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    「説明できない」35. 晨明・下
    赤クロ青ロレの話です。

     一一八五年にベレトが現れると知っているのはクロードとローレンツだけだ。だが二人の記憶や知識は食い違いも多い。クロードの記憶では行方不明にならなかった大司教レアの行方はローレンツが言う通り行方不明のままだ。レアはローレンツの知るベレトや今やクロードしかその存在を知らないベレスを儀式に参加させそこから事態は急展開を遂げている。絶対に何か秘密があるのだ。レアを見つけて洗いざらい全て話せと言いたいところだがクロード自身も秘密を抱えている。

    「心を開かねば信頼関係など築けない」

     クロードと説明できない仲であるローレンツはこう語った。彼の素朴な言葉は重い。ローレンツはクロードの秘密を察したが暴こうとしなかったし誤魔化そうともしなかった。先に心を開いて語るのを待ってくれた彼にクロードはまだ話していないことがある。

     襟巻きを巻いて竜舎に行くとクロードのことは何でも把握しているつもりのナデルが表の柵にクロードの愛竜を繋げて待ち構えていた。ナデルはパルミラ王である父のお気に入りで彼は生かして帰せたが彼の部下を無駄死にさせてしまったこともありクロードは彼に引け目を感じてしまっている。大柄な彼はその体つきに似合わず繊細な作業も得意でクロードが乗る飛竜の爪を磨いていた。

    「まあ適当にやっておいてくれ」
    「あまり長居しないことだ」

     フォドラだけにかまけるなというナデルの言葉は正しい。かつてのクロードはフォドラに入れ込みすぎて命を落とした。

    「この程度のことが出来ないなら宿願は果たせないさ」
    「俺にはどうにも本気を出しているように感じねえなあ」

     手入れをされて心地よいのか飛竜が嬉しそうに小さく鳴いている。クロードも柵に乗って手を伸ばし目脂を拭いてやった。

    「弓を引き絞るのは寸前でないとただ腕が疲れるだけだ。とは言えいつでも打てるように準備しておく必要はある。首飾りに兵を集めてくれ」
    「素通りの算段がついたのか?」

     ローレンツが言う通り心を開かねば信頼関係など出来ない。自分より隠しごとが一つ少ないナデルが適任だろう。

    「まあ、な。首飾りのホルスト卿に書状をお前が直接届けてくれ。その場で読ませて欲しい」
    「それが卓上の鬼神の策か?」

     まぁね、と言うとクロードはナデルに胸元から取り出した書状を渡し飛竜に飛び乗った。鞍に跨り高度を上げていくと眼下にデアドラの街が広がる。港には船がたくさん停泊していた。前回、パルミラ軍を引き入れる時は海路を使っている。ホルスト卿を説得するのが面倒だったからだ。市民の犠牲者は最小限に抑えたが市街地が戦場となった為デアドラの水路は赤く染まりクロードは命を落としている。空中は風除けになるものが何一つないので体は冷えるものだが今、クロードが震えたのは寒いからではない。失った物の大きさを知っているからだ。

     クロードの飛竜は陽気で騎乗しているとその性格に救われることが多い。それでも鞍上の主が落ち込んでいれば気がついて影響を受けてしまう。せっかく気持ちよさそうにオグマ山脈に向かって飛んでいるので飛竜の為にも落ち込むわけにはいかない。

     何度か休憩を挟みローレンツと心を通わせなかった過去の無責任な単独行と同じ早さでクロードは夜明け前のガルグ=マクに到着した。密偵の報告通り放置されているのがクロードには信じられない。何故エーデルガルトはここを利用していないのだろうか。

     ガルグ=マクには呆然としているベレトがいて状況を説明すると彼はレアの身を案じた。見た目だけで言うならベレトは若造に分類されるはずだがその態度はレアに対するものであるにもかかわらず年長者のように見える。食事に誘うと健啖家の彼は無言で頷きクロードが用意していた干し魚とエールそれに麵麭は殆どがベレトの胃袋に収まった。五年間の記憶がないと知っても食欲を失わないベレトの頑強さは褒められるべきだろう。そしてベレトはクロードが約束の日の筈なのにまだ他の者が来ていない件について冗談を言うと我々に人徳がないから、と返してきた。五年間も行方不明になっていたのでは、ということらしい。だがクロードはベレトが知る由もないかつての失策について言及されたような気がして肝を冷やした。

    「あんたはそこそこ慕われてただろ。てことは、級長だった俺のせいか?」

     ベレトは避けられるような心当たりがあるのかという顔でクロードをじっと見ている。生粋のフォドラ貴族であるローレンツの言葉に耳を傾けなければ思い当たるところだらけの選択をした筈だ。頭のどこかにセイロス教徒を愚かな臆病者たちと見下す部分があったから戦場の霧に気付かずかつてのクロードは足元を掬われている。居た堪れなくなったクロードはベレトの追及を躱すために盗賊退治を持ちかけた。

     心に立ち込める霧が晴れることを期待していたわけではない。だがその後の展開はあまりに出来すぎていてまるで大掛かりな歌劇のようだった。闇が一番深いのは夜明け前だと言う。その闇の四方から集まるかつての級友たちが徐々に訪れる夜明けの光のように眩しく思えてクロードは皆に気づかれないように涙を拭った。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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