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    ALL(2010/06/05)

    #ラキファン
    lachrymalFan

    マトリカリア 俺が本部へ戻るなり、エントランスで待ち構えていた奴らが一斉に集まってくる。
     ボス、カポ・デルモンテ、ジャンカルロさん、シニョーレ・デルモンテ、ジャンカルロ、ラッキードッグ。今までに俺が呼ばれたことのある名前がほとんどここで叫ばれてるんじゃないだろうか、あらゆる立場の沢山の家族が、俺の帰還を目を輝かせて出迎えた。

     ――いやはや、照れちまうじゃねえの。

     四方から伸びてきて握手を求めたり、肩を叩いたりする手の熱烈さがくすぐったくて、時に乱暴なそれがちょっと痛てえ。まあ、時には愛も痛いものなんだってことは聖リタ修道院にいた頃からテレサマンマの愛の鞭に、たんと教え込まれてる。

     俺の人生では何度目か数えるのも面倒なくらい。
     だけど、ボスになってからは初めてのことだ。

     こうして――塀の中から、戻ってくるのは。

     脱獄を果たした只のチンピラを迎えに来てくれる奴なんて、そうそういるはずもねえ。それに前回、ベルナルドたちを連れて脱獄してきた時には熱烈な出迎えなんて期待できる状況でもなかったし、あの頃の俺は幹部とか二代目とか言っても名ばかりの、知名度もまるでないヒヨコちゃんだった。
     だから、この熱烈な歓迎振りには少し驚く。今回は実刑を食らったわけじゃないから高々一週間やそこらの拘留だったんだし、大した事でもねえ気がするんだがな。確かに、近頃は禁酒法の撤廃でシノギも色々と厳しい感じになってきている上に、一度は手打ちが成立したはずのGDの連中の動きが最近どうにもキナ臭い。だけどまあ、ウチにはボスの俺よりよっぽど頼りになる部下が揃ってる。俺がおナワになると同時に、シマの引き締めだのGDの連中への牽制だの警察への圧力だのと、瞬く間にやってのけていたはずだ。俺の帰還を喜んでくれるのは嬉しいが、まるでキリストの復活でも見るような歓迎振りはむしろ気恥ずかしく感じちまう。
     だって今回、俺は何もしてねえし。
     脱獄マニアの特技を活かすまでも無く、さっさと釈放が決まったんだからよと思いながら人並みを掻き分けて進んでいくと、一番奥に四つの人影が見える。
     こんだけ大勢の奴らが集まってるってのに、ぐるりと見渡せばそこだけくっきり彩度が違った。目にも楽しい男前がずらりと四つ。あの中の誰かを――誰でも、恋人にできるオンナがいたら、きっとそいつは最高にハッピーでラッキーな女だろう。俺がラッキードッグだとしたら、その子はラッキーガールとでも名乗ればいいかもしれない。思わずそんなことを考えてヒュウと口笛を吹きたくなるような上等なツラが並んでいた。
     ったく、お前ら。今の主人公は俺だろう? 
     そんな恰好良く立ってんじゃねえよ、主役が喰われて涙目になっちまうじゃねえか――いや、ちょっと訂正。うっかりイヴァンまでひと括りに男前のカテゴリに入れちまったぜと、こっそりと頭の中で修正をかける。正しいカテゴリ名、馬鹿。ホラ、そこんとこ結構大事だからネ?

    「eccomi qui!」

     帰ってきたぜ、と声を上げれば歓声が沸く。まあこの中の何人かはハラん中では一生ぶち込まれてりゃ良かったんだこの馬の骨野郎とか思っていたりするかも知れねえが、顔に出ないなら俺には分からないので問題なしだ。正面に向き直った、その先にいるのはあいつらだ。
     周りを取り囲んでた連中が、それに気付いて距離を開ける。

     一気に静まったホールの中に響くのは俺の靴音だけ――ボスになってから一年近く経てば、向けられる目の数にも慣れてくる。
     カツリ、とひとつ響くたびに、肉食獣の笑い方をしたルキーノの笑みが濃くなった。イヴァンはふんと顔を背け――た、くせに横目でチラチラ見ながら落ち着かなげだ。ジュリオの奴はなんつーかもう、尻尾と耳が飛び出して千切れそうなくらい振りまくりたいのを必死で抑えているのがすげえよく分かる。ベルナルド――は、ちょっと痩せたか? つか、やつれた? 頬の肉が落ちた分だけ鋭くなった眼光を、眼鏡の奥に隠している。

     全員が俺を見て、待っている。
     地位とか責任とかのある立場ってのも面倒だね、人前じゃ恰好をつけなくちゃならねえ。

     ベルナルドが一歩前に出た。それは筆頭幹部のオツトメだが、俺はこいつが、今から言うはずの台詞をずっとずっと言いたくてうずうずとしていたことはその顔を見りゃすぐにわかった。
     クールで冷静な筆頭幹部の顔をして。
     ただし、いつもだったら組織全体を見渡してるはずのグリーンの眼が、――そして全部で四対の眼が、今は俺だけを見ていた。
     
    「おかえり、ラッキードッグ。ジャンカルロ、――マイ、ボス」









     





     他の連中とは後で顔を合わせる時間を作ることにして別れると、俺たちはエレベーターに乗り込む。目指すのはアレッサンドロのオヤジとカヴァッリの爺様が待ってる最上階の顧問室だ。多分、良く帰ってきたとかじゃなく何つかまってるんだこの間抜けとか小言の嵐が待っている気がするがまあ仕方がねえ。
     嬉しいけど時には厄介に感じることもある視線が閉じたドアに阻まれると、やっと楽になった気がする。衆目の中でおかえりなさいボスと形式ばった出迎えはしてもらったが、それじゃどうにも帰ってきた気がしなかった。
     だって、なんつうかさ。
     うまくはいえないんだが、こいつらと俺ってそんなモンじゃねえだろう? 
     その証拠に、周りを固めた四人も扉が閉じたこの密室の中でさっきまでと、纏う空気が確実に変わっていた。



    「――今回は、まともに風呂に入ってただろうな?」
    「あたりまえだ――って、コラ。あんたライオンだろーが! それこそ犬みてえにくんかくんか匂ってくるんじゃねえよ!」
    「洗ってない犬の匂いがするボスなんざ、娑婆に出たって表を歩かせるわけにはいかんだろうが。……少し、気になるがまあ大丈夫か?」
    「なんだよ、少し気になるって! ちゃんと一昨日の晩風呂に入りましたっての!!」
    「カヴォロ、そこでなんで一昨日なんだ? 出所の前の日に、ムショ暮らしの垢を落としてくるぐらいしやがれ」
    「ムショん中のきったねーシャワーで、落とせる垢なんてタカが知れてるって、お前も知ってんだろ、ルキーノ。垢落としは出てからやりゃいいじゃねえかよぅ」
    「再会の抱擁をしたボスから日影に干した雑巾みてえな匂いがしたら、せっかくの感動が台無しだろうが。表に出てからやるのは、そりゃまた別モンだ」
    「雑巾て……ひでえ、そんなに臭くネエだろ!? ……別モンて何だよ?」
    「男と女は違う生き物か? ――そんなこともわからないのか? アメリカで一番ドブ臭い場所からご帰還したボスのために用意するモノと言やあ、そりゃあイイ匂いのする天国に決まってるだろう。――俺のシマで一番上等な店とオンナを抑えたからな、楽しみにしてろ。それまでに風呂にでも入って、初夜の花嫁みたいに全身くまなく磨き上げとけよ? ……なんなら俺が洗ってやってもいいがな、ジャンカルロ」
    「――謹んで遠慮いたしマス」

     またベルナルドの前髪に悪そうなゴージャスな宴になるんでしょーね。つか、初夜ってなんだ、初夜って。
     俺相手にそんな顔してどーすんだというエロライオンが、「この金髪も久しぶりだぜ」なんて呆れるような台詞を吐きながら俺の髪をぐしゃりとかき混ぜ、




    「――ハッ! どーせ檻ン中で、毎日ぐーたら寝て過ごしてやがったんだろ。こっちがあっちい中、駆けずり回ってやってる間に、お気楽なこったなぁ」
    「うっせーよイヴァン! 仕方ねえだろ、ムショん中じゃやることもねえしよ。暇だからって二代目カポがそこらに混じって運動してちゃ、周りの連中がビビんだよ! 脱獄するわけにもいかねえからなんもすることねーしよ」
    「イチから十までベルナルドに任せて、のんびりお昼寝して起きたら出所だろ? ハン、いい休暇になったんじゃねえのか」
    「禁酒法終わりかけて、しかもGDの連中がまーた小蝿みてえにぶんぶんしだしたこの時期に、刑務所バカンス決め込んでのんびりしてる余裕は俺にもねえよ。帰ってきたら机の上がどーなってるかで何度うなされたか……それに、イヴァンちゃんのシノギのことも心配だったしー?」
    「んなっ――!? テメエに心配されることなんざねえよ! なぁにがイヴァンちゃんだ、気色わりぃ呼び方すんじゃねえ、ファック!」
    「えええ、なんだよー。心配させろよー。お前だってムショの中の俺の事、あんなに心配してくれたんだからさぁ」
    「だっ、――誰がなんざ心配したってんだボケェエエ!」
    「え、心配してくれてたじゃん? ――俺がムショん中にいる間、『イヴァンの兄ぃからです』つって毎日毎日タバコやら小銭やら酒やらもってくる奴がいたし? 多すぎて隠し場所に困るくらいで……あんだけ物持ち込ませるの大変だったろ、お前。しかもことある度に、何か足りないものや困ってるもんは無いですかなんて聞いてくるからいい奴らだなぁと感心してたら、口揃えて『イヴァンの兄ぃが気にしてましたぜ』って……」
    「っだあああああああああ! うっせえ、うるせえうるせえうるせえええええ! 俺ァ知らねえファーーーック!」

     可愛い所もあんじゃねえかと言ってやってるのに素直じゃねえイヴァンちゃんが、顔を真っ赤にしてわめき散らした。
     まあここで素直に「心配してたんだぜ」なんて言われたら俺かイヴァンかのどちらかが病院に行くべき事態――俺が幻聴を聞いてるか、イヴァンが熱でも出してトチ狂ってるか――なんだけどな。
     そんなイヴァンとは対照的に、




    「あ、あの……ジャン、さん。俺は、心配、してました……」
    「おお、そうだよな。サンキュー、ジュリオ! 俺がぶちこまれてる間も頑張ってくれてただろ。ムショん中でGDの連中、お前にめちゃめちゃ怯えてたぜ? マッドドッグに殺されたくねえからって理由で出頭してくる奴らが続出したって看守共が眼ぇ白黒させてた」
    「はい……あの、俺、そのくらいしかお役にたてない、ので……」
    「――馬鹿。なにがそのくらい、だよ。めちゃめちゃ助けられてるっての。檻の外だろうが中だろうが関係なしに、お前がいてくれるだけで鉄壁のボディガードみたいなもんなんだぜ?」
    「あ、あ……ありがとう、ございます……! あ、でも、俺……すいません、今回はあんまり、殺せませんでした……」
    「知ってる。外の様子は弁護士から大体聞いてたからな。なに謝ってんだよ、それも、よくできましたの花丸だって。無駄に殺す必要なんてねえさ。まだ本気で戦争おっぱじめた訳じゃねえんだし。なのに相手の戦意を喪失させまくりなんてさ、余計すげえじゃねえか!」
    「――ジャンさん……! ジャンさ……ジャンさん! 俺っ……」
    「暴走しちまうのも、抑えられたんだろ? よくできたじゃねえか、ジュリオ」
    「はい、……はい! 俺、早くジャンさんに会いたくて……だからジャンさんが一日でもはやく出てこられるよう、頑張り、ました。ジャンさん、俺……俺、ジャンさんが帰ってきてくれて、嬉しい……です……」

     よしよし、と。頭を撫でてやったらもう隠せないわんこの耳としっぽをぶんぶんと振ったジュリオが、きらきらと輝くでっかい眼で喜びを露にする。
     このワンコは、ほんとに、ったく――
     このとろんと蕩けた眼をした、お菓子の家でも見つけたガキみたいな奴が、CR:5の敵がなによりもビビるあのマッドドッグ・ジュリオだなんてきっと誰も信じねえに決まってる。夢見心地に頬を赤らめたジュリオを、赤ンぼみてえなほっぺたしてやがるなちょっとつまみてえ、つっつきてえ――と湧き上がる衝動を堪えた。
     ふと視線を感じればそんな俺たちを、




    「――つまりは俺たち全員、親の帰りを待ちくたびれた子供みたいに、お前が戻ってきてくれるのを首を長くして待っていたというわけだよハニー」
    「ワオワオ、随分とでっけえお子様たちだこと。――アンタもけ、ベルナルド?」
    「勿論。頼れる長男はこうみえて泣き虫なんだよ? マンマの姿が見えないばっかりに、毎日寂しくて泣きそうだった……――ほんとに、ね。お前がパクられたときは、終末の鐘が鳴り響いた気分だったよ、ジャンカルロ」
    「なんだよ。俺が刑務所暮らし馴れてんのは知ってんだろ? こんな短い拘留でどうにかなるかよ」
    「ジャン、ジャンカルロ、それは違う。お前はもう一介の構成員じゃないんだ。CR:5のボス、カポ・デルモンテ――お前をどうこうしてやろうって企んでいる馬鹿共は、飴玉に群がる蟻のように大量にいるんだよ。十分な警備を敷けるシマの中とは違う。閉ざされた狭い檻の中にも必ず、お前の命を狙っている連中が紛れているはずなんだって事を忘れないでくれ」
    「……バーカ、そっちこそ忘れんな。――俺を誰だと思ってる? CR:5二代目カポ、ラッキードッグ・ジャンカルロだぜ? 俺をどうこうしてやろうって企んでる馬鹿共を、寄せ付けもしねえ頼れる部下がいんだろうが。なあ、そうだろ、筆頭幹部様?」
    「――ジャン」
    「蟻んこ除けだけじゃねえしな。BOIの連中、州警察が俺の身柄拘束したって聞いて、速攻で飛んできて引渡しの要請してたみたいじゃねえか。出所前に、ちょっとお知り合いの捜査官が来てさ、BOIと州の連中でナワバリ争いしてるうちに、いろんなトコのお偉いさんから圧力が掛かっちまったって、悔しそうにしてたぜ。――仕掛け、アンタだろベルナルド。ったく、頼りになりすぎて惚れそうだぜダーリン」
    「どうぞどうぞ、いくらでも惚れてくれて構わないさマイスィート。お前のためにやれることがあるなら、やらない理由は無いよ。お前のために――いや、俺たちがお前を取り戻すため、かもしれないけど……」

     ベルナルドが、眼を細めて見守っていた。
     愛が深いわ、さっすが愛しのマイダーリン。心配性で、そんでもって自分のおシゴトを時々ちょっと過小評価しがちなお馬鹿さんだ。俺はたった今ジュリオのほっぺたつっつきたいのを我慢した分もちょっとばかり上乗せして、ベチンとその両頬を手のひらで挟み込んでやった。
     なあ、ベルナルド――想像してみろ。
     お前が言うみたいに置いてかれた子供たちが――たとえ図体のどデカいガキどもだとしても――マンマを恋しがって泣いてる時に、そのマンマは楽しくのんびりバカンスを楽しんでると思うか?
     こう見えて俺だっていろいろと考えてんだ。今が複雑な情勢だってのもわかってる。ヘマしちまったと焦る中で、それでも大丈夫だって、檻の中から苦労かけて悪ぃなって思うだけでいられたのは、さ。
     なぁ、誰のおかげだ?





     四人それぞれ、こいつららしい姿を見て、話して、ようやく、ああ帰ってきたんだ――なんて実感が湧く。
     チン、――と軽い音に、ほんの一瞬重力に逆らうような奇妙な浮遊感。上昇していたエレベーターが目的の階に到着したことをランプが告げて、扉が開く。
     ルキーノが、イヴァンが、ジュリオが、ベルナルドが、――自然と両端に身を寄せて、俺が出るためのスペースを空けた。
     まあそうだよな。映画なんかじゃこういうシーンは、ボスの俺が部下を引き連れてどどーんと恰好良くキメて歩くもんだ。皆さんよくわかってらっしゃる。イヴァンまで一様に道を空けたのはちょっと意外だけど――なんて、嘘だ。普段ぎゃあぎゃあ喚いていようがこいつだって立派な、立派な――その、なんだ……ファミーリアで、仲間……だし。
     くそ、真面目に恥ずかしいこと考えさせやがって!
     完全に八つ当たりだがむず痒いのが止まんねえ。じろりイヴァンを睨みつけると、こいつ人にガン付けられる気配とかにはすげえ敏感なんだよな。即座に気付いて応戦してくる。

    「ア? なに見てんだよ!」
    「う、……なんでもねーよバーカバーカ」
    「んだと、――喧嘩売ってんのかテメェは!?」
    「こら、ジャン、イヴァン。またじゃれ合えて嬉しいのはわかるが、もう少しぐらい我慢してくれ」
    「まったくだ、このスクニッツォどもが」
    「ジャンさんは喧嘩なんて売っていない。お前が馬鹿なのはただの事実だろう」
    「ジュリオも! 煽るんじゃない。まったく……顧問の部屋に着いちまうだろう」
    「へいへーい。ごめんなさいねダーリン?」

     すれ違った構成員の一人が、俺たちの会話を耳にしてこっそりと噴き出す。
     そういや俺、颯爽とこいつら引き連れて歩くはずじゃなかったっけ? 気付けば俺達は団子状になって、ぎゃあぎゃあと喚きながらはしゃいでいた。
     恰好がつかねえな、でもまあいいか。

     銀幕の中のド迫力のカポネたちも、ストーリーを追っていきゃあ抗争だの裏切りだの恐慌がどうのと、やってることは俺たちとあんまり変わり無い。その割にはいつでも仏頂面で鉛の奥歯でも噛んでるような顔をして、大体が人生に退屈していやがったりするんだ。
     俺にはビッグスターの演じるカポネの貫禄はないかもしれねえが、連中が持ってねえ最高のファミーリアを持ってる。見てみろよほら――馬鹿みたいに楽しい、最高の我が家を。
     振り返って、ちょっとばかり目線を上げてぐるりと見回す。そこには四つのツラが並んでいた。

     ――イイ顔、してやがる。

     帰ってきた、帰ってきたんだ。
     こいつらに囲まれて、その実感がものすごい勢いで全身を駆け巡った。逮捕されんのもムショの生活も慣れていたけど、外にこんだけ気がかりなこととか、それに――家族、とかを。……残してぶち込まれたのは初めてだった。
     平気なつもりじゃあったんだが、自覚は無しに結構キていたのかもしれない。

     さっきみたいな豪勢な歓迎の人の輪よりも、こんなくだらない言い合いが良いんだなんて、俺も大概変わってるんじゃないのかね。

    「どうした、変な顔をしてるぞ?」
    「もしかして、お加減……でも……?」
    「オヤジに怒られんのが怖くて仮病でも使おうとしてんじゃねえだろうな!」
    「――ジャン? どうかしたのか?」

     小さな表情の変化も見落とさずに、揃って覗き込んでくる連中。
     顔に浮かんだ苦笑が、深くなる。

     オヤジの部屋まであと少し。ドアの前を固めていた警護の連中が、俺たちが来たことに気付いて背筋を伸ばした。
     ドアの前までせいぜいあと十数歩。
     だが、俺はその途上で立ち止まる。くるりと振り返った俺に何事かと驚いたベルナルドたちが足を止めた。何事かと尋ねられる前に俺は、軽く握った拳をそいつらの前にずいと突き出す。
     ――まあ、なんつーかね。乾杯のグラスを重ねられんのは、ルキーノの準備してくれた宴の時までオアズケだろ?酒もねえし、グラスもねえから、変わりに合わせられるもんて言ったら、この手ぐらいしかないじゃねえか。
     だから、ほら――さ。

     一瞬、きょとんとした四人だが、――すぐに、拳の意味を悟ってくれたみたいだ。

    「――なんかくすぐってえ気もするが、さっきも俺からは言ってなかったし? 改めまして、ただいま――だ、マイファミリー」
    「Ben tornado――……おかえりなさい、ラッキードッグ!」

     心底嬉しそうに響き渡ったジュリオの声を合図にして、五つの拳が、力強くぶつかり合った。




     eccomi qui! 
     愛すべき我が家に、帰ってきたぜ!










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