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    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。
    全10話予定。

    真昼の月と花冠.2 パルミラの歴史は隣国から厭われ恐れられる歴史だ。頭ではそう理解していたつもりでもいざ体感してみると顔を覆いたくなってしまう。ホルストが何故あんなに学生たちから人気があるのかクロードにも理解出来てしまった。フォドラの首飾りにいる兵たちはここ百年、常に外敵に備えている。古強者が集う要塞ではあのローレンツすら緊張していた。
     戦争は始める前の下準備で概ね勝敗が決まる。諸侯から提供された物資の分配は速やかに行われるべきだが同時に間違いがあってはならない。一昼夜かかるこの作業が終わればクロードたちは援兵として配備につく。
     作業の邪魔にならないように、と言うわけで学生たちは大広間に集められていた。その大広間の中でヒルダは寛ぎきっている。壁の東側に大軍が展開しているというのに呑気に、香油の調合をしていた。手つきを見るにどうやら移液管の扱いには慣れているらしい。
    「余裕だな」
    「だってここが私の故郷だもの。生え抜きの人たちはみーんな私どころか兄さんがよちよち歩きだった頃のことまで覚えてるのよ?」
     手先が器用なのだろう。クロードから話しかけられていても視線は手元に集中し、香り付けの精油をこぼすこともない。彼女の周りには香油入りの小さな瓶がたくさん並んでいる。
    「茴香(ウイキョウ)が結構きつくないか?」
     クロードは勝手に一本拝借して香りを確かめた。全部同じ配合なのだろうか。
    「うーん、今はそう感じるかも 」
    「そうか、使うのは平時じゃないのか……」
    「血の匂いで鼻がおかしくなると、これくらい強くないと分かんなくなるんだよね」
     ヒルダは怒るでもなく、何でもないことのようにクロードに意見を伝えて髪をかきあげた。柑橘系の甘い香りがあたりを漂う。今作っているものとは調合が違うらしい。
     可憐で、怠け者を自称していても彼女は最前線の子供だったのだ。クロードも後宮でなんとか生き延びてきたが、ヒルダにもヒルダなりの苦労がある。
    「奥が深いもんだなあ。なあ、これ俺にもくれないか?」
    「そんな顔しておねだりしても、これは女性物だから駄目。クロードくんたちには別のを後で作ってあげる。楽しみにしててね」
    「後でとお化けは出ないもんだぜ?」
    「本当にね。あーあ、お化けでもいいからこれ嗅がせてあげたいな」
     そっと手が伸びてきてクロードから小さな瓶を取り上げた。指先まで白いその手は英雄の遺産、フライクーゲルを振るうことができる。ヒルダのような若い娘はこれまでクロード、いや、カリードの周りにはいなかった。
     母ティアナは気質だけならリシテアに似ている。見た目は全く似ていないが、二人とも真面目で繊細でいちいち傷つく。だが怒り続けるだけの力強さがある。だから父の手を取り首飾りを越え、パルミラに渡ったのだ。救われない思いを抱える人々は新天地やそこで生まれた子供に縋る。美しい物語の主人公としては正しいのだろう。
    ───だがクロードはまだ自分の出生に納得できていない。


     あのホルストが救援を要請したのも納得できるような大軍が首飾りの近辺に陣を敷いていた。彼らを諦めさせることが目標だがそれでも激戦が予想される。人間同士が殺意を持って直接ぶつかり合う戦場で、名もなき兵士たちが縋るのは回復魔法が使える修道士だ。効率化を求めると人間は人間味を失っていき、戦場では修道士と伝令兵は敵から真っ先に狙われる。クロードはローレンツを修道士の資格を持つマリアンヌの副官に指名していた。
     他の者には恐縮するばかりなのだが彼女はローレンツが相手の時は感情を露わにする。ローレンツ自身は己の美徳や魅力がそうさせるのだ、と思い込んでいるが第三者から見れば彼の個性に耐えかねた、が正しい。当たり前だがマリアンヌの内にも様々な思いが渦巻いている。不自然なまでに殻にこもっているよりずっといい、とクロードは思う。
     日が暮れると戦闘は強制的に終了する。暗くなってしまえば射手はまさに打つ手がない。兵種の都合で早く撤収できたクロードは竜舎から飛竜を一頭拝借し、砦の外に向かった。撤収してくる兵を直接労いたかった───飛竜の件で苦言を呈されたらそう言い訳をするつもりでいる。
     本陣の奥の奥、今はまだ自国の兵に向けてしか掲げられていない遠征軍総大将の軍旗を確かめたかった。あの大軍を用意したのは誰なのか、クロードにしか本当のところがわからない。眼下にいる兵たちを大声で労いながら飛竜の手綱を操り、その場をさり気なく離れる頃合いをうかがっていた。 
    「クロード!何をしている!早く戻れ!」
     だがクロードは地上からよく通る声で話しかけられた。なんとローレンツにはあの過酷な一日を終えてもなお、他人を怒る元気が残っているらしい。
    「よう、ローレンツにマリアンヌ、生きててくれて嬉しいぜ」
     近接戦闘をしないクロードと違って二人の服は他人の血で黒く汚れている。ローレンツが浴びたのは返り血でマリアンヌの服についているのは怪我人の血だ。二人ともヒルダが調合してくれた香油は使っているのだろうか。
    「当たり前だ。僕もマリアンヌさんも将来、爵位を継ぐのだからな!」
     爵位を継ぐ、というローレンツの言葉を耳にしたマリアンヌは眉間に皺を寄せた。どんな感情であれ、彼女の場合は露わにした方がいい。
    「大事な身の上なら早く戻ればいいのに」
    「僕は貴族だぞ?平民を先に安全な場所へ逃すにきまっている!それに後備えは武人の誉れだ!」
     ローレンツは手にした槍の柄で地面を突いた。賛同している時も異議を唱えたい時も槍兵はあんな風に地面を突く。全ては文脈次第なのだ。
     クロードは素朴さと無知で己の正当性を示すようなやり口を好かない。それに双眼鏡と活版印刷を禁じるセイロス教の教えも馬鹿馬鹿しいと思っている。だがフォドラを迷信の徒と見下すパルミラの者たちと最後の最後まで戦場に残り、撤退する兵たちを守る後備えを喜んで務めているローレンツ、どちらの人間性が優れているのか。答えは口に出すまでもない。
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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100

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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081