木蓮、夜明け、なんでそんなこと言うの1.マグノリアの君
薬品棚に並ぶコーヒーとミルク。僕はそれを眺めるのが嫌いだった。
君が当たり前のようにとるその習慣は、僕が小さな頃通っていた病院で見かけていたものだから。
君が僕に伸ばす手、頬を滑る指から、薬品の香りがするのが嫌で。君の全てがエレーナ先生を想起させて、僕は君に木蓮――マグノリアの香りのハンドクリームを贈った。真っ白な香りをするそれが全てを塗りつぶすように、エレーナ先生の残り香を塗り替えるようにと祈って。
今では、木蓮が香る季節になると、君のことを思い出すようになりました。
今更、なんでそんなこと言うのって、君は言うね。
こちらはもう、夜明け前です。
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薬品棚に並ぶコーヒーとミルク。エレーナ先生もそうしてたんだ、と寂しそうに笑うあなたのことが嫌いでした。
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