてみようかな。」
「もう、気が早い。まずは明日のこと考えて。」
天はくすくすと笑う。
「はは。そーだな。明日、大成功させて次に繋ぎたいもんな。」
「じゃ、そろそろ食べ終わったし出ようか。明日に備えて早く寝た方がいいよね。」
「そうだな。あまり遅いとアイツら心配するし。」
2人は伝票と荷物を手に席を立ち上がった。
***
札幌市内、某ホテル。戻ってきた天と三月はロビーを経由し、客室のあるフロアへ。
「はー、外寒かったなあ。」
「ね、東京とは全然違う。」
廊下を歩いていると、三月と一織が泊まっているはずの客室の扉が開き、陸が出てきた。
「あれ、陸?なんでその部屋から……」
「あっ、天にぃ!」
「こほん、……七瀬さん?」
「……あっ、九条さん!遅かったね。ちょっと心配した。」
その部屋から一織も出てきた。陸が一織の部屋に遊びに来ていたらしい。
今回のホテルは2人1部屋。IDOLiSH7とTRIGGERだけ人数が奇数のため、天と陸が同室になった。
この階には関係者しか宿泊していないとはいえ、いつ一般客やホテルスタッフが通りかかるか分からない。廊下では気をつけてね、そう天は陸にアイコンタクトをした。
「兄さんおかえりなさい。反省会……長かったですね?」
一織は心配を顔に貼り付ける。
「え?ああ、反省会はすぐ終わったんだけど、ちょっと寄り道してたんだ。」
「寄り道ですか?」
「九条さん、ほっぺた冷えてるね。」
陸は両手で天の頬を包み込む。天も両手で陸の手を包み込み、小さく微笑んだ。
「パフェを食べて来たから、少し冷えたかも。すごく美味しかったですよ。」
「こんな時間にパフェですか……?」
一織は今度は怪訝そうな顔を見せる。兄を巻き込んで夜遅くに何をしているんだという顔だ。
弟の様子に気づいてか、三月が説明する。
「夜パフェ専門店。気になってたから九条を誘ってさ。後でラビスタにも写真挙げるよ。」
「そうですか……。」
三月が誘ったことや今回の公演担当としての話題作りだと言われると、一織も感情的に天を責めることはできない。自分も行きたかったなどとは尚更。
「えー、いいなー。」
対照に陸は素直に羨ましいと声を挙げる。パフェに対するものか、それとも兄と食べに行ったことか、はたまたその両方か。
「都内にもそういう店はあるらしいから、また行けばいいよ。九条もパフェ気に入ってただろ?」
「ええ、また行きたいです。今度七瀬さんが行く時良かったら声かけてくださいね。」
天が微笑むと、陸も満面の笑みをお返しする。
陸の全身から嬉しいオーラが出ているのが分かる。
「……はい!行きましょう!!」
「じゃ、そろそろ部屋に入ろうか。明日もまだライブあるし。」
三月の言葉に合わせて、一織が続ける。
「そうですね。明日は3公演ですからしっかり休みましょう。特に……、七瀬さん?」
一織が陸だけを名指ししたのが気に入らなかったようで、陸は口を尖らせた。
「もー、わかってるよー。」
「ははは、今日の陸は飛ばし気味だったよな。九条も心配してたぞ?」
一織を庇うように三月がフォローすると、陸は天の方を向いてしゅんとした。
「え……、ほんと?ごめんなさい。」
「明日は気をつけてくださいね。」
天が優しい口調で言うと、陸はにっこり笑って答えた。
「うん!」
「じゃあ陸、九条、また明日。糖分補給したことだし、明日も最高に楽しいライブにしような!」
「ええ、楽しみましょうね。おやすみなさい。」
「一織、三月、おやすみ!」
「おやすみなさい。」
4人はそれぞれ互いの部屋へ入っていった。