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    甘味。/konpeito

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    本日の800文字チャレンジ
    クロ+リン/十二月三十一日
    ⅡとⅢのあいだ

    キンと冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。
     十二月三十一日。今日はリィンのクラスメイトであり、敵であり、悪友であった男の命日だ。彼を失ってからもう、一年の歳月が経とうとしている。
    「さて、行くか」
     トリスタにある第三学生寮を出発したリィンはヒンメル霊園に向かう途中、花屋に寄って小ぶりな花束を見繕った。
     クロウの墓前に供えるための花束だ。
     店員には見栄えのあるそれを幾度も勧められたが、そのなかでも大人しそうなものを選んだ。
     冬の空気が頬を撫でる。灰色の雲に覆われた空からは今にも雪が降ってきそうだった。
     導力バイクで到着したヒンメル霊園は閑散としていた。
     年の瀬は家族で過ごす者が多い。
     リィンも例外ではなかったが、いつ出されるとも分からない政府からの要請にクロウの命日もあり、落ち着いてから帰省する旨を手紙にしたためていた。ユミルにいる両親も分かってくれるだろう。
     がらんどうな霊園をひとり登っていく。クロウの墓石に膝をつき、持ってきた花束を供えた。
    「クロウ、久しぶりだな。なかなか来れないけれど。今日だけはどうしても来たくて」
     彼の名前が刻まれた墓石を撫でる。冷たい石の感触だけが指先に残った。
     それからしばらく墓石の傍に佇み、ひとりきりになった寮生活の話や、出席日数が足りなくなりそうなことなど、取り留めもなく話した。
    「もうそろそろ帰らないとな」
     立てた膝に顔を埋める。立ち上がりたいのに、なかなか立ち上がれなかった。
    「――雪だ」
     晒された首筋に雪が一粒落ちる。冷えたそこを手で庇い、空を見上げた。
     不意にクロウの言葉が脳裏をよぎる。
     視界にはどんよりした曇天が広がったままだ。雲の合間からひらひら落ちてくる雪花がリィンの頬へ落ちた。
    「そうだな。もう、行くよ。よい年を」
     溶けて雫になったそれを指の腹で拭う。最後に彼の名前をもう一度撫で、リィンはヒンメル霊園をあとにした。
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