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    甘味。/konpeito

    800文字チャレンジだったりssを投げる場所

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    甘味。/konpeito

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    今朝の800文字チャレンジ。佳人は尋ね人を待つ
    ノマ√リィンくんのその後のお話。モブ視点

    「本当なんです。本当に砂漠の真ん中にオアシスがあったんです」
     緑が青々と茂っていて、水も湧いていました。そう熱弁する少年を周囲は笑った。それもそのはず。ゼムリア大陸の東には、人を拒むような広大な砂漠地帯が広がっている。近年は砂漠の緑化に努めてきたお陰か侵食は進んでいないものの、それはごく一部の話だった。
     少年はそれきり口を閉ざした。
     いつしか幼少の時分にそんなこともあったなと妻子とともに暮らしながら不思議な思い出として振り返るようになった頃、少年だった男を訪ねてきた者がいた。
    「なあ。砂漠のど真ん中にあるオアシスを見たっつーのはあんたか」
     訪ねてきた男は血のような真っ赤な目をしていた。こちらの地方では珍しい銀髪なのできっと旅行者だろう。
    「ああ。そんな話もしたな。なんだ、ホラ吹き少年でも見に来たか」
     妻に少し出てくると声をかけ、人の目が気にならない宿酒場の裏手へ回った。旅行者もついてくる。
    「オアシスの話を詳しく聞きたい」
     彼の目は、今までこの話題を出したときに向けられたことがない色味をしている。砂漠で迷ってしまったあの日、助けてくれた人とよく似たそれに背中を押され、男はこれまで閉ざし続けた口をひらいた。オアシスのなかで出会った、図鑑でしか見たことがない雪山に住むというユキウサギのような風体の、真っ白な長髪に真っ赤な目をした不思議なあの人を思い出しながら。
    「ああ。そうだな。君には話してもいいかもしれない。あれはそう、二十年前の話だ――」
     そうして男がひとしきり話し終えると、銀髪の旅行者は妙にすっきりした様子で話してくれてありがとうと告げ、この町を去っていった。
     きっと砂漠の奥深くへ向かったのだろう。寂しそうに笑ったあの人に会いに来てくれたのだと信じて。
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