Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 314

    111strokes111

    ☆quiet follow

    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。
    全10話予定。

    真昼の月と花冠.6───ヒルダさん、直接お会いする方が先かもしれませんが、私の身に何かあった時のためにやはり手紙を書いておくことにします。帝国はフォドラ三国の中で最も歴史が長く領土も広い国でした。しかし今後、三国の有り様は変化を迎えることでしょう。レスター出身の私どもにとって望ましくとも帝国の人々にとって耐えがたいのは明白です。
     王国軍にはアンヴァルで何があったのか把握している方は存在しません。私のみたところ、エーデルガルトさんは聡明な方でした。だからこそ帝国の方々は皆諦めきれないのでしょう。
     こちらの主だった将に戦死者がいないことが不思議なほど抵抗は激しくなってきました。私が基地にある礼拝堂で祈りを捧げられるのは、今こうしてヒルダさんに宛てた手紙が書くことができるのはローレンツさんのおかげなのです。
     敵に囲まれ命を落としそうになった私をかばった彼は重傷を負いました。そして頭を強く打ち、意識を失ってしまったのです。たまたま近くにラファエルさんがいらしたのでローレンツさんを安全な場所に連れて行くことができました。
     メルセデスさんやリンハルトさんの助けをお借りしたおかげで、ローレンツさんはもう元気にしています。全て私の失態で、消えてしまいたいとすら思ったのですが彼は意識を回復してすぐ、落ち込む私を気遣って下さったのです。
     生きたいと願うことに資格はいらない、とローレンツさんから言われた晩、私はずっと自分の天幕で泣いていました。それは今回のことだけでなく、ヒルダさんにお教えしていなかったこれまでのことが関係しています。
     人間は安心しても泣いてしまうものなのですね。流石に手紙に書き記すわけにいかないので、ゆっくりお話しできそうな時にこれまでのことを聞いていただきたいです。激戦に次ぐ激戦で命を落とす方も増えてきました。私がその一員に加わるかどうかは女神様がお決めになります。その時、ローレンツさんの言葉でどれほど救われたか書き記しておかねば後悔する。そんな気がしたのでこうして筆を取ることにしました───



     王国に派遣した部隊はへヴリング領辺りにいる頃だろうか。クロードたちはベルグリーズ領にいる帝国軍に気取られずに軍を二分し、アリルに向けて進軍せねばならない。うまく説明できないが、そろそろその辺りの事情が読まれているような気がした。
    「これは拙いかもしれない」
     領主にとって何よりも大切な自領を守るための戦いにも関わらず、彼らはあまりにあっさりと撤退しようとしている。ベルグリーズ伯の部隊を本気で追撃するかどうか決めなくてはならない。
    「どう拙いのか教えて!」
     フライクーゲルを手にしたヒルダがきびきびとした口調で問うてくる。兵たちはこれまでになくベルグリーズ領の奥深くに侵入できたので大いに沸いていた。突撃できてしまったことを不審に思う者は殆どいないだろう。
     心の内が外に漏れていたこと、喧騒の中でヒルダに聞き取られてしまったことにクロードは驚いた。フォドラに来て以来クロードは独り言を言わないように心がけている。パルミラ語とフォドラ語、どちらの言葉で言ってしまうか分からない。いつの間にか夢はフォドラ語で見るようになった。悪夢の舞台も王宮からフォドラに移っている。
    「ベルグリーズ伯に俺たちが本気でないことがばれちまったかもしれない」
    「マリアンヌちゃんたちの方に行っちゃうかもしれないってこと?」
     そう言うとヒルダは口を閉ざした。よどみなく話すべきなのに何故かクロードの舌がいつものように動いてくれない。
    「いや、まだ確証がある訳じゃないんだ。帝都で見過ごせない何かがあったのかもしれないし……」
     クロードが見る悪夢の中でヒルダは二度と話しかけてくれなくなる。自分のしくじりのせいで彼女は命を失ってしまうからだ。
    「マリアンヌちゃんたちならきっとベルグリーズ伯に負けないよ!」
     フライクーゲルを握りしめていた右手がクロードの背中を勢いよく叩く。勝てるよ、と言わないその冷静さが素晴らしい。
    「ギュスタヴさんだって褒めてたし、それに心配なら合流地点に一番乗りすれば良いんだよ!」
     クロードは素直にヒルダを美しい、と思った。外見の問題ではない。友人たちを信頼しているその姿勢が、咄嗟に最適解を出せる賢さが、この上なく美しいと思った。



    ───マリアンヌちゃん、手紙読んだよ!二人が無事なこと、それと私を証人に選んでくれたことがとっても嬉しい。マリアンヌちゃんを守ってくれてありがとう、って直接ローレンツくんに言える日が早く来てくれたら良いのに!その時には何かお礼の贈り物がしたいな。邪魔にならなくて楽しい気分になれてローレンツくんにぴったりの物が何なのか考えておかなきゃ。
     すぐに休校になっちゃったからこれは本当に仮の話だけど、もしガルグ=マクで舞踏会があったら二人は踊る相手が決まったのと同じだよね!マリアンヌちゃんがローレンツくんと踊るところを見たかったな。私と違ってマリアンヌちゃんは背が高いからきっとローレンツくんとお似合いだと思うよ。
     学生時代のローレンツくんは空回りしがちでちょっと見ていられなかったけど、今の彼はとっても偉いと思う。クロードくんからお家がらみで酷い扱いをされてもめげずに頑張ってたからかな。
     でも、もしかしたらクロードくんが一番この状況を喜んでるのかもしれない。実際にどうしてふたつに分けた軍のファーガスに派遣される方にローレンツくんを配置したのか質問したらクロードくんは絶対にはぐらかすだろうし、今の状況を狙ってたのかどうか聞いてもどっちに転んでもいいと思ってた、としか言わないと思う。ああ見えてクロードくんはすごい照れ屋だから。
     でもどうせなら幸せになる人数が多い方が良いに決まってるもの。だから私は自分のためにもクロードくんのためにもクロードくんはローレンツくんが汚名を濯ぐと信じて活躍しやすい場所に派遣した、と信じることにするね。
     めげないローレンツくんみたいに私も格好よくありたいな。そのために必要なものって何だろうね?薔薇かな?勿論これは冗談だけど。
     マリアンヌちゃんたちと別行動になって以来、クロードくんが敵を騙すために短期目標と長期目標が食い違って見える作戦を立てるもんだから毎日すっごく大変!自分が今、何をやってるのかよく分からなくなる生活をしている中でマリアンヌちゃんに手紙を書いている時間は嘘や矛盾がないの───



     個人的なことだから皆を巻き込むわけにいかない、と言って沈黙を選んでいたシェズの良識が最悪の結果を生んでいた。戦いには勝ったが王国の前哨基地はひどく沈んでいる。目の前で父ロドリグを失ったフェリクス、己の全てを分かってくれる後見人であった前フラルダリウス公を失ったディミトリのことを思うとローレンツは口を閉ざすしかない。
     自然とレスター出身者同士でまた同じ火に当たっていた。流石に皆どう話したものか考えあぐね、口を閉ざしている。暖かな光に照らされるマリアンヌの顔は沈んでいたが、それでもローレンツからすればその美しさは賞賛に値する。しばらくは火の爆ぜる音だけがあたりに漂っていたのだが、ラファエルが大きく手を叩いた。何かが彼の中で定まったらしい。
    「よぉし!オデたちに出来ることをしよう!」
    「わ、びっくりした!急に大きな声出さないでくださいよ、ラファエルくん。それで一体、何をするんですか?」
    「見回りだ!」
     確かに悲しみに暮れる今は警戒が緩んでいるかもしれない。その隙に乗じてあの恐ろしい灰色の悪魔───今やファーガス全軍の敵だ───が再び攻めてくる可能性もある。
    「声のでっかいオデとローレンツくんが喋りながら皆で歩けばいいと思うぞ。そしたら、少なくとも獣は寄ってこねえ」
    「それでは静かにしていたい者たちの迷惑になるではないか」
    「足音だけでも動物たちは充分警戒しますので必ずしも話すことはないかと……」
     埒が開かないと思ったのかイグナーツが三人の会話に割って入り、二手に別れて前哨基地の中を見回ることになった。
     騎士となったイグナーツは優秀で、豪商の次男である彼を入り婿にしたい名家の者は多い。ローレンツはマリアンヌを高く評価していたが、見合い相手と結婚後に恋愛をする自信もある。
     だが、ローレンツはマリアンヌと二人きり、無言で並んで歩いたこの晩のことを生涯忘れないだろう。そして、そっと背中を押してくれた頼もしい騎士の手に込められていたのは主人への忖度ではなく友情であった、そう信じている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

    2068

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    9.典儀・上

     情報には出元と行き先がある。それを見極めずに判断を下すと間違いが起きる。前節、カトリーヌがロナート卿の所持品から見つけた大司教レアの暗殺計画に関する密書は様々な波紋を読んだ。真偽の程は定かではないが対応せねばならない。

     謁見の間に呼び出されたベレトから今節の課題を聞いたクロードは教会があの密書をどう判断したのか悟った。今回も彼の記憶と同じく何者かが教会を混乱させる為に作成した偽物であると判断したのだ。そうでなければ士官学校の学生に警備や見回りを担当させないだろう。だがクロードにとっては丁度良かった。賊の狙いが何処であるのか確かめる為という大義名分を得て修道院の敷地内を直接、自由に見て回れる。賊が聖廟の中で何かを探し、奪いに来たがそこでベレスが天帝の剣を手に取り賊を撃退したことをクロードは覚えているのだがだからといって日頃入れない聖廟を直接探る機会を逃したくはなかった。それにロナート卿の叛乱の時と同じくまたクロードたちが当事者になっている。詳しく調査しておいて損はないだろう。

     ガルグ=マクにはフォドラの外からやってきた住人がクロード以外にも存在する。自然と祖先を 2082