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    すぺ2

    すぺ2という牛天垢です。Twitter上でタグとかで書かせていただいたのをまとめようかなーと思って作ってみました
    ゆるーくよろしくお願いいたします

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    すぺ2

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    お圭さん(@0oVsKEOxLFvRLqT)の写真にお話し付けさせていただきました!話に出てくるホテルはいろんなオプションあって楽しそうなので一緒に行ってくださる方が居ればぜひ行きたい感じでっす!!
    お圭さん!いつも構って下さってありがとうございます!!❤

    【ほしふるよるに】

    「若利くん」
    とても真剣な表情で厳かに呟く天童をスマホの画面越しに静かに眺める。
    いつもひっきりなしに新しい話題を提供してくれる天童とは今日はどこか雰囲気が違う。その物々しい雰囲気は、白鳥沢学園バレー部時代に何度か大平や添川が漂わせていた雰囲気によく似ている。そうして、その眉間のシワの原因の大半は、今目の前で神妙な顔をしている天童が何かしら厄介ごとを起こしていた時だったりした。
    「日本にあって、海外にないもの、知っていますか?」
    なので、突然言われた質問に対して、こちらも真面目に答える必要があると思った。質問に質問で返していいのか悩みながらも「それは、なぞなぞか?」と訊ねてみる。
    「ん~ん。答えは。ラブホです」
    なぞなぞでないと言いながら『答えは』と付け加えるのはなぜなのか?
    無感動に天童の言葉を繰り返してしまった俺に、天童は何を思ったのか『ラブホテルとは?』の解説を始めてしまった。
    一応、自分でもそのくらいの知識は知っている。むしろ、天童と付き合い始めた頃、余計なことまでいろいろと調べたことがあった。なので、天童の解説を聞く限り、どうやら俺の方が知っていることは多そうであったが、つらつらと話す天童の様子を見るのが悪くなかったので特に口を挟まずに聞いていた。
    「俺、今度、日本帰るジャン?」
    天童は来月、日本に一時帰国することを決めた。最近はずっと資格試験などで忙しそうにしていた天童であったが、それがある程度は落ち着いらしい。今までも散々天童家から帰って来いと言われていたらしいが、試験を理由に断ってきていた。
    しかし、天童も人の子だ。数年ぶりに帰国したいと思ったのだろう。来月、やっと往復のフライト料金と2週間弱の時間を確保して、日本に来る予定だ。
    つまり、俺も天童に直接会えるのが数年ぶりなのである。楽しみでないわけがない。
    「来月が楽しみだ」
    「うん。俺もだけどサ。……ンで、ネ……?」
    すぅっと小さく吸い込まれた呼吸音もこちらに届いたのは、むこうのマイクの性能が良いからか、それともこちらが最近スマホを買い換えたからか?
    「一緒に、ラブホ、行ってみませんか?」
    予想していたよりも硬い声音で言われた言葉に、思わず俺も息を飲んでいた。

    天童と付き合い始めてもう数年が経とうとしている。と言っても、お互いに忙しい身の上である上に在住国が違う。しかも、同じアジア圏ではなく、天童の住んでいるフランスは日本から遠く離れた国だ。
    時差だけでも7時間。直通便に乗ったとしても約12時間のフライトになる。しかも、天童の資格試験の頃やこちらのリーグ戦が忙しい時期などは数か月間、直接連絡も取れないこともあった。
    形式上『付き合っている』とは互いに認識しているが、実は、俺達はそれらしいことをしたことがほとんどない。世間一般的な願望をそれなりに持ち合わせている身としては、不満が全く無いわけでもないが、その不満を相手に伝えるほどでもないのであえて言うことも無かった。
    ひそかに、いつなんどき、そういうチャンスがあってもいいように用意はしてあるが、それをわざわざ天童自身に伝える必要性も感じていなかったので伝えてはいない。

    だが、もしかしたら。
    今回、天童はわざわざラブホテルの話題などを出してきた。
    もしかしたら、天童もそういったことを遠回しに暗示していたのでは? と期待してしまう。
    「構わない。付き合おう」
    「良かったー! なンだヨ~! メッチャ返事に時間空けるからヤなのかと思っちゃったジャン!」
    コロッと人でも変わったように表情を明るく変えた天童を見て、俺の表情も少しだけ緩んだらしい。いかがわしいことを考えていたのが伝わらなければ良いと思いつつ、この、勘の良い恋人には全てお見通しなのかもしれないとも思う。

    だが、思いの外、その日の話題はあっという間に、この前のリーグ戦の話になり、今までの話題は無かったかのように扱われた。
    先程までの会話の中で、時々、天童が彼らしくない表情を見せていた気がしていたが、それがすぐに気にならなくなるくらいに天童との会話は楽しく、また、数年ぶりの直接の再会が楽しみであった。

    * * *

    待ちに待った天童の帰国日。俺は難しい顔で前方を睨みつけていた。
    「ところで天童」
    「なんでゲスか?」
    「なぜ、車なんだ?」
    天童からの指示通り、俺が天童を空港に迎えに行くと、そこには、思いがけず少し硬い表情をした天童がいた。2週間弱の帰国としか聞いていなかったが、それにしては多い荷物に疲れているのだろうか? とも思ったが、訊ねる間も無く「チョット付き合って」と空港の外に引き連れられた。
    やって来たのは、隣接するレンタカー店。そうして、もう既に予約でもしてあったのか、あっという間に車を借り、今現在は天童の荷物と共に車で移動中だ。
    もちろん、運転は天童である。走り始めは「右ハンドル、違和感~!」とか「交差点コエ―!」といちいち騒いでいた天童だったが、高速道路に入ってしまえばチューナーとスマホをつないで音楽を流してみたりと余裕そうだった。

    そうして、先程の質問になる。まさか、成田空港から車で宮城に帰るつもりなのかと思ったが、なんとなく、方角が違う気がする。
    「俺調べによりますと、派手なラブホは大体、チョット郊外にあるらしいのデス!」
    「なるほど」
    軽快な音楽に肩を揺らし軽く鼻歌を歌いながら答える天童は、今日空港内で会った時とは全く違う。その天童らしい様子に、心持ちホッとする。空港で久々に相対した時のあの硬い雰囲気は、まるで別れ話でも切り出されるのではないかと思われるような硬さだったからだ。
    「あと、うっかりパパラッチされたらヤだから」
    「パパラッチ?」
    「雑誌とかにさ、『あの、日本代表バレー選手! 同性の恋人とラブホお泊り!』みたいな記事書かれたらイヤじゃん?」
    「そうか」
    近年、様々な有名人が雑誌などで不倫だの熱愛報道だのされているのも確かである。そういった下世話な記事の一つとして面白おかしく天童の事を書かれるのは確かに本意ではない。特に、数年越しの帰国でそんなことになったら、次回の帰国が気まずくなり、遠退いてしまう可能性も無くは無いだろう。
    暮れてきた日の光を受けながら走る車は、徐々にひとけのない道に入っていく。何を目標に走っているのかと思ったら、どうやら天童はしっかりとナビを利用していたようだった。曲がり角で時々、天童のスマートフォンが小さな音を発する。その電子音は多分、フランス語だ。日本語だったらもっと早くそれに俺も気付いていただろう。
    「あ、あった! アレ、アレ!」
    あれ、と指差されたネオンサインを見ると、そこには『HOTEL ハグハグ』の文字。やっと薄暗くなり始めた時間だというのに、煌々と光っている様は、もしかしたら日中もあの明るさで光り輝いているのかもしれない。
    なんてエコじゃないんだ、と眉根を寄せていたら、運転席で天童は「凄いネーミングだよね」と笑っていた。
    その、運転席からの声が、どこか少しだけ違う気がする。違和感に運転席を見たが、人の感情の機微に疎いと言われる俺には何も汲み取ることが出来なかった。真っ直ぐに前を見て運転する天童の横顔はいつも通りのように見えた。
    すぅっと車の速度を落とし、その建物の中に入っていく。1台しか停められない不思議な形の駐車場に車を停めると、その後方にある入り口に向かう。
    「あ、待って待って。俺のカバン、持ってくカラ」
    はやる気持ちのまま、さっさと降りてその入り口に向かおうとしたら、天童に声を掛けられた。後部座席に入れられていたキャリーケースを引っ張り出している。
    そうだった。結構な大きさのキャリーケースだったのだ。手伝おうかと引き返し、手を出したら、ビクッと明らかに飛び跳ねられた。
    中途半端に伸ばした俺の手を見て、明らかに天童が「ヤベ」とでも言いたげな表情になる。俺でも解るくらい明確に。
    「あ、えっと……ダイジョブ。俺の、荷物だから。俺、持ってくシ……」
    らしくなく切れ切れの言葉に胸がモヤつく。それを振り切るように「階段がある。そこは持とう」と付け加えたら「だ、だいじょうぶ。重くネーし……」とまた、どもるような小さな声で返された。
    視線が泳ぐと、天童の白目がちな瞳はとてもわかりやすい。いつもならば小さな画面越しだからその小さな動きを誤魔化せたのかもしれなかったが、今、こうやって対面していればそれは無理な話だった。
    「気にするな」
    距離を取るようにされて傷付かなかったと言えば嘘になる。久々の再会にもかかわらず、荷物を持つくらいの親切を拒否されるのは心外だ。
    日本の主砲にバレーボールより重い物持たせらんネェよ、なんていう軽口にいつもならばムッともせずにいられただろうが、その時はついつい言い返してしまった。
    「職人になる人間の指の方が大事だろう?」
    もっと大切にしろ、と、ひったくるように鞄を引き取ってしまう。さっさと歩き出してしまってから、もっとやり方があっただろうと後悔しても、もう遅い。
    ぐっと引き結ばれた天童の唇は、何を言おうとしてそれを止めたのか。考える間もなく、黙々とひとけの無い店内を歩いて行くことになってしまった。


    ラブホテル、というと、俺のイメージでは一般的なホテルの様な受付のようなものがあり、その先に部屋を選ぶなにがしかの機械があり、エレベーターに乗って部屋に向かう、というものだと勝手に想像していた。だが、ここはどうやら違うらしい。
    もしかしたらこのホテルが特徴的なのかもしれないが、駐車場からもう既にどの部屋に続いていくかは決まっているらしく、外から繋がるドアを越え、階段を登るとすぐに目的の部屋らしき所に繋がっていた。
    「なんかネ、ココ、予約が出来る! ってのでやってみたンだ! 駐車場から誰にも会わネーから。なんか、気まずくネーシ! 良くネ? あ、あとね、露天風呂あるらしーから、探検しヨ!」
    先程の駐車場でのやり取りが無かったかのように天童が明るい声を出す。身軽な様子のままどんどん部屋の中に入っていく、その、天童の様子にどれだけこちらの気持ちが救われたことか。
    たしかに、大して重くも無かったただ大きいだけのキャリーケースをゴロゴロと部屋の隅に置き、室内を見回す。
    勝手に想像していたチープな内装とは違い、普通のワンルームマンションのようなその雰囲気は悪くない。落ち着いた家具の色に清潔な水回り。なぜかカラオケのようなものがあり、その横に大きなクローゼットのようなものがある。テレビは壁掛けタイプで大きかった。ただ、変わっているのは、やはり、やたらと大きなベッドが設置されている事だろうか?
    「おぉ! ホントに露天風呂!」
    天童の声がした方に向かえば、部屋と同じくらいの広さのウッドデッキの屋外に、大きな風呂が設置されている。勿論、そのウッドデッキの周りには高く厚そうな壁がそびえ立っている。プライバシーは十分に確保されているらしい。が、天井は無く、初夏の爽やかな風が入ってくる。
    その丁度良い露天加減に、思わず感嘆の息を漏らしてしまった。流石に湯船の上には屋根があるが、まごう事なき露天風呂だ。おあつらえ向きに天気のいい今日ならば、もう少し遅い時間になれば星が綺麗かもしれない。
    「ってか、湯船! むこうじゃ、シャワーばっかだから! お湯、溜めていい!?」
    飛び跳ねるような天童の声に勿論、と深く頷く。そのためにに来たのだろう? と言ったら、一瞬、天童はこちらをじっと見て、それから「ソダネ」と小さく呟いていた。
    「お湯、溜めてる間に、他の部屋ナイか見て、みる?」
    「いや、一部屋しか無かったぞ?」
    「ソ?」
    また、天童の瞳がふらぁっと彷徨う。チラリチラリとその視線が天童の持って来たキャリーケースの方に向けられているのに気付いてしまった俺は、もう、流石に、訊かずにはいられなかった。
    「あの荷物、何か入っているのか?」
    「えっと……」
    ジャバジャバと湯船の中に溜まっていくお湯の水音に消えそうな小さな天童の呟きを、その先を聞き逃さないようにじっと見つめ返す。また、グッと天童が小さくその唇を自身で噛みしめていた。
    「ヤロードーシでヤるには、イロイロと必要な物が、あるんでゲス……」
    「知っている」
    一度調べたことについては忘れない傾向がある自分としては、それは解りきっている事だった。勿論、最低限必要と思われるものは自分でも持ってきている。
    だが、その俺の反応は天童にとっては予想外だったらしく、一瞬、サァッと音がしそうなくらいに顔色を青く染め、それから耳の端まで真っ赤になっていた。
    「ちなみに、必要そうなものは持参した。多少、用意もしてあるが、天童はどうしたい?」
    「あ、え、その……」
    完全に固まってしまった天童に、一歩近づくと、今度は隠されることも、誤魔化されることも無く、あからさまに怯えられる。哀れなほどに飛び上がった後、一歩後ろに下がられ、こちらもつい、表情を硬くしてしまう。
    「俺、ネ……」
    乾いたような天童の声を、湯の溜まる水音が掻き消しそうだ。生憎、天童の後ろにある蛇口を俺が止めることは出来ない。せめて、少しでも怖がられないように、静かに息を詰めて天童の声を聴く。
    「ホントは、こえーンだ」
    勢いよく流れる湯の音に紛れ、天童らしくない張りの無い声がそう呟いていた。だが、俺はただ静かに「そうか」と相槌をついて促すことぐらいしかできない。だが、予想外にそれが天童の予想外だったのか、今度は天童はその特徴的な瞳をパチクリと瞬く。天童の範囲の広い白目が、室内の明るい光を反射しているのにその時気付いた。
    「らしくネーな、ッテ、思う……?」
    「いや?」
    「……まじ?」
    天童が瞬きをすると、その瞼から光の粒でもパチパチと零れ落ちて来そうだった。徐々に暗くなる周りに反して、キャリーケースを置いた部屋の中は煌々と明るい。そこと同じスイッチになっているのか、湯船の置いてある辺りの間接照明も周囲が暗くなればなるほどその存在感を主張し始めている様だった。
    「……天童は……」
    続けようとした言葉は、目の前で盛大に湯船から湯が零れていくのにあっさりと遮られてしまう。音と、溢れたお湯が脚にかかったことに驚いたのか、天童が高く飛び上がる。よろけてこちらに倒れてきたので、抱き留められたら再び肩を揺らし、それから弾けたように大笑いを始めた。

    今までの緊張感が些細なことだったかのようなその盛大な笑い声は、天井の無い部分を抜けて、きらめきだした星空に届きそうだった。日本の星空と、フランスの星空は全く違うのだろうか? 後で時間があれば訊いてみようと思った。
    「ま、イーや。とりあえず、風呂入ろ~!」
    サッと湯を止めた天童は、前歯を少しだけ見せてニッと笑った。


    学生時代に寮生活をしていたのは良いことだったのか、悪いことなのか。ひとまず、互いの裸体を見慣れている点では良かったのかもしれない。あまり深く考えずにも、二人揃って湯船に浸かる。
    「うへぇ~……やっぱ、お湯浸かるの、イーナー……」
    全身の空気が抜けてしまうそうな勢いで溜息を吐く天童は、続けて「金稼げるヨーになったら湯船あるトコひっこそ~!」と拳を上げて鼻息荒く宣言していた。フランスでそれなりな地位を確立できるショコラティエの資格は、逆に言えば、海外籍の天童にとっては達成できるまでに多くのことを乗り越えなくてはならない。それで、かつ、稼ぐ、となると、また更にやらなければならないことは増えるのだろう。
    「風呂に入りたいだけならば、もっと、こっちに帰ってくればいい」
    そっと呟いたその言葉は、もしかしたら、少しくらい俺の願望の方が強かったのかもしれない。あっさりと「そのホーが金かかんジャン?」と返されて、それもそうかと思う。
    「言い方を変えよう。俺は、たまにこちらに来て欲しい」
    「ネツレツ!」
    きゃはは、と明らかに真に受けていない様子で返されたので、少しだけ意趣返しのつもりでそっと湯船の中で手を握ってみる。
    勿論、盛大に湯を跳ね上げて天童が飛び跳ねる。その勢いで湯船から出てしまうかと思ったが、そうはならず、小さく丸くなり、逆に湯の中に沈んでいった。今日はいつもよりあまり動かないその特徴的な口元まで湯に浸かる。それは湯の中でブクブクと大きな泡を生んでいた。
    「ただ、別に何かを急いているわけでも、求めているわけでもないつもりだ」
    付け加えた言葉に反応したのか、じわっと天童が浮かび上がる。かなり湯が減ったので、少しだけ湯を足す。外気に触れてぬるくなりかけていた湯が再び温まっていった。
    「じゃー、今日、別になんもしないでおだやか~ぁに一緒にネンネする、みたいなの。でも、イーの?」
    顎の先からポタポタと湯を垂らしながら、天童の首がこてんと横に倒れる。それをじっと見つめ、それから天井を見上げる。空の見える部分からいくつか星が見えていた。
    「そうだな」
    「ソッカ……」
    水面に雫が落ちるような静かさで天童が相槌を打っていた。それは、何回も、そっか、と続く。まだ握ったままであった手をもう一度、握っても、今度は天童からの明確な拒絶も驚愕も表されずにすんでいた。
    「正直に言えば、期待は、したが……」
    通話をした時から、今日までの自分の気分の浮き沈みを思う。
    確かに、進展があるかもしれないという期待はあった。下心が無かったかと言えば嘘になる。ただ、それは久々に天童に会えること、直接話が出来ること以上には俺の心を揺さぶってはいなかった。痩せ我慢でも何でもなく。
    「もうチョット、待って……くれル?」
    もう、天童の顎からは水滴が垂れない。ただ、またその顎の先が水面に付きそうだった。こんなにもこちらを真っ直ぐに見ない天童は久々な気がした。
    「今は、向こうでの生活を一番に考えればいい」
    俺がバレーを最優先にするように、天童は自分の夢に向かって進むことを最優先にするべきだ。それが対等ということであり、対等であることは常に自分たちが求めてきたことだったように思われる。
    「ナンか、それでイーのかナ~?」
    「構わない」
    心から、そう思っていた。ただ、俺はそれを上手く伝える術を持たない。そして、常ならばそこまでも先読みをしそうな天童がそうしないのは、単純に疲れているのか、それとも、それ以外の何か理由があるのか? 俺たちはもっと、話すべきだと少し感じた。
    「なら、今日は俺の質問に答えてくれればいい」
    今度は俺が、ざぶっと深く湯に浸かる。湯船の縁に寄りかかれば、そこから切り取られた天井の向こうに弓矢の様に飛び去る光が見えた。お湯無くなる、と笑う天童の軽やかな声音に長く浸かって居たいと思った。
    いつの間にか空には星が瞬いている。元々そんなに星空には興味が無かったが、月は世界中どこから見ても同じ月齢なのだと天童に教わってからは少しだけ空を見上げる機会が増えていた。
    「天童。フランスの空は、こことは全く、違うのか?」
    風呂から出たら、ただ、くだらない話でもしようと思った。もっと、たくさん。思っていたことを伝えるべきだと思った。
    せいぜい、湯冷めしてしまわない程度に。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜❤
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    すぺ2

    DOODLE若利くんお誕生日に思いついたネタなんですが、なんか、薄暗い…?いや。めっちゃハートフルハッピーエンドのつもりで書きました。
    新書メーカー背景付きで投稿しましたが、なんか読みにくかったので
    Dear… 牛島家にはいつからかサンタが夏にやって来る。
     ある日の夕方、牛島若利がバレークラブから帰ってくると、玄関に両手で抱える程度のダンボール箱が置かれていた。差出人の名はなく、『若利へ』という右上がりのメモが貼られている。
     玄関まで出迎えに来てくれた母を見上げると、母は若利に小さく頷く。
    「季節外れですが、サンタさんが来ました。若利にだそうです。手を洗ったら開けてみなさい」
     何の疑問を感じないのか、若利はただ素直にこくりと頷く。そぉっとそのダンボール箱を持ち上げると、大きさの割には軽く感じられた。
     中身がなにかさえも分からないので、若利はそれを慎重に持ち運び、洗面台の足元にそっと置く。それからいつものように固形石鹸を丁寧に泡立て、爪の中まで丁寧に洗った。いつでも乾いた清潔な物がかけられているタオル掛けのタオルで丁寧に指先までしっかりと水分を拭き取ってから、もう一度若利はダンボールを抱えて居間に向かう。
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    すぺ2

    TRAININGかさねさん(@kasanedane22)の素敵絵にss付けさせていただきました!元絵が本当に!!可愛いのにえっちいのでぜひ見てください!!!
    絵も小説も描ける&書けるかさねさんに私ごときが書くの本当に恥ずかしいですが!!!恥を忍んで書きました!
    【きみは、ぼくのおきにいり】

    天童覚は変わっている。

    「ブロックは読みと勘だヨ~」
    今では珍しいゲスブロックを得意とするMB、ひょろりと伸びた手足、異様に青白い肌、それに対比する様に真っ赤な逆立てられた髪。普段は猫背な彼も、ひとたびコートに入り、ブロックに跳べば、その背はにょきりと伸び、ゴム製で出来たおもちゃのようにしなやかな手指が相手からの攻撃を叩き落としてしまう。
    初めて牛島若利がその独特なブロックを見た時。今まで見た数々のブロッカーと異なるその「叩き落とす」技術に釘付けになった。牛島の父が繰り返し話していた言葉を思い出す。
    「強いチームに行けば、強いやつ、面白いやつに会える」
    白鳥沢バレー部はどこからどう見ても強いチームだった。だからこそ、この、一味も二味も変わったゲスブロッカーに出会えた。
    ——お父さん。やっぱり、このチームは、強い——。
    自分が一番の変わり者とされていて、そのチームで最も強いと思われているとは気づきもしない牛島は、天童をはじめ、数々と集まるメンバーを見てそう感じていた。

    「若利く~ぅん!」
    間延びしたイントネーションで天童がそう呼ぶ時、牛島はただ、静かに 1326

    すぺ2

    TRAINING亜歳さん(@asai_oekaki)のかわいい牛天ワシの絵に付けさせていただきました!元絵がすごくかわいいので!!!ぜひ見に行ってください!!【にひきのわしのうしてん】

    「ワカトシくん、ワカトシくん」
    テンドウワシが ぴょこぴょこと あかいかざりばねを ゆらしながらワカトシワシのまわりを ちょこちょこあるきます。
    「はしのむこうに、おいしいきのみがいっぱいあるんだって! いこうよ!」
    「はしのむこう?」
    ワカトシワシがみどりのかざりばねをゆらして ちいさくくぶをかしげます。
    「あのトロルのいるはしのむこうか?」
    「そーそー!」
    テンドウワシが そのまっしろなつばさをひろげます。よくみれば、そのつばさは ひかりにすけてうすむらさきいろに みえます。
    「このまえまでとなりのもりにすんでた ことりのおやこがたべられちゃったってきいたけど たぶん、おれらはだいじょうぶ」
    ふふん、ととくいげにテンドウワシはその するどいくちばしをみせびらかします。ワカトシワシは なにかをかんがえていました。
    となりのもりの ことりのおやこは テンドウワシとウシワカワシがこのもりに すみはじめたとき、となりのもりの きれいなみずばを おしえてくれたしんせつな おやこでした。
    「わかった。ほんとうにトロルがあのおやこをたべたなら おれたちはいくべきだろ 705

    すぺ2

    MOURNING栗原さん(@kuri_usiten)に大変仲良くしていただきまして!ありがたいです!!
    そんな中で、素敵絵をいただいて、それに小説付けさせていただくというものをやらせていただけたので&公開許可をいただきましたので、自慢という名の公開をさせていただきます!!いいだろ!!!
    おとぎ話パロです。
    栗原さんの素敵な絵付きのものは支部にあります(https://www.pixiv.net/artworks)
    【はだかのおうじさま】

    その国はとても美しい国でありました。人々は幸福そうに微笑み、動物たちも穏やかに過ごせる緑に溢れ、美しい空と清涼な川と湖がその領地にありました。

    そこにやってきたのが1人の赤毛の男です。正確に言うなれば、彼は男と言うにはやや幼い顔立ちをしていました。年としては10代後半といったところでしょうか? ギョロリとした白目の多い大きな目は彼を幼くも奇妙にも見せております。ただ、その長身をひしゃげるように曲げて歩く様は老人のようでした。
    彼は、ヒョロリと長い手足をブラつかせながら質素な身なりで現れました。背中には大きな木箱を背負っております。ずっしりと重そうなそれのせいで少年は背中を丸めて歩いているのかもしれませんでした。

    「王子様の17歳のお祝いに参りまシた」
    その国の真ん中の少し小高い丘、その上に質素なお城がありました。赤毛の少年はそのお城の門の前で門番の少年にそう告げておりました。太眉の門番はその特徴的な眉をㇵの字にして赤毛の少年をマジマジと眺めます。
    「えっと、祝賀会はまだ先で……」
    「分かっていマス。ですので、その、祝賀会に見合う服を仕立てるために参りまシた 9238

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