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    風花雪月無双青燐ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。(くるっぷに置いてあるものと内容は変わりません)
    全10話予定です。

    真昼の月と花冠.1 フォドラという柵に囲われた羊の群れに花火を投げ込んだらどうなるだろうか。良き羊飼いであることを望まれ、柵の中に招き入れられたクロードは己の血をどう扱うべきか迷っている。ある者はクロードに流れる血を羊を喰らう狼の血と言うだろう。
     将来、共に領地を治める同世代の貴族たちと信頼関係を構築するためクロードは士官学校へ行くよう祖父のオズワルドから言われた。パルミラには法学校と兵学校がある。だが、どちらも平民や下級貴族の子がのしあがるための施設なので王族とは関係ない。クロードは最初、集団生活に乗り気ではなかった。
    「世間は偉大な書物だ。お前は本が好きなのだからまずは学校で読んでくると良い。それに運が良ければ将来の妻と出会えるかもしれないぞ」
    「でも平民の女生徒だっているんだろ?」
    「お前の子を産んでくれるなら身分は問わない」
     祖父は寂しいのだ。クロードを首飾りの向こうから呼んだのも顔も見たことがない叔父一家が事故で亡くなったからだ。子供は育て上げらるなら多ければ多いほどいい。頭数が揃い、縁談に使えるからだ。
     だがクロードの子はパルミラ王の血を引くことになる。ティアナは自分の故郷へ向かう我が子へ祖父がなんと言おうと勝手に結婚するな、子供を作るな、ときつく命じた。その件について既に申し出てあるのだが祖父は鼻で笑う。
     おそらく、そういったことの積み重ねの果てにクロードの母はパルミラの王子であった父の手を取ったのだ。

     遠目に見ても所在が分かるように、と言う理由なのかクロードはガルグ=マクでは肩から黄色い布をかけることになった。ディミトリは王子としてエーデルガルトは皇女として一身に学生たちの視線を集めている。だが金鹿の学級では事情が違った。視線は二手に分かれていてクロードだけでなくヒルダにも向いている。
     薄紅色の髪と瞳をした彼女はかの有名なホルストの妹だ。ホルストの勇名は首飾りの東側、パルミラの王都にも伝わっている。刀で建物を真っ二つに切ったなど虚実が混ざったものではあるが。
     そんなヒルダとクロードが言葉を交わしたのは入学して最初の自己紹介の時だ。ヒルダはその時から、後宮育ちのクロードから見ても頭のてっぺんからつま先まで完璧に仕上がっていた。後宮には一族の運命と威信を背負ってこんな風に戦わされる娘が掃いて捨てるほど存在する。
     だがゴネリル、の名を聞いて騒めく学生たちを見たヒルダは一瞬だけ表情を曇らせた。そのことに気づいたのは進行役をしていたクロードだけかもしれない。
    「俺は残念ながらまだホルストさんと直に会ったことがないんだよな。ヒルダ、両親と名字以外に兄さんとここが似てる、なんてとこあるか?」
     パルミラの王都で後宮に入る娘なら高らかにここで一族について語り始める。
    「私と兄さんは髪と瞳の色と名字以外ぜーんぜん違うの!両親が同じだって信じられないくらいよ!」
     だがそう言ってヒルダは朗らかに笑ったのだ。
     確かにクロードは世間を知らない。そして、あれこそが本物の笑顔だ、とクロードはその時確信した。




     ガルグ=マクに来て分かったことがある。秘密があるのはクロードだけではない。ディミトリにもマリアンヌにもリシテアにも秘密がある。秘密があるのは学生だけではない。このガルグ=マク修道院自体が非常に謎めいた場所で、大司教レアも補佐であるセテスも何かを隠している。極め付けが先日の野営訓練でクロードたちの命を救ってくれたシェズだ。彼女は何もないところから剣を生み出し、双剣を振るうと風体が変わる。自分の力の正体がさっぱり分からないのだという。
    「剣はね、命の危険を感じないと出てこないのよ」
    「任意で出せたら便利だよなあ」
     彼女は己が抱える謎に戸惑ってはいるが病的な悩み方をしていない。そこがマリアンヌや深夜の徘徊時によく姿を見かけるディミトリとの違いだ。
     ディミトリもエーデルガルトも従者付きでここガルグ=マクに入学している。ドゥドゥもヒューベルトもそれぞれ、主人に危険を及ぼさない存在かどうかシェズを気にしていた。彼らの慌てぶりからしてもシェズの力の源や原理はどこか怪しいのだろう。彼女が青獅子の学級を選んだのは正解だ。黒鷲の学級に行けばヒューベルトが金鹿の学級に来ればクロードが徹底的に調べただろう。
     一方でそんなどこか危うい場の雰囲気に全く呑まれていない者たちがいる。その筆頭であるローレンツとヒルダはそれぞれマリアンヌにご執心だった。勿論クロードも彼女の秘密には興味がある。だがひたすら心を配り、何かを待っている彼らはクロードと違ってそんなことを気にしていない。
     今日もマリアンヌは向かいにローレンツ、隣にヒルダという布陣で食事をしている。しかし視点を変えればローレンツが二人を独占しているようにも見える。それが何となく気に食わなかったクロードはローレンツの隣、つまりヒルダの向かいにゴーティエチーズグラタンをのせた盆を置いた。
    「ここ、良いか?」
    「何だ、クロードか」
    「うん、いいよクロードくん」
     マリアンヌは固まってしまったが、向かいのヒルダが了承したならローレンツはもうクロードが隣に座ることを断れない。
    「ここの食堂はフォドラ中の料理が食べられるのがすごいよな」
     実はこんな風に食事を自分で運んだこともなかったし、友人と会話を楽しみながら食事をするのも初めてだ。祖父オズワルドが言っていた通り、確かに世間は偉大な書物なのかもしれない。
    「確かにそうだな」
     珍しくクロードの言葉に反論しなかったローレンツの目の前にはダフネルシチューがある。ダフネルはレスター諸侯同盟に属しているがそれでも他領の料理だ。彼からすれば大冒険なのかもしれない。
    「ほんとほんと!私ファーガス行ったことないからゴーティエチーズグラタンってガルグ=マクで初めて食べたけどとっても美味しいよね!」
     ヒルダもローレンツも他学級に友人がいる。他国出身の学友と共に生活し他国の食を味わうことによって国は違えどセイロス教徒同士仲良くしろ、という中央教会の意図を感じる。だが、クロードの母国であるパルミラは枠の外だ。まるで真昼の月のようだ。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    9.典儀・上

     情報には出元と行き先がある。それを見極めずに判断を下すと間違いが起きる。前節、カトリーヌがロナート卿の所持品から見つけた大司教レアの暗殺計画に関する密書は様々な波紋を読んだ。真偽の程は定かではないが対応せねばならない。

     謁見の間に呼び出されたベレトから今節の課題を聞いたクロードは教会があの密書をどう判断したのか悟った。今回も彼の記憶と同じく何者かが教会を混乱させる為に作成した偽物であると判断したのだ。そうでなければ士官学校の学生に警備や見回りを担当させないだろう。だがクロードにとっては丁度良かった。賊の狙いが何処であるのか確かめる為という大義名分を得て修道院の敷地内を直接、自由に見て回れる。賊が聖廟の中で何かを探し、奪いに来たがそこでベレスが天帝の剣を手に取り賊を撃退したことをクロードは覚えているのだがだからといって日頃入れない聖廟を直接探る機会を逃したくはなかった。それにロナート卿の叛乱の時と同じくまたクロードたちが当事者になっている。詳しく調査しておいて損はないだろう。

     ガルグ=マクにはフォドラの外からやってきた住人がクロード以外にも存在する。自然と祖先を 2082