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    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.8───鉄鍛冶職人は武具、馬具、調理器具、農機具と言った人間の生活に関わる品だけでなく巫者が使う呪具、つまり精霊や祖霊が関わる品も作る。霊を呼ぶ時に鳴らす鈴や儀式の際に使う角付きの兜、捧げ物を載せておく皿などだ。ダスカーの神話では、鉄鍛治の技法は天から授かったとされている(中略) 霊力がある鉄鍛治職人は祈祷を捧げながら呪具を作り、霊力を移す。霊力を吸い取ってしまわぬよう彼らの仕事道具には数年に一度、生贄が捧げられる───

     アドラステア帝国からディミトリの母国ファーガス神聖王国が独立し、ファーガス神聖王国からレスター諸侯同盟が独立した。どの国もセイロス教を信じているせいか帝国は南征、王国は北伐、同盟もパルミラの侵攻を止める防衛戦しかしない。国の周縁がちぎれていく時以外フォドラの中で大乱が起きることはなかった。
     魂の平穏を司るガルグ=マク大司教座はフォドラの中心でもある。《そのなまくらをへし折って捨てろ、首をねじ切れ》そこに三国の若者が集い、グロンダーズの野で武を競い合うのが鷲獅子戦だ。国同士の争いが絶えて久しいフォドラでは学生時代の勝ち負けが終生にわたって付きまとう。
     故郷であるファーガスや山中であるガルグ=マクと比べると生温い、平地の空気が身体にまとわりついている。豊かな穀倉地帯の空気がディミトリにはひどく濃厚な気がした。
     行軍中、殆どの学生たちは緊張していたが中には例外もいる。フェリクスは冷めた目で辺りを見回していたし、クロードは不思議そうな顔をして緊張する学生たちを眺めていた。確かにこんなものは児戯に過ぎない。
    「仲良く行軍しといて今から敵味方だ、と言われても調子が出ないよな」
    「あら、敵味方なんていつ切り替わるか分からないものでしょう?」
     引率役の騎士から演習をつつがなく進行するため最後の確認を、と言われた級長たちは本部に集められていた。彼らが手にしている斧も弓矢も訓練用に殺傷力を削いである。《けだもの、その槍をあいつの目玉に突き刺せ、きちんとねじこめ》クロードの髪飾りが持ち主の動きに合わせてちらちらと揺れるせいか反射的にディミトリの瞼は痙攣した。《きっと目玉はぐしゃぐしゃだ》それを誤魔化すように籠手を付けたままの手で軽く頬を押さえる。《油断するな、ここは敵だらけだ》
    「争うな、と言うことかもしれない」
     ディミトリは半分、亡霊たちに対して言い返した。
    「王子様は面白いことを言う。親近感が刃を鈍らせるかどうか、は検証する価値があるかもな」
     ゴーティエ辺境伯は北の地で命を落とした帝国出身の前妻とガルグ=マクで出会っている。無骨な彼と前妻の愛の証は破裂の槍が喰らってしまった。


     ガルグ=マクに帰還後、クロードの提案で勝者敗者の区別なく全員参加の宴が開かれた。勝者だけで呑んでも親近感は育たない。同盟のものたちは奢侈が過ぎる、と眉を顰めるものもいたがそんな風だから母方の先祖は王国から独立したのだろう。
     だが今はクロードも輪に加わって手拍子を打って騒いでいる。王国に伝わる酒の飲み方で正直言ってかなり野蛮だ。男女混合ではやらない。参加出来るのは発起人と同じ性別のものだけだ。参加者はまず輪になって座る。そして真ん中に空になった酒瓶を寝かせてくるくると回し、止まるまで手を叩きながら待つ。止まった時に酒瓶の口の真正面にいるものは酒で満たされた自分の杯を飲み干さねばならない。最初に発起人のシルヴァンからその手順を聞いた時、クロードは瓶の回し方次第でいくらでも酒量が操作出来るのではないかと疑った。しかしこの場に限っては皆、疲労と酩酊で手先は狂っているのでその手の不正はない。
     今回、酒瓶が指名したのはアッシュだ。向かい側にいるクロードから見てもわかるほど彼の頬は酒精で赤く染まっている。
    「かっこいいとこ見せてくれ!無理なら喜んで手伝うぜ」
    「アッシュ、こいつの言うことは聞かなくていい。シルヴァンは単に他人の酒が呑みたいだけだ」
    「シルヴァンもフェリクスも心配しなくていいですよ!」
     周りは好き勝手に囃し立てるがこうして助け舟も出す。アッシュはこうした呑み方に慣れているのかどちらも否定せず、強いられたわけでもないのに杯を空にして掲げた。クロードの隣に座るローレンツも苦笑しながら手を叩いている。
    「意外だな。下品だなんだと文句を言うかと思ったが」
    「今は気楽な場だからこれで良い。だが円卓会議には導入するな」
     機嫌の悪そうな諸侯たちが手拍子を打ち、円卓の真ん中で寝かせた酒瓶がくるくると回転する様子を想像したクロードは思わず吹き出してしまった。ローレンツ本人は嫌がるだろうが議題として提案し、国の記録に残してやりたいとすら思う。だがそこまでやっても彼が他者を許容する様子や手を叩く音はクロードが記憶しておくしかない。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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