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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    たぶん長編になる曦澄3
    兄上がおとなしくなりました

    #曦澄

     翌朝、日の出からまもなく、江澄は蓮花湖のほとりにいた。
     桟橋には蓮の花托を山積みにした舟が付けている。
    「では、三つばかりいただいていくぞ」
    「それだけでよろしいのですか。てっきり十や二十はお持ちになるかと」
     舟の老爺が笑って花托を三つ差し出す。蓮の実がぎっしりとつまっている。
     江澄は礼を言って、そのまま湖畔を歩いた。
     湖には蓮花が咲き誇り、清新な光に朝露を輝かせる。
     しばらく行った先には涼亭があった。江家離堂の裏に位置する。
    「おはようございます」
     涼亭には藍曦臣がいた。見慣れた校服ではなく、江家で用意した薄青の深衣をまとっている。似合っていいわけではないが、違和感は拭えない。
     江澄は拱手して、椅子についた。
    「さすが早いな、藍家の者は」
    「ええ、いつもの時間には目が覚めました。それは蓮の花托でしょうか」
    「そうだ」
     江澄は無造作に花托を卓子の上に置き、そのひとつを手に取って、藍曦臣へと差し出した。
    「採ったばかりだ」
    「私に?」
    「これなら食べられるだろう」
     給仕した師弟の話では、昨晩、藍曦臣は粥を一杯しか食さず、いくつか用意した菜には一切手をつけなかったという。
    「お恥ずかしいことです」
     藍曦臣は眉尻を下げて微笑み、花托を受け取った。
    「昨夜は、その、眠くて」
    「ああ」
     蓮花塢に着いて後、旅装を解き、湯を使い、それからの夕食となった。思い返してみれば、亥の刻にかかっていたかもしれない。
    「申し訳ない。気づかなかった」
    「いえ、私の方こそ、先に申し上げるべきでしたね」
     藍曦臣は手の内の花托を見て、ふふと笑う。
    「もしかして、私が食べられそうなものをわざわざご用意してくださったのですか」
    「粥しか食べなかったと聞いたからな。あなたは西瓜を食べたから、蓮の実なら食べるかと思った」
     江澄は思い違いを恥じた。どうにも気まずく、手元に花托を引き寄せる。蓮の実をほじり出して口に入れると、ほんのりと甘みが広がる。
    「いえ、晩吟」
     藍曦臣が首を振る。
    「あなたの心遣いが嬉しい。ありがとうございます」
    「いや! 客をもてなすのは主人の役目だ」
    「そうだとしても、これはあなたの真心ですから」
     この人は、なんという小っ恥ずかしいことを言うのか!
     江澄は顔を伏せて、花托に取り付いた。耳まで赤くなっているに違いない。だが、否定するのもおかしな話で、それもできない。
    「ところで、晩吟。これはどうやって取り出すのでしょう」
     顔を上げると、首を傾げる藍曦臣と目が合った。
    「あ、ああ、これは裏から指で押して」
    「こうですか?」
    「いや、そうじゃなく、端から」
    「こう?」
    「いや……、ああ、もう、貸せ!」
     江澄は花托を引ったくると、ぽろぽろと蓮の実を落とす。五つほど取ってから皮を剥き、それを藍曦臣の前に置いた。
    「ほら、食べろ。うまいから」
     蓮花塢の蓮の実、それも採ったばかりの蓮の実だ。絶対においしい。
     藍曦臣は白い指先でひとつつまんで、ぱくりと口に入れた。その表情がやわらぐ。
     江澄は得意げに笑った。
    「な、うまいだろう」
    「ええ、おいしいです。ほのかに甘みがあって」
    「ほら、もっと食べろ」
     二人はしばし蓮の実を食べるのに熱中した。その間に師弟が茶と粥を持ってきて、涼亭は朝食の場となった。
    「今日の予定だが、昼までは好きに過ごしていただきたい」
     食事が一段落したところで江澄が切り出した。
    「昼まで、ですね」
    「ああ、昼食を終えたら、事故の起きた町まで向かう」
    「分かりました。まだお時間はありますか。事故のあらましだけでも教えていただけませんか」
     江澄は茶をすすりながら湖へと目をやった。
    「初めは半月前だ。皆、事故だと思った」
     一艘目は日暮れ近くに起きた事故だった。たそがれ時ということもあり、町の者は事故と判じて、そのままにした。
     二艘目は日没後に沈んだ。蓮花湖まで足を伸ばしたいと焦った舟が、夜の川面を見誤り転覆したと見られた。
     三艘目に至って、ようやく妙だという話になった。腕利きの船頭の操る舟だった。これも夕方に沈んだ。
    「うちに話しが来たのは五日前だ。つまり十日の間に三艘もの舟が沈んだことになる。事故とするのは無理がある。二日を費やして町の者に聞き取りを行ったが、それ以前に異変はない。現地にも行った。邪祟の気配はあったが姿は見えない」
    「それで、雲深不知処にいらしたのですね」
    「ああ、五日前から師弟を置いて通交を止めているが、そうすると交易に支障が出る。商売にならない者もいる。早くなんとかしてやらないと」
     江澄は奥歯を噛み締めた。今回の件、江家の力不足で長引いているのは明らかだ。日が過ぎるにつれ、民は不安を募らせるだろう。
    「江宗主、沈んだ舟の中で身元の分かっている者はおりますか」
    「船頭は皆分かっている」
    「そうしたら、今日はその三名に問霊を行ってみましょう。事故の詳細が分かれば、水妖について調べることもできますし、あるいは水妖に問霊を行うことも可能でしょう」
     藍曦臣はいつもの笑みをたたえたまま、「大丈夫ですよ」と頷いた。
     江澄は口を引き結び、頭を下げる。
     不甲斐ない。
     しかし、これほど頼もしい協力者はいない。
     解決の糸口になることを切に願った。
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     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
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    1437

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    「とりあえず、水を」
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