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    「説明できない」36.大望・上
    赤クロ青ロレの話です。

     戦闘中は流してしまっていたが五年間の時を経て再会したベレトの風貌が全く変わっていないと気付いたローレンツは言葉を失った。本当に彼が言う通り以前、閉じ込められたザラスの闇のような空間で眠っていたのかもしれない。何せ誰にも明かしていないがおかしなことが起きた身の上であるのはローレンツも同じだ。どんな事象もあり得ないと切り捨てることはできない。

     瓦礫だらけの修道院だがベレトや学友たちそれに親交があったセイロス教会関係者たちが敷地内を歩き回っていると学生時代が戻ってきたような気分になる。だが自分も含めて五年間で皆それぞれ成長した。クロードの弁舌もそのひとつで流れるような話ぶりに磨きが掛かっている。ヒルダも指摘していたがクロードは舌先だけでセイロス教会と騎士団を巻き込み三国のどこにも行きやすい要衝をレスター諸侯同盟の拠点にした。彼の記憶で彼を打ち破ったエーデルガルトがそうしていたのだという。エーデルガルトの策を貪欲に取り入れる様にローレンツは正直言って戸惑っている。

     学友たちがいない場所でゆっくり考えようと思ったローレンツが玄関ホールに佇んでいるとそこにベレトがやってきた。どうやら五年前のように敷地内を駆け回っているらしい。これからも彼に用事がある時はどこにいるのか探すのに苦労しそうだった。記憶の中と同じく淡々と話しかけられて

    「父には書簡を送ってある……。万一、反対されてもここに残るつもりだ」
    「悔いはないね?」
    「ありません。クロードが暴走しないように監視するのも僕の務めだと思っている。先生こそクロードに巻き込まれて不本意なのでは?」

     ベレトは躊躇なく首を横に振った。聞くところによるとクロードとたった二人であの盗賊の巣窟に入り込み戦闘を開始したのだと言う。後少しでも自分とイグナーツの到着がそして皆の到着が遅れたらと思うと寒気がした。

    「とにかく皆の話を聞きたいんだ。だから今もこうして何が起きているのかさっぱりわからないからクロードにも話を聞きたいしレアからも話を聞きたい」

     大司教を親しげに呼び捨てに出来る者がこの世に何人いるだろうかとローレンツは考える。

    「納得のいく答えが返ってくるのでしょうか」
    「それはほら"求めよ、そうすれば与えられるであろう"という位だからまず求めるのが大切なんだろう。それに……」

     ベレトはガルグ=マクに来てから初めて手に取ったと言う聖典から聖句を引用し若草色の瞳で周りを見回すと唇の前に人差し指を立て小声で言葉を続けた。

    「前も話したが俺はエーデルガルトからも話を聞きたいくらいなんだ」
    「先生はこのフォドラで最も器が大きいのではないだろうか」

     ベレトはローレンツの賛辞を耳にして小首を傾げているが皮肉でもなんでもなく心の底からローレンツはそう思う。ジェラルドの仇でありこのフォドラ中に悲劇を起こしたエーデルガルトの話に耳を傾ける価値はあるのだろうか。耳を傾けたところで謎が解け心が癒されるような瞬間が来る、とローレンツには思えない。だがベレトは違うのだろう。

    「これから忙しくなる。人手も絶対に足りないしここに残ると判断してくれて嬉しいよ」

     差し出された手は手袋に包まれていたがローレンツはベレトの手の温もりを感じられたような気がした。駆け回って話を聞いているベレトと皆は何を話したのか。ローレンツも皆と話したくなってきて玄関ホールを後にした。

     枢機卿の間に向かうとローレンツが死の寸前まで背中を任せていたフェルディナントがいた。この五年の間、彼がどれほど苦労したのか多少はローレンツも知っている。フェルディナントに関してもローレンツとクロードの記憶は食い違いを見せた。クロードは黒鷲遊撃軍の一員だったと言う。ローレンツは戦死する寸前にエーデルガルトのフェルディナントに対する悪意に気づいたのでこれは大きな違いだ。

    「この身が朽ちようとも、私はエーデルガルトを止めてみせる。一度、彼女に刃を向けた以上……それを翻すことは、私にはできない」
    「フェルディナントくんは正しい。今後も共に理想の貴族のあり方を追求する友であって欲しい」

     ローレンツがそう言うとフェルディナントは学生時代に見せていた太陽のような笑みをその顔に浮かべた。クロードのように自分を揶揄ってこない彼のことも絶対に死なせたくない。

    「ローレンツ、黒鷲の者のうち私の他に誰がガルグ=マクにいるか把握しているか?」
    「ペトラさんとドロテアさんの姿は見かけたよ。先生と熱心に話していた」

     フェルディナントの表情が翳りを帯びた。黒鷲の者に限って言えばエーデルガルトとヒューベルトがいないのは当たり前としてカスパル、リンハルト、ベルナデッタがこの場にいない。彼らとガルグ=マクにいる者たちの違いに注目するか共通点に注目するかで目に見える景色は正反対となるだろう。

    「すると帝国、いやエーデルガルトたちから戦力外と見做された者だけがここにいるわけか。見返してやらねばな」

     残念ながらローレンツとフェルディナントの見る景色は今のところ正反対となった。ローレンツと同じ景色を見る者は未だにクロード以外存在しない。
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    9660moyunata

    DONEテレビゲームをするだけの現パロ年後クロロレ
    光属性ですご安心ください。
    「ローレンツはゲームとかしないのか?」
    「そんなもの、時間の無駄だろう」
    やっぱりそう言うと思った。庶民の娯楽に現を抜かしてる暇なんてありませんって顔に書いてある。
    「じゃあさ、1回だけ対戦付き合ってくれないか? このゲーム1人でもできるんだけどさ、せっかく買ったんだしちょっとくらい人と遊んでみたいんだよ」
    「仕方がないな、1度だけだぞ」
    ローレンツはせっかくだから、とかそういう言葉に弱い。あいつは俺のことに詳しいなんて言っているが、俺だって負けてない。ローレンツが俺のこと見続けているなら同じだけ俺もローレンツを見ているんだ。
    今始めようとしているゲームはいわゆる格闘ゲームだ。さすがに初心者のローレンツをこてんぱんにするのは気が引けるから、あえて普段使わないキャラクターを選ぶ。それでも俺の方が強いことに変わりはない。手加減しつついい感じの差で勝たせてもらった。
    「......。」
    勝利ポーズを決めている俺のキャラクターをローレンツが無表情で見つめている。よし、かかったな。
    「クロード、もう一戦だ」
    「おっと、1回しか付き合ってくれないんじゃなかったのか?」
    「せっかく買ったのに 1372

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    8.背叛・下
     雷霆を振るうカトリーヌの名を聞いた者に多少なりとも英雄の遺産や紋章の知識があったならばそれがとんだ茶番だと判るだろう。だが無謬であるセイロス教会が彼女をカサンドラではなくカトリーヌと呼ぶのならそれに従うしかない。カロン家当主としても令嬢カサンドラに死なれるよりはガルグ=マクで生きていてくれた方が良いのだろう。

     ローレンツは霧深い街道をガスパール城に向けて黙々と進んでいた。前方ではクロードとベレトとカトリーヌが何やら話している。五年前、ローレンツは帝国軍が破竹の快進撃を見せた時に正直言ってファーガス神聖王国がほぼ崩壊したと思った。今の彼らの会話を耳にしてもファーガスが凋落しているという印象が深まっていく。青獅子の学級の学生たちは士官学校に入る前に初陣を済ませている者が多いのはダスカーの悲劇以降小規模な騒乱が後を立たずにいるからだ。

     だからあの時ローレンツはフェルディナントと共にミルディン大橋に立った。ファーガスは近々自壊するだろうしパルミラとの国境を守りながら強大な帝国に抗う力が同盟にはない。ならばせめて領地と領民を守りたいと思ったからだ。霧の立ちこめる行路は人生 2090

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099