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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    takami180

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    続長編曦澄7
    なにもない日々

    #曦澄

     江澄は寝返りを打った。
     月はすでに沈み、室内は闇に包まれている。
     暗い中、いくら目を凝らしても何も見えない。星明かりが椅子の影を映すくらいである。
     藍曦臣は江澄が立ち直るとすぐに客坊へと移った。このことで失望するほど不誠実な人ではないが、落胆はしただろうなと思う。
     目をつぶると、まぶたの裏に藍曦臣の顔が浮かぶ。じっとこちらを見る目が恐ろしい。
     秘密は黙っていれば暴かれることはないと思っていた。しかし、こんなことでは露見する日も遠くない。
     江澄は自分の首筋を手のひらでなでた。
     たしかに、藍曦臣はここに唇を当てていた。
     思い出した途端、顔が熱くなった。あのときはうろたえて考えることができなかったが、よくよく思い返すとものすごいことをされたのではないだろうか。
     今までの口付けとは意味が違う。
     もし、あのまま静止できなければ。
    (待て待て待て)
     江澄は頭を振った。恥知らずなことを考えている。何事も起きなかったのだからそれでいいだろう。
     でも、もしかしたら。
     江澄は腕を伸ばした。広い牀榻の内側には自分しかいない。
     隣にいてもらえるのだろうか。寝るときも。起きるときも。ずっと一緒に。
     それはおそろしく魅力的だった。
     今度、今日のようなことがあったら、流れに任せてみようか。ひどいことにはならないだろうし。
     目をつぶると、やっぱり藍曦臣の顔が浮かぶ。
     ここにいてくれたらいいのに、と江澄はため息をついた。
     
     
     ところが、である。
     次に会ったのはひと月も後、春の盛りの蓮花塢で夜の一時だけだった。藍曦臣は申し訳なさそうに、一度だけ唇に口付けて、それ以上は何も起こらなかった。
     その次はさらにひと月空いた。蓮花塢は初夏となり、日々暑さが増していく。藍曦臣はその日泊まらなかった。翌日早くに用があるといって、夕刻にもならないうちに帰っていった。
     初めは三日おきに来ていた文も、次第に五日おきになり、十日おきになり、今江澄の手にあるのは半月ぶりの文である。
     ——次にお伺いできるのは半月後になりそうです。
     前回からひと月、蓮花塢の蓮はその美しい姿をほころばせはじめている。
     江澄は一人、涼亭に佇む。
     藍曦臣がここにきたのは去年の夏のことである。あのときはここで蓮の実を剥いてやった。
     次に会ったときにはまた剥いてやりたいが、そんな時間があるだろうか。
     ——無理はしなくていい。落ち着いたら教えてくれ。
     江澄がしたためた文はすでに蓮花塢を出た。
     藍曦臣はあまりに忙しそうで、そんな中、足を運ばせるのも申し訳がない。
     それに、藍曦臣はもしかすると自分への興味を失いはじめているのかもしれない。
     二度だけ会った、そのときの様子を思い返す。
    「江澄」と呼ぶ声は優しく、やわらかく肩を抱かれたが、一度の口付け以外に触れ合いはない。
     それに、姑蘇は遠い。
     自分から会いに行こうとしない江澄に、愛想を尽かしたのかもしれない。
     会いたい。だが、できるだけ会う回数は少ない方がいい。同じだけの気持ちを持っていないと知れたら、そこで終わりなのだ。そう思うと自分が出向こうとは言えなかった。
     
     
     半月も経つと蓮の見頃となった。
     江澄は涼亭の傍らで藍曦臣を迎えた。
    「久しぶりですね」
     微笑む藍曦臣の顔は、少し痩せたかもしれない。
    「無理をしないでくれと言ったはずだが」
    「ええ、でも、あなたに会いたかったので」
     江澄は視線を外した。世辞でも嬉しく思ってしまう。緩みそうになる頬を引き締めて、藍曦臣に椅子をいすをすすめた。
    「暑いだろう。ともかく、座ってくれ。今、冷やした瓜を持って来させる」
    「ありがとうございます」
     藍曦臣はいつかのように江澄の向かいに座る。もう少し時期が遅ければ、蓮の実を食べさせてやれたのに。
    「ところで、今回はいつまでいられるんだ」
    「明日の朝には帰ります」
     心臓が跳ねた。
     喉元に迫り上がる鼓動を押さえつけながら、江澄は視線を蓮花湖へと投げる。
    「そうか、少しは休めるといいが」
    「そうですね。今日はあなたとゆっくり過ごせたら嬉しいです」
     碁でも打つか。楽をするか。書を読むか。
     江澄が考えているうちに瓜が来た。川水で冷やした瓜は喉をうるおす。
     おいしいか、と尋ねたかったが、藍氏は黙食である。
     江澄の視線に気づいた藍曦臣は微笑んでみせた。
     湖面のきらめきを背景に、美貌が映える。
     江澄は顔を伏せた。あまりの美しさにめまいがした。
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     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
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     机上に広げられているのは文である。藤色の料紙に麗しい手跡が映える。
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     ——正月が明けたら、忙しくなる前に、一度そちらにうかがいます。あなたがお忙しいようなら半刻でもかまいません。一目、お会いしたい。
     江澄はもう一度文を伏せた。手を組んで額を乗せる。頭が痛い。
     会いたい、とは思う。嬉しくもある。それと同じだけ、会いたくない。
     会ったら言わねばならない。先日の言葉を撤回して、謝罪をして、そうしたら。
     きっと二度と会えなくなる。
     江澄にはそれが正しい道筋に見えた。誰だって、自分を騙した人物には会いたくないに決まっている。
     江澄は袷のあたりをぎゅっとつかんだ。
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     自分がこれほど厚顔無恥とは知らなかった。
     江澄は文を片付けると、料紙を広げた。ともかくも返事を送って日取りを決めよう。
     まだ、日は 1610

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄6
    思いがけない出来事
     午後は二人で楽を合わせて楽しんだ。裂氷の奏でる音は軽やかで、江澄の慣れない古琴もそれなりに聞こえた。
     夕刻からは碁を打ち、勝負がつかないまま夕食を取った。
     夜になるとさすがに冷え込む。今夜の月はわずかに欠けた十四夜である。
    「今年の清談会は姑蘇だったな」
     江澄は盃を傾けた。酒精が喉を焼く。
    「あなたはこれからますます忙しくなるな」
    「そうですね、この時期に来られてよかった」
     隣に座る藍曦臣は雪菊茶を含む。
     江澄は月から視線を外し、隣の男を見た。
     月光に照らされた姑蘇の仙師は月神の化身のような美しさをまとう。
     黒い瞳に映る輝きが、真実をとらえるのはいつになるか。
    「江澄」
     江澄に気づいた藍曦臣が手を伸ばして頬をなでる。江澄はうっとりとまぶたを落とし、口付けを受けた。
     二度、三度と触れ合った唇が突然角度を変えて強く押し付けられた。
     びっくりして目を開けると、やけに真剣なまなざしとぶつかった。
    「江澄」
     低い声に呼ばれて肩が震えた。
     なに、と問う間もなく腰を引き寄せられて、再び口を合わせられる。ぬるりと口の中に入ってくるものがあった。思わず頭を引こうとすると、ぐらり 1582

    pk_3630

    MAIKING平安時代AUの曦×澄♀ ②
    今回は帝(主上)曦臣が女官の中から江澄♀を探し出します。
    ちょこちょこ続きを書いていこうと思っているのでお付き合いいただけると嬉しいです。
    平安時代の衣装や行事等そんなに知識なく書いているのでそのあたりはスルーしてください。
    平安時代AU 第2話「大変ですっ!主上がこちらに向かっていらっしゃいます」

    女官達が集まり、次の宮中行事の衣装を準備していた時だ。まだ年若い女官がばたばたと慌てて入ってきた。常なら大きな足音をさせてはしたないと叱るだろう古株の女官達も、主上のお出ましとあっては目を白黒させている。
    すぐに衣装を片付けるように指示が出たが、片づけ終わる間もなく主上が入室した。
    「忙しいところに急に来てしまって悪かったね。」
    「主上、とんでもないことでございます。御見苦しいところをお見せしてしまいました、お許しください。」
    女官達がひれ伏していると、皆顔をあげるようにと言われた。
    主上を間近で見ることなどそうないことであったため、皆が好奇心を抑えられずにそろそろと顔を上げる。後方に控えていた江澄も前の女官達にならって顔をあげると、驚いたことに主上がこちらをじっと見ていた。
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