苦味を打ち消す甘さ ふわりと甘い匂いがして、思わず目を瞬かせる。密着するほどに近付けば微かに薬草の匂いはするが、離れていてわかるほど匂いが──それも甘い匂いがすることは、今までなかった。
「どうかした?」
「い、や……何か、甘い匂いが……したような……?」
あまりにも平然とされると、そんな匂いがすると思っているのは自分だけなのではないか、と思ってしまう。困惑したまま言葉にし、自分のためにもこの男のためにも気付かぬふりをすべきだったのではないか、と思い至ったが、男は仕方なさそうな溜息を一つ吐いて口布をずらした。
「やはりわかるか」
「……薬か?」
強くなった匂いに少し近寄って嗅いでいると、軽く息を吹きかけられる。塗り薬ではなく飲み薬でこれほど匂いが残るのは、忍びとしてはあまり良くないのではないか。
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