Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 323

    111strokes111

    ☆quiet follow

    南に輝く星に背を向けた野蛮人であろうと理想を掲げる責務から逃げられはしない。撒かれた種は全力で芽を出そうとする。

    クロロレワンドロワンライ第50回「甘える」 傍にいてくれなきゃ困るんだ、とクロードは親が帝国に降ったローレンツの耳元で囁いた。まだ領主にもなっていないローレンツに何故そんなことを伝えてきたのか。それに比べれば瑣末なことだがして欲しいからあんな風に匂わせてきたと思っていたのに彼がしたい側であったことも含めて心底驚いた。何にせよ公的にも私的にも問い詰めなければならないことが多すぎる。とにかくローレンツは声を封じられたままクロードと一線を越えてしまった。自分の天幕の中で目を覚まし昨晩の出来事を思い出す。
     ローレンツが酔いと生まれて初めての体験に圧倒され立ち上がれずにいるとクロードが身体を拭き清め回復魔法をかけた。それが大して効果を発揮しなかったので彼はローレンツが身支度を整えるのに手を貸し星空の下では肩を貸してくれた。クロードの天幕を出た頃にはサイレスの効果は切れていたがだからと言って会話を交わしてしまったらサイレスを使った意味がない。
     ローレンツは自分にあんな風に他人に甘える面があったこともクロードに他人を甘やかすような面があったことも知らなかった。人間は追い詰められると自分では思っても見なかったことに手を染める。自然とため息が漏れた。とにかく身支度をして北上を続ける帝国軍からデアドラを守らねばならない。気力を振り絞って立ち上がると足腰に鈍い痛みが走った。
     ローレンツの心境と連動でもしているのか空はどんよりと曇っている。朝食をとりに食堂へ行くとグロスタール家の騎士になったせいで苦境に立たされたイグナーツとシェズが話し込んでいた。
    「おはよう、二人とも」
    「おはよう、ローレンツ!酷い顔してるわよ」
     シェズの物言いにイグナーツが目を白黒させている。
    「心配をかけて済まないね……」
    「イグナーツにもさっき言ったんだけど簡単に割り切れるもんじゃないわ。気楽な立場の私とレオニーが頑張るから早く立ち直ってちょうだい」
     誰にも知られないように工夫したからシェズが言っているのはローレンツの父のことだ。だがどうしても別のことを言われたように感じてしまう。
    「きっと義勇兵が合流したがるはずです。ローレンツくんの顔を見ればきっと安心します」
    「そうよ、まだまだグロスタール領の中を北上しなきゃならないんだから」
     シェズの方向感覚が大雑把すぎてローレンツと同じく沈んだ顔をしていたイグナーツが呆気にとられている。
    「行軍の際に道を一本でも間違えたらとんでもないことになりますよ……」
     リーガン領に行くには北西を目指さねばならない。じゃあ先頭を追い越さないように気をつけなきゃね、と言ってシェズが笑うのでローレンツもイグナーツもつられて笑ってしまった。
     ミルディン大橋の防衛に失敗し、ただでさえ落ち込んでいる兵たちに影響が出ないようローレンツもクロードも心がけねばならない。
     出発前に軍議が開かれ道中にある砦に逐一立ち寄り物資を受け取りながらかねてからの決定通りデアドラを目指してリーガン領へ向かうことになった。それぞれの砦の司令官や付近の領主や村長たちに今後の方針について直接説明する必要もある。
    「グロスタール領にいるうちは僕が露払いを務めたい。物資の受け取りも円滑に運ぶだろう。それに領民たちの不安を払拭してやりたいのだ」
    「ミルディン大橋失陥は俺の責任だ。その影響を最も受けるグロスタール領の者たちに俺も直接説明をしたい」
     クロードはローレンツと同じく昨晩のことはおくびにも出さずひどく真面目な顔をしてそう言った。
    「糾弾されるぞ」
     覚悟の上だ、と返したクロードを庇ってやりたいが匙加減が難しい。あまりに庇うと媚びているように思われるし憤りを激化させてしまうとクロードの命令に従わなくなってしまう。ローレンツは脳内で必死に領内の名士録をめくって対策を立て始めた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👍👏👏☺💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
    2086