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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    たぶん長編になる曦澄その2
    浮かれっぱなし兄上

    #曦澄

     どうしてこうなった。
     江澄は頭を抱えたい気分だった。今、彼は舟に乗り、蓮花塢への帰途にあった。そして、向かいには藍家宗主が座っている。
     川の流れは穏やかで、川面は朝陽にきらめいている。豊かな黒髪を風になびかせながら、藍曦臣はまぶしそうに目を細めた。
    「江宗主、あちらにいるのは鷺でしょうか」
     江澄は答えずに疑いの目を向けた。
     これが本当に食事もろくに摂らず、叔父と弟を嘆かせていたとかいう人物と同一なのだろうか。
     昨日、あの後、雲深不知処は大騒ぎとなった。とはいえ、家訓によりざわめきはすぐにおさまったのだが、藍忘機と藍啓仁を筆頭に誰もが戸惑いを隠せずにいた。
    「叔父上、お許しください。私は蓮花塢に赴き、江宗主に助力したく存じます」
     いや、まだ、俺はいいとは言っていないのだが。
     藍啓仁を前にきっぱりと言い切る藍曦臣に、江澄ははっきりと困惑の表情を浮かべた。これは口を挟んでいいものか。
     そのとき、背後から肩をたたく者があった。
    「江澄、何があったんだ」
    「俺が知りたい」
     江澄は即座に答えた。魏無羨は肩をすくめて、顎をしゃくる。
    「沢蕪君が姿を見せたのは半年ぶり……、いやもっとか? ともかく、俺は一年ぶりになるな。その人が望むことだ。藍先生はきっと良しと言うぞ」
     江澄は唖然とした。藍啓仁と藍曦臣に視線を戻すと、何故か二人ともがこちらを見ていた。
    「江宗主、ご相談があります」
    「な、なんでしょう」
     かつての師にかしこまられて、江澄は背筋を伸ばした。ものすごく居心地が悪い。
    「曦臣をしばらく蓮花塢にてお預かりいただけないか」
    「はあ」
    「預かっていただく代わりに、水妖については問霊にてお手伝いいたします。また、お探しの文献についても写本についてはお貸し出しいたしましょう。写本のないものについては師弟らに写し書きをさせまして、三日後までには蓮花塢までお届けに上がりましょう」
     破格である。むしろこの条件を承諾したならば、江家のほうが藍曦臣を輿にでも乗せなければならないだろう。
    「当方としてはありがたい限りのお話です」
     民のことを思えば飛びつきたいくらいの話である。しかし、本当に藍家宗主をそんなふうに借り受けていいものだろうか。否、あちらからの申し出であるのだから、良いのだと思おう。
    「よろしく頼む」
     藍啓仁と藍忘機に拱手され、江澄も慌てて立ち上がって拱手を返す。背後で魏無羨が吹き出しそうになるのを堪えているのが腹立たしかった。
     
     そのように大騒ぎを引き起こした当人は今、実に嬉しそうに左右の景色を交互にながめている。
     たしかに、魏無羨の言ったとおり、以前に比べるとやつれた様子ではあった。一年も寒室にこもっていたというのだから、それも道理だ。
     それにここのところは食事も摂っていないという話だった。それにしてはおいしそうに西瓜を食べていたが、雲夢の食事は彼に受け入れてもらえるだろうか。
    「藍宗主、ひとまず今後についてだが」
     江澄は考えるのをやめた。頭を悩ますべき問題は他にある。
    「さっそくで悪いが、明日には問霊をしていただきたい」
    「もちろんです、江宗主。到着は夕刻でしょうか」
    「いや、夜になるでしょう。このまま、まっすぐ蓮花塢には入れません。件の水妖が出るという水域が通れないので、湖東の手前で馬に乗り換えます」
    「わかりました」
     藍曦臣は頷いてから「ところで」と言葉を続けた。
    「私は蓮花塢に預かっていただいた身です。そのようにかしこまらず、曦臣とお呼びください」
    「いや、それはしかし」
    「江宗主、お願いします」
     藍曦臣が頭を下げた。考えてみれば蓮花塢でずっと藍宗主と呼び続けるのは、本人の居心地がよくないのかもしれない。いや、しかし、それなら沢蕪君と呼ぶのでいいだろう。年上の、宗主としての経験も深い人物を気安く字で呼ぶのは気後れする。とはいえ、本人の希望を無視して号で呼ぶというのも……
     江澄は悩んだ挙句、藍曦臣の申し出を受け入れることに決めた。ここまできたら乗りかけた舟だ。というか、すでに同舟の仲だ。
    「それなら、あなたも私を晩吟と呼んでくれ」
    「よろしいのですか」
    「私ばかりがあなたを字で呼ぶわけにはいかないでしょう」
    「そう、でしょうか。いえ、お呼びしてよろしいなら、ぜひ……、晩吟」
     川上から風が吹き、屋根にかけておいた簾が下りた。ぱっと陽光がさえぎられ、舟中は薄暗くなる。
     江澄はびっくりして、藍曦臣から視線を逸らした。家僕が慌てて簾を持ち上げる。
     舟の中に光が戻る。
    「申し訳ございません、旦那様」
    「いや、いい、きちんと紐で結わえておけよ」
    「はい、わかりました」
     江澄が視線を戻すと、藍曦臣は先ほどと変わらずに微笑んでいた。
     舟は進む。
     川面も穏やかなまま、異変はない。
     二人の宗主は予定通り、日の入りからしばらく後に蓮花塢へと入った。
     蓮花の盛りの蓮花湖には、数多くのつぼみが月に照らされ揺れていた。
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     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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