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    甘味。/konpeito

    800文字チャレンジだったりssを投げる場所

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    甘味。/konpeito

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    #クロリン
    chlorin

    恋しのぶ 今年から担当している生徒らがアインヘル小要塞に用意された階層を攻略していくのを、モニタールームでシュミット博士とともに見学していたときだった。
    「よっ。リィン久しぶり」
     モニタールームに突然入ってきた銀髪に目を見開く。まるで行きつけの喫茶店に立ち寄るような気軽さで現れたクロウ・アームブラストと会うのは、実に半年振りだった。
    「クロウ! 本当に久しぶりだな。半年振りだぞ」
    「もうそんなになるか?」
     リィンの隣りに並んだクロウは、リィンの眺めていた画面を見下ろし懐かしいなと目を細めている。その横顔が、見ていないうちにまた一段と逞しくなったように映る。
    「これがリィンの新しい生徒か」
    「ああ。ユウナたちに負けず劣らず、なかなか面白い取り合わせだ」
     それからしばらく生徒たちが攻略していくさまを眺めていたクロウは、昼飯食ってくるからと食堂へ行ってしまった。



     小要塞での実戦テストを終えた生徒たちにそれぞれアドバイスをして、クロウより半刻遅れで食堂へ向かう。すでに食後のお茶を飲んでいるところだった彼の向かいに腰を下ろした。
    「それで、今回はどうしてこっちに?」
    「あー、そろそろ夏至祭があるからな」
     頼まれごとかと問えば曖昧な返事が返ってくる。またどこからか何かを請け負っているらしい。クロウはリィンをお人好しだと揶揄するが、彼も彼で面倒見の良さならなかなか負けていないなと頬を緩めた。
    「ところでリィンは今年も姫さんのエスコートか?」
     この話は終わりだとわざとらしく話題を変えてきたクロウに乗っかってやる。
    「いや、今年はもう別の候補の方がいらっしゃると伺っている」
     夏至祭に合わせて開催される園遊会には、皇太女殿下のエスコート役ではなく、担当クラスの生徒たちとともに警備として参加する予定になっていた。アルフィン殿下によればもうすでに相手役には話を通しているらしいが、詳細まで聞いていない。
    「そうだ、放課後までいるなら渡したいものがあるんだが」
    「ん? 暇っちゃー暇だな。今回はお前の顔見に来ただけだから」
    「はは。冗談はそれくらいにしてくれ。少し前に家族旅行でカルバード共和国へ行った時の土産があるんだ。もらってほしい」
    「んな、俺にまで用意しないでも」
     呆れたように肩を落としているが、満更ではない様子にほっと胸を撫で下ろす。卒業していった生徒たちと同僚、それから仲間たちへの土産に紛れてリィンが特別に選んだものだ。クロウへの特別が薄れるように、誰には何を買ったのか事細かにあげていく。
    「ったく物好きなやつめ」
    「まあ、そう言わず受け取ってくれると嬉しい」
     そう言って放課後に宿舎前で落ち合おうと食堂で別れたリィンは、放課後はやばやと仕事を片付けて待ち合わせ場所の宿舎へ向かった。
    「んで、土産って?」
     宿舎内にあるリィンの自室へクロウ招き入れ、家族写真の前に置いてある小袋から組紐を取り出した。渋い色合いの、灰色と青の紐で編まれたそれは、きっとクロウの銀髪に映えるに違いないと露店でついつい手に取ってしまったものだった。二色のなかに一本だけ赤が混じっているのもリィンの目を引いた。
     それにしてもこうして再会するまで、彼が長く伸びた襟足をばっさり切ってしまっていたらどうしようかと気を揉んだものだが、その心配が杞憂に終わってよかった。クロウには言えないが、気軽に撫で梳くような間柄であったらよかったのにと歯がみするほど長く艶やかなそれを気に入っていた。
    「共和国の龍來で見つけたんだがな。クロウに似合うと思って」
     編み方に東方の気配を感じさせる組紐を差し出す。受け取った彼は物珍しそうに眺めてからその場で生え際を括るように髪を結んでくれた。束ねられた銀髪に添えられた灰と青の組紐がとてもよく似合っている。彼の旅路についていけない代わりにリィンの分身が組紐となって彼のお供をしている気分が味わえそうだ。
    「どうだ、似合うか」
    「ああ。似合う。その、よかったら使ってくれると嬉しい」
     邪な考えが伝わらないよう、視線を外し組紐に向かって話しかける。改めて見ても彼の髪はずいぶん伸びた。襟足以外は定期的に散髪しているのか整えられているので、ここだけわざと伸ばしているのだろう。クロウならば煩わしいからとさっさと断髪してしまいそうなものだが、何か伸ばす理由でもあるのだろうか。
    「それで、これで用事が済んだんなら一緒に夕食どうだ? いつものバーニーズでもいいし、お前の導力バイクで帝都まで出るか。どっちでもいいぞ」
     思考の海に潜っていたところをクロウに話しかけられて瞬く。クロウが髪を伸ばす理由なんていくら考えても思いつくはずもない。意外と好意を持っている相手に褒められたからかもしれないし、それなら墓穴を掘るのは間違いなくリィンだ。
    「そうだな……、たまには帝都まで出るのもいいかもしれない。でも導力バイクなら帰りの運転は俺に任せてクロウだけ飲むつもりか?」
    「おいおい。どうせ明日はお前、自由行動日だろ。宿酒場の上に部屋とってふたりで飲みまくろうぜ。明日になって酒が抜けたら帰ってくりゃいい」
     適当だな、と笑うとお前が細かすぎるだけだと言い返されたので、クロウが適当すぎるんだとさらに切り返した。
    「なあ、リィン。ずっと気になってたんだが、得物。変えたか」
     それまでの空気が瞬く間に鳴りを潜め、二人のあいだに静寂が落ちる。
    「――ああ。その、色々あってな。太刀を新しくしたんだ」
     内心いつ聞かれるのかとひやひやしていたので、食事前に話してしまえるなら気が楽だ。なるべくクロウが重く受け止めないよう、なんでもない風を装う。
    「へえ。あたらしく、ねえ。前のはどうしたんだ。手に馴染んでたろ、あれ。てっきり部屋のなかに置いてあるのかと思ったらねえし」
     さすがクロウ、目敏い。痛いところを突かれてしまい、室内のあちらこちらへ視線を投げる彼にどう説明したものか思案する。しかし、下手に隠せば面倒なことになりかねない。結局、家族旅行で訪れたカルバード共和国にある温泉郷、龍來での事のあらましを洗いざらいぶちまけることとなった。
     リィンの前に突如現れた敵が双刃剣の使い手で、しかも二刀流だったと伝えたときはクロウの眉がぴくりと震え、太刀が折られてしまったと、己が未熟だった所為なのだと伝えると彼はいよいよ片手で目元を覆い、深いため息をついてしまった。
    「ええと、クロウ?」
    「言ってやりたいことが山ほどありすぎて、何から言ったらいいのか分からねえ」
     ほとほと困り果てた声色にリィンはなんと声をかけたらいいのか分からなくなってしまった。呼べよやら、俺がついていっていればなど漏らしていたが、あくまでリィンの都合で訪れたのだからクロウを巻き込むつもりは毛頭なかった。そもそも敵が現れたのも想定外だった。それに太刀が折られたのは、自身の力量不足でもあるし、相手が格上だったからだ。むしろ、折られてしまった太刀に申し訳なささえある。相手に有利であっただろう宵闇であったことや慣れない立地であったことを加味しても、まだまだ未熟なのだといやでも自覚させられた。剣聖の名に恥じぬよう、さらなる鍛錬が必要だ。
    「確かにあの太刀には俺も思い入れがあったから、折れてしまったのは寂しい」
     無意識に真新しい太刀の柄を握る。長年握り続けて手に馴染んだあの感触ではない。
     あの太刀は、老師から授かり、トールズ士官学院に入学したときも、クロウを取り戻すために彼と戦ったときも、黄昏を乗り越えたときも、いつもリィンとともにあった。役目を終えたヴァリマールは去り、クロウもまた旅に出てしまった今、唯一長年の相棒と呼べるものだった。
    「――なおんねえのか」
     クロウの問いに首を振って答える。今さら目が熱くなってしまい、ぐ、と目元に力を込めて溢れないよう努めた。
    「一度折れてしまった刀は復元できない。たとえ打ち直したとしても脆くて武器には向かないんだ。いっそ溶かして金属を再利用するくらいかな」
    「そっか」
     つらかったな。抱き寄せ、リィンの頭を肩に乗せたクロウがぽつりとこぼす。背を優しく叩く手が、泣いてもいいんだと促してくれているようだ。
     新しい太刀は仲間が手配してくれたおかげで随分前から手元にあったが、やはりまだ手に馴染んだとは言い難かった。握った柄の感触、振るったときの重さ。異なる間合い。ひとつひとつを身体に染み込ませていかなければならない。真新しいそれを振るうと同時に愛刀だったそれを忘れていくようで、胸に痛みを覚えたのは一度や二度ではない。
    「あれを金属の塊にしてしまうのは忍びなかったから、二本の守り刀に仕立て直してもらったんだ。よかったら受け取ってくれないか」
    「貰うの、俺なんかでいいのかよ」
    「クロウが、いいんだ。あれを持つならクロウがいい。折れてしまったあの太刀とクロウがいたから今の俺があると思うから。折れた刀で守り刀なんておかしいとは思うんだが」
    「貰う」
     背中に回った彼の腕が殊更強くなる。
     守り刀に願ったのは、クロウの旅の無事を祈ったのと、もう一つある。元は一本の刀だものだ。もしかしたら、彼をリィンのところに引き寄せてくれるかもしれないなんて浅ましい欲も含まれていた。
    「ありがとう」
     瞬きでこぼれ落ちた熱い雫はクロウのコートに吸い込まれていく。クロウは何も言わない。無言の許しにますます涙が溢れた。
    「無理に話させて悪かったな」
    「いや、俺もすっきりしたよ。こちらこそありがとう。でも、誰にも言わないでくれると助かる」
     秘密か、と声を潜めて囁くのでリィンは内緒話をするように秘密だと目を細めた。
    「念のためにもう一度確認させてくれ。連中と遭遇したのは龍來で、《斑鳩》、《黒神一刀流》の使い手って名乗ってたんだな」
    「ああ。東方のものなのか珍しい装束だった」
    「ふーん」
     クロウの抱擁から抜け出すタイミングを逸してしまったリィンは肩口でなにやら思案している様子のクロウにされるがまま、じっとしているしかなかった。
    「ところで俺の信条覚えてるか。楽しみだなあリィン」
     ようやく抱擁から解放されたものの、リィンの肩を掴んだ彼ににっこり微笑まれる。
     不思議だ。ウインクしているだけなのに、彼の笑顔で背筋が寒くなる。きっと自分以上かもしれない双刃剣の使い手に闘志を燃やしているのだろう。彼から漏れ出る怒りのオーラにたじろいだリィンは本能的にここは頷いておいたほうがいいと察知し、同意を示した。
    「さてと。これから忙しくなりそうだから、今日はゆっくり飲みまくるぞ」
    「そうなのか。クロウと飲むのは結構好きだから、こうしてたまには顔を見せてくれると嬉しい」
    「気が向いたらな」
     一瞬身を固くした彼がリィンの頭をぽんぽん叩く。優しい声に頬が緩むのを止められなかった。
     結局、時間も時間だからとリーヴスにある宿酒場バーニーズで酒を飲むことにしたふたりは、酒を飲み交わしながら近況報告しあった。クロウといることで気が緩んだのか、したたかに酔ってしまったリィンは彼に連れられてどうにかこうにか自室のベッドに身を投げ出した。
    「なあリィン。俺は俺の大切なもんが傷つけられんのが嫌いなんだわ。やられたらやり返す。まあでも、お前は自分でやり返したいだろうしな」
     どうすっかな、と楽しげな声が遠くに聞こえる。眠くてもう瞼を開けることも叶わない。髪を撫でる手が与えてくれる心地よさに身を任せ、リィンはそのまま眠りに落ちた。



     それから暫くして。偶然クロウとともに訪れた共和国で彼らとの再戦を果たしたリィンが、無事折られた太刀の仇を打つことができたのはまた別の話だ。

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    SPUR ME12月12日に出す予定の展示品を尻叩きとサンプルを兼ねて一章丸々アップ。こんな感じのクロリンの話が五感分連続していく感じです。シリアスが続きますがハピエン(にしてみせる!)

    ちなみにタイトルは全て「五感に関する部位のことわざ」を当てはめています。変わるかも。
    医者と味噌は古いほどよい リィンは《黒の工房》から救出されて以来、違和感に気付いた。《巨イナル黄昏》より前に感じ取れていた味が、分からなくなっていたのだ。一か月近く食事をしていなかったこともあり気付かなかったが、しばらく食べているうちにようやくその違和感に辿り着いた。原因は分からないが、相克に向かうこの状況で他の心配事を出来ればリィンは作りたくなかった。だから、黙っている事にした。――目に見えて減っている食事量を前に、既に全員が気が付いているだなんて思わないまま。

    「そういうワケでクロウ、よろしく」
    「いや待て、どうしてそうなる」

    セリーヌとデュバリィに足止めさせて始まる新旧Ⅶ組大会議。答えは出ているも同然だったが、それでも認識の擦り合わせが必要だと集まったのだが。驚く程分かりやすいリィンの事だ、擦り合わせる間でもなかったが。それが分かれば押し付ける先は一つしかない。フィーの直球な言葉にクロウは予想もしていなかった為狼狽えた。リィンは無自覚ではあるが彼に甘える。そしてクロウは彼が甘えてくる自覚はあれど甘えさせているという自覚はなかった。何も自分に持ってくることはないだろうに、それがクロウの言い分だがそれに呆れている様子もまた感じ取っている事もあって困っている。
    3129

    さらさ

    MOURNING遅刻大魔王によるすったもんだクロリンがバレンタインデーにくっついて分校全体に知られるまで。ポイピク練習も兼ねてる舌先の魅惑


    「え、え~!?クロウくんにチョコレートあげてないの!?」

     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406

    さらさ

    MOURNINGフォロワーさんのネタをサルベージした一品。二パターンのうちの一個。曰くフォロワーさん的にはこっちがお望みだったようなのでこちらを先にアップ。
    でも本当に様になるねこの男は。

    尚そんなに活躍していない偽名は、私の趣味です(特にローデリヒ)
    踊ってください、愛し君「あれが例のターゲットか」
    「そうみたいだな。さぁて、どうしてやろうか」

     帝国のとある貴族邸にて。一時期帝国とクロスベルを行き来していた偽ブランド商がこの屋敷にて開かれる夜会に紛れてどうやら密談を行うらしい。そこでクロウとリィンには穏便な形での取り押さえるという依頼が舞い込んできたのである。相談した結果、ターゲットが女性である事とクロウ曰く二人そろって見目もいい事から凝った変装は必要ないだろうという事になった。ただリィンの場合は顔と名前を知られすぎているので、一工夫必要だとクロウの手によって好き勝手され。ラウラやユーシス、時間が出来たからと顔を出したミュゼの審査を受けてようやく目的地に辿り着いたのだが。如何せん、そこまでの振り回されたこともあって少々疲弊していた。潜入捜査に男二人は流石に目立たないだろうかとは思ったものの、その手のプロから珍しい事ではないとのアドバイスをもらったので女装させられるよりはましかと腹を括った。
    1996

    さらさ

    MOURNING閃Ⅰでの8月の自由行動日、例のイベントで香水の匂いが移ってしまった後の話
    無自覚だった恋心を自覚してしまうクロ→(←)リン

    いつか続きは書きたい
    『ラベンダーの誘い』

     その日の夜、話題になったのはリィンがどこかの女性に迫られて香水の移り香をつけて帰ってきたという事だ。発端は委員長ちゃんだったが、それは瞬く間に第三学生寮へと広まっていった。女性陣から詰め寄られているのを遠目に、匂いはラベンダーだったと聞いたことを思い出す。この近郊で、ラベンダー。そして今日は日曜日。そのピースが揃ってしまうと嫌でもあの魔女の姿を思い出す。全く、純朴な青年に一体何をしているのやら。からかいついでにリィンに近付いてみれば、確かに思い浮かべた人物が使っている香水と同じ匂い。曰く、彼女の使う香水のラベンダーは特殊なものだそうで。俺で遊んでいるというのを嫌でも分かってしまう。

    「いやぁ、まさかリィンがそんな風に迫られちまうとはなぁ」
    「だから違うって言ってるじゃないですか」

    正直、腹が立つ。その反応さえも面白がられているのだから、余計に。そこでふと、どうして自分が腹立たしく思ったのかを考えてしまった。ただの後輩、今はクラスメイト。お人好しで他人優先、自由行動日や放課後に何もしない彼を見たことはない。危ういバランスの上で成り立ついたいけな青少年、それだ 904

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     生活態度は至って真面目、剣技は教科書通り、 870

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    「え、え~!?クロウくんにチョコレートあげてないの!?」

     トワの素っ頓狂な声が、第Ⅱ分校の食堂に響き渡った。七耀歴1208年、2月。もうすぐバレンタインデーだ、食堂やら寮のキッチンを貸し切っての菓子作りに女子生徒たちが浮足立っている。去年の同時期と言えばクロスベル解放作戦当日だ、直接参加した訳ではないとは言えど親しみある教官と生徒が参加するともなればムードもそれどころではなかった。実質、今年が初めてのトールズ第Ⅱ分校バレンタインデーである。男子生徒も一部落ち着かない様子ではあるが、それも今更と言ってしまえばそれまでなのだが。ともあれ、青春では割とお約束のイベントが差し迫ったことを踏まえ、生徒たちの押しに負けて食堂にやってきたリィンなのだが。

    「えっと、俺はクロウとは何もないですしチョコレートもあげてませんよ?」

    という言葉で冒頭に戻る。指し手であるミュゼでさえ予想外だったその回答に、誰もが頭を抱えた。この朴念仁め、は共通の認識であるが故に誰も口には出さないが。

    「で、でもでも!リィン教官はクロウさんのこととても好きですよね!?」

    ここでもユウナから容赦ない一 4406

    さらさ

    MOURNING「何かあって不機嫌そうなクロリンが戦闘では息ピッタリな話」の続き。やっとくっつきます。
    付き合ってないのに痴話喧嘩は犬も食わない リィンとクロウの不仲騒動から数時間。第五階層の最奥まで回って《円庭》に戻ってきた面々は二人を除いて疲れ切った表情をしていた。余りにも不毛な痴話喧嘩、それでいて付き合っていないというのだから手に負えない。瞬く間にそれは広がり、新旧Ⅶ組は総出で溜息をつき、他の面々も事情を察したように苦笑いをしていた。一部生温かい目で見る者もいたようだが。

    「全く、本当にいいのかい?リィン君だって同じ気持ちを持っているのだろう?」
    「……あいつには悪いが、応えられるほど真っ直ぐじゃねぇんだ」

    テーブルを囲って、かつて試験班だった面々がクロウに詰め寄る。アンゼリカの言葉に彼は首を振った後、真剣に迫ってきたリィンの事を思い出す。構えば構う程、愛情と執着心そして独占欲が生まれ、その度にクロウは己を律してきた。果たしてそれは必要か、と。必要であるならばいくらでも利用できる。だと言うのに彼の場合はどうだ、根も真っ直ぐでたくさんの人から慕われている。そんな彼を利用するだなんて出来ないし、したくもなかった、これはフェイクでも何でもない本音であった。未だに《C》だったころの話も出してネタにするのは正直言ってやめて欲しいのだが。
    3623

    さらさ

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    でも本当に様になるねこの男は。

    尚そんなに活躍していない偽名は、私の趣味です(特にローデリヒ)
    踊ってください、愛し君「あれが例のターゲットか」
    「そうみたいだな。さぁて、どうしてやろうか」

     帝国のとある貴族邸にて。一時期帝国とクロスベルを行き来していた偽ブランド商がこの屋敷にて開かれる夜会に紛れてどうやら密談を行うらしい。そこでクロウとリィンには穏便な形での取り押さえるという依頼が舞い込んできたのである。相談した結果、ターゲットが女性である事とクロウ曰く二人そろって見目もいい事から凝った変装は必要ないだろうという事になった。ただリィンの場合は顔と名前を知られすぎているので、一工夫必要だとクロウの手によって好き勝手され。ラウラやユーシス、時間が出来たからと顔を出したミュゼの審査を受けてようやく目的地に辿り着いたのだが。如何せん、そこまでの振り回されたこともあって少々疲弊していた。潜入捜査に男二人は流石に目立たないだろうかとは思ったものの、その手のプロから珍しい事ではないとのアドバイスをもらったので女装させられるよりはましかと腹を括った。
    1996

    さらさ

    DONEリクエストより「クロリンで指輪交換」でした。指輪を交換した勢いで誓ってもらいました。場所が場所だけどね!

    リクエストありがとうございました!
    誓いの環をその指に「買って、しまった……」

     十二月もまだ初旬、たまたま帝都に出たという理由だけで散策して見つけたシンプルな指環。ああ、あいつに似合いそうだと思ってうっかり買ってしまった物だったがこれを渡せる程の関係でもないという事は彼――リィンも分かり切っていた。一応、お付き合いしている関係ではある。だが余りにも空白の時間が長すぎた事、戦後の事後処理に追われて時間が取れない事が相まってしまい未だ実感が湧かないのが現実であった。だからこれは余りにも早すぎるというもので。そっとコートのポケットへと仕舞ったのだった。

    「やべぇ、買っちまった……」

     同時期、別の男もまた同じ事をしていた。たまたま見つけた最低限の装飾しか施されていない指輪。ああ、あいつの指にはめてしまいたいだなんて思っているうちに買ってしまった代物である。お付き合いを始めてそろそろ三か月、今度こそ手を離さないと誓ったものの状況がそれを許さなかった。彼らは別々の場所で必要とされ、帝国内を東奔西走するような日々である。言ってしまえば魔が差したようなものだと、彼――クロウは思う。なんせ相手は天性の朴念仁で人タラシ、所有痕の一つや二つ残しておかねば相手が近寄ってくる始末だ。その状況に頭を抱えていたのは事実だが、かといってここまでするつもりはまだ毛頭なかった。
    1833