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    111strokes111

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    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。
    全10話予定。

    真昼の月と花冠.6───ヒルダさん、直接お会いする方が先かもしれませんが、私の身に何かあった時のためにやはり手紙を書いておくことにします。帝国はフォドラ三国の中で最も歴史が長く領土も広い国でした。しかし今後、三国の有り様は変化を迎えることでしょう。レスター出身の私どもにとって望ましくとも帝国の人々にとって耐えがたいのは明白です。
     王国軍にはアンヴァルで何があったのか把握している方は存在しません。私のみたところ、エーデルガルトさんは聡明な方でした。だからこそ帝国の方々は皆諦めきれないのでしょう。
     こちらの主だった将に戦死者がいないことが不思議なほど抵抗は激しくなってきました。私が基地にある礼拝堂で祈りを捧げられるのは、今こうしてヒルダさんに宛てた手紙が書くことができるのはローレンツさんのおかげなのです。
     敵に囲まれ命を落としそうになった私をかばった彼は重傷を負いました。そして頭を強く打ち、意識を失ってしまったのです。たまたま近くにラファエルさんがいらしたのでローレンツさんを安全な場所に連れて行くことができました。
     メルセデスさんやリンハルトさんの助けをお借りしたおかげで、ローレンツさんはもう元気にしています。全て私の失態で、消えてしまいたいとすら思ったのですが彼は意識を回復してすぐ、落ち込む私を気遣って下さったのです。
     生きたいと願うことに資格はいらない、とローレンツさんから言われた晩、私はずっと自分の天幕で泣いていました。それは今回のことだけでなく、ヒルダさんにお教えしていなかったこれまでのことが関係しています。
     人間は安心しても泣いてしまうものなのですね。流石に手紙に書き記すわけにいかないので、ゆっくりお話しできそうな時にこれまでのことを聞いていただきたいです。激戦に次ぐ激戦で命を落とす方も増えてきました。私がその一員に加わるかどうかは女神様がお決めになります。その時、ローレンツさんの言葉でどれほど救われたか書き記しておかねば後悔する。そんな気がしたのでこうして筆を取ることにしました───



     王国に派遣した部隊はへヴリング領辺りにいる頃だろうか。クロードたちはベルグリーズ領にいる帝国軍に気取られずに軍を二分し、アリルに向けて進軍せねばならない。うまく説明できないが、そろそろその辺りの事情が読まれているような気がした。
    「これは拙いかもしれない」
     領主にとって何よりも大切な自領を守るための戦いにも関わらず、彼らはあまりにあっさりと撤退しようとしている。ベルグリーズ伯の部隊を本気で追撃するかどうか決めなくてはならない。
    「どう拙いのか教えて!」
     フライクーゲルを手にしたヒルダがきびきびとした口調で問うてくる。兵たちはこれまでになくベルグリーズ領の奥深くに侵入できたので大いに沸いていた。突撃できてしまったことを不審に思う者は殆どいないだろう。
     心の内が外に漏れていたこと、喧騒の中でヒルダに聞き取られてしまったことにクロードは驚いた。フォドラに来て以来クロードは独り言を言わないように心がけている。パルミラ語とフォドラ語、どちらの言葉で言ってしまうか分からない。いつの間にか夢はフォドラ語で見るようになった。悪夢の舞台も王宮からフォドラに移っている。
    「ベルグリーズ伯に俺たちが本気でないことがばれちまったかもしれない」
    「マリアンヌちゃんたちの方に行っちゃうかもしれないってこと?」
     そう言うとヒルダは口を閉ざした。よどみなく話すべきなのに何故かクロードの舌がいつものように動いてくれない。
    「いや、まだ確証がある訳じゃないんだ。帝都で見過ごせない何かがあったのかもしれないし……」
     クロードが見る悪夢の中でヒルダは二度と話しかけてくれなくなる。自分のしくじりのせいで彼女は命を失ってしまうからだ。
    「マリアンヌちゃんたちならきっとベルグリーズ伯に負けないよ!」
     フライクーゲルを握りしめていた右手がクロードの背中を勢いよく叩く。勝てるよ、と言わないその冷静さが素晴らしい。
    「ギュスタヴさんだって褒めてたし、それに心配なら合流地点に一番乗りすれば良いんだよ!」
     クロードは素直にヒルダを美しい、と思った。外見の問題ではない。友人たちを信頼しているその姿勢が、咄嗟に最適解を出せる賢さが、この上なく美しいと思った。



    ───マリアンヌちゃん、手紙読んだよ!二人が無事なこと、それと私を証人に選んでくれたことがとっても嬉しい。マリアンヌちゃんを守ってくれてありがとう、って直接ローレンツくんに言える日が早く来てくれたら良いのに!その時には何かお礼の贈り物がしたいな。邪魔にならなくて楽しい気分になれてローレンツくんにぴったりの物が何なのか考えておかなきゃ。
     すぐに休校になっちゃったからこれは本当に仮の話だけど、もしガルグ=マクで舞踏会があったら二人は踊る相手が決まったのと同じだよね!マリアンヌちゃんがローレンツくんと踊るところを見たかったな。私と違ってマリアンヌちゃんは背が高いからきっとローレンツくんとお似合いだと思うよ。
     学生時代のローレンツくんは空回りしがちでちょっと見ていられなかったけど、今の彼はとっても偉いと思う。クロードくんからお家がらみで酷い扱いをされてもめげずに頑張ってたからかな。
     でも、もしかしたらクロードくんが一番この状況を喜んでるのかもしれない。実際にどうしてふたつに分けた軍のファーガスに派遣される方にローレンツくんを配置したのか質問したらクロードくんは絶対にはぐらかすだろうし、今の状況を狙ってたのかどうか聞いてもどっちに転んでもいいと思ってた、としか言わないと思う。ああ見えてクロードくんはすごい照れ屋だから。
     でもどうせなら幸せになる人数が多い方が良いに決まってるもの。だから私は自分のためにもクロードくんのためにもクロードくんはローレンツくんが汚名を濯ぐと信じて活躍しやすい場所に派遣した、と信じることにするね。
     めげないローレンツくんみたいに私も格好よくありたいな。そのために必要なものって何だろうね?薔薇かな?勿論これは冗談だけど。
     マリアンヌちゃんたちと別行動になって以来、クロードくんが敵を騙すために短期目標と長期目標が食い違って見える作戦を立てるもんだから毎日すっごく大変!自分が今、何をやってるのかよく分からなくなる生活をしている中でマリアンヌちゃんに手紙を書いている時間は嘘や矛盾がないの───



     個人的なことだから皆を巻き込むわけにいかない、と言って沈黙を選んでいたシェズの良識が最悪の結果を生んでいた。戦いには勝ったが王国の前哨基地はひどく沈んでいる。目の前で父ロドリグを失ったフェリクス、己の全てを分かってくれる後見人であった前フラルダリウス公を失ったディミトリのことを思うとローレンツは口を閉ざすしかない。
     自然とレスター出身者同士でまた同じ火に当たっていた。流石に皆どう話したものか考えあぐね、口を閉ざしている。暖かな光に照らされるマリアンヌの顔は沈んでいたが、それでもローレンツからすればその美しさは賞賛に値する。しばらくは火の爆ぜる音だけがあたりに漂っていたのだが、ラファエルが大きく手を叩いた。何かが彼の中で定まったらしい。
    「よぉし!オデたちに出来ることをしよう!」
    「わ、びっくりした!急に大きな声出さないでくださいよ、ラファエルくん。それで一体、何をするんですか?」
    「見回りだ!」
     確かに悲しみに暮れる今は警戒が緩んでいるかもしれない。その隙に乗じてあの恐ろしい灰色の悪魔───今やファーガス全軍の敵だ───が再び攻めてくる可能性もある。
    「声のでっかいオデとローレンツくんが喋りながら皆で歩けばいいと思うぞ。そしたら、少なくとも獣は寄ってこねえ」
    「それでは静かにしていたい者たちの迷惑になるではないか」
    「足音だけでも動物たちは充分警戒しますので必ずしも話すことはないかと……」
     埒が開かないと思ったのかイグナーツが三人の会話に割って入り、二手に別れて前哨基地の中を見回ることになった。
     騎士となったイグナーツは優秀で、豪商の次男である彼を入り婿にしたい名家の者は多い。ローレンツはマリアンヌを高く評価していたが、見合い相手と結婚後に恋愛をする自信もある。
     だが、ローレンツはマリアンヌと二人きり、無言で並んで歩いたこの晩のことを生涯忘れないだろう。そして、そっと背中を押してくれた頼もしい騎士の手に込められていたのは主人への忖度ではなく友情であった、そう信じている。
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