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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.6───病に苦しむだけではない。霊魂が抜けだし、空になった肉体は日頃の本人とかけ離れた行動をする。行動を律していた霊魂が抜け出すと病は治る兆しを見せず生気が抜け、無気力になることが多い。そこに悪霊が取り憑くと本人だけでなく、周りに死や不幸をもたらす存在になってしまうのだと言う。その場合、巫者は悪霊を祓い、見つけた魂を本人の身体に戻さねばならない───

     出席が義務付けられている礼拝が終わり、学生たちはそれぞれに次の教室へ向かおうとしている。そんな大聖堂の中にクロードのくしゃみの音が響いた。顔を咄嗟に肘の内側に当てていたがそれでも完全に音を殺すのは難しい。《寒がり、寒がり、襟巻きで首を絞められるのが怖いのさ》ディミトリの頭に響く声がクロードを小馬鹿にする。夜な夜な修道院の敷地内を彷徨くクロードはディミトリが部屋にいないことを知っているが、沈黙を守っていた。
    「行儀が悪い。今が礼拝中でなくて良かったな」
     ローレンツがそっと囁き、左肩の上へ伸ばされたクロードの手に手巾を渡す。彼が実は親切なことを知る学生は割と多い。
    「すまんな」
     クロードが渡された手巾で鼻と口を押さえながら謝罪した。ドゥドゥーが興味深そうに彼らのやり取りを見ている。レスター諸侯同盟は君主を戴かない国だ。だからクロードは従者なしで士官学校に入学している。隣席に座るローレンツは単なる学友であって家臣や部下ではない。
    「やはり山の夜は寒いか?」
    「正直言って甘く見てたな」
    「クロード、体調不良なところ申し訳ないが少し時間をくれ」
    「内密な話がしたいのであれば失礼する」
     ディミトリの言葉を聞いたローレンツが足早に去ろうとした。
    「いや、そんな仰々しい話ではない。先生から課題協力の話はあったか?」
     クロードは英雄の遺産に対する興味を隠さない。政治に疎いベレトは単純にそれなら肉眼で見られる機会を与えたい、と思っているようだ。しかしディミトリとしてはこれ以上ゴーティエ家のものを好奇の目に晒したくない。
    「断った。だが、本音を言えば……」
     言葉を続けようとしたところでローレンツの大きな手がクロードの口を塞ぐ。
    「クロードは今節、円卓会議に出席するのだ。だから安心してくれたまえ」
    「俺だってシルヴァンに同情してるのに……」
     掌越しに聞こえてくる言葉は順当なものに変換されていた。こんな風に互いが補完しあうことを期待して、彼らは同学年にされたのかもしれない。ディミトリはまともな大人が国の舵取りをしている同盟が少し羨ましかった。


     ローレンツは帝国と接するグロスタール家の嫡子だがシルヴァンとも親しい。女子学生からの評判は散々だったが、ローレンツは社交的でフェルディナントとも親しい。散々揶揄っているがクロードも彼の真っすぐさを好ましく思う。
     結局、課題協力はローレンツがすることとなり、クロードもそれが正しい人選だと思ってガルグ=マクを発った。自重できた、と見做されているが兄弟の殺し合いに何を思うのか自分でも予想できないから、という方が正しい。

     円卓会議で散々大人たちにやり込められたクロードがガルグ=マクに戻るといつも溌剌としているローレンツがひどく塞ぎ込んでいた。隠そうとしているがふとした拍子に浮かべる表情がどこか暗い。
     揶揄する気になれなかったクロードは彼を招くため寝台の上から机と椅子の上に物を移動させ、座る空間と卓を置く空間を確保した。杯とデアドラで買った酒を寝台脇の卓に置く。長い夜になるかもしれないと思って洋燈に灯り油も足してある。
     寝台で隣に腰掛ける寝巻き姿の彼は杯に口を付けるなり、恐ろしい───と呟いた。マイクランの件に関しては箝口令が敷かれている。だが人の口に戸は立てられない。
    「一体、何があったんだ?」
     ローレンツは言葉を選びながら黒風の塔で何があったのか、教会がどんな沙汰を下したのか、を説明してくれた。
    「グロスタール家に、教会からそんな説明を受けた記録は存在しない」
     勿論リーガン家にも伝わっていない。だが、セイロス教徒にとって無謬である中央教会の迅速な反応から察するに───危険性について、かなり昔から把握している。
    「ローレンツ、俺がお前の代わりに言うから」
     クロードは思わず白い手を取ってしまった。ガルグ=マクに戻っても緊張が解けていないのだろう。彼の指先は冷え切っていて唇は震えている。千年近い信頼を蔑ろにされたのだ。我がことではないというのに何だか無性に腹が立つ。
    「僕から言葉を取り上げないでくれたまえ」
    「いいや、俺が言う。武器だぞ?!命の奪い合いの時に使うんだぜ?中央教会は不誠実だ」
     切れ長な目の縁に涙が溜まっているが本人は絶対に認めないだろう。言わせてしまったという後悔の涙なのか同意を得られた安堵の涙なのか、を確かめるには味をみるしかない。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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