子守唄は、歌われずとも子守唄は、歌われずとも
ベルナルド?
ベルナルド――……ああ、寝ちまったのか。
そうだよな、アンタ、疲れてるもんな。
俺も、疲れた。財務局の連中、脱税の尻尾つかめないからって、俺たちを過労死させる方向に計画を変更したんじゃねえのかって思うぜ、まったく。
にしても、アンタの仕事っぷりはちょっと異常だぞ?
頼りになりすぎるのも考えもんだ。
アタシと仕事とどっちが大事なの、なーんて、妬いちまうトコロだったぜ、ダーリン?
……なんて、な。はは、嘘だよ。そんな、夢の中でまでうろたえたような顔すんなよ、馬鹿。
なあ、ベルナルド――寝たままでいいからさ、ちょっと聞けよ。いや、聞いてくれ。
お前は男で、俺も男だよな。
同じもんくっついててさ。
――んなこた最初から解ってるけど。俺さ、たまに考えることがあるんだ。
お前……さ、前に、ガキが欲しいって言ってただろ?
今でも、欲しいのか?
子供が……生きた証、血の繋がり……そういう、確かなモンがさ。
俺は多分……、お前がいればそれで満足なんだけど。
だからこそ、お前が何を欲しがってるかは、結構気になる。
――俺が女だったらさ、お前にそーゆもん、やれてたのかな。
自分の面影を持った子供を抱き上げた時の重みとか、温もりとか……。
俺達はマフィアだけど、そんなの関係ナシにただの一組の家族として、無邪気に笑える時間とかをくれてやれたのかな。そんな事を、たまに考える。
そんで、夢に見たこともある。実は。
ああ、今お前が見てるほうの夢な。寝てるときに見るやつ。
俺は金髪ぼいんなねーちゃんで、お前のオンナで、妻で、母親で。お前がいて、俺がいて、俺たちのガキがいて。幸せそうで、非の打ち所がない光景だった。すげえよな。完璧だった。
そりゃ欲しいさ。
憧れる気持ちもわかる。
あんな綺麗なもん、憧れずにいられるやつはいねえよ。
でも。
――でも、さ。
悪い、ベルナルド。
俺は、自分が……男でよかったって思ってる。
もし俺が女だったら、お前と恋なんてしたくない。
帰ってこないお前からの電話を待って眠れない夜を過ごすなんて、真っ平ごめんだ。
電話番程度の役にしか立たなくても、一緒に鳴り止まないベルの音を聞いていたい。ふかふかのベッドで帰りを待ってるだけの夜は、嫌だ。
硬い仮眠用のソファでいい。傍にいたい。
傍に。
いつだって、傍に。お前の、隣に立ちたい。
だから。
悪いな、わがままで。
……ごめんな、お前の欲しいもんやれなくて。
それを喜んじまったりして。
ごめん。でも――
後悔なんてさせねえから。
俺が女だったら良かったとか、考えちまう隙間も無い程、幸せにしてやる。
子供も孫も出来なくても、死ぬ間際になって思い返しても幸せだった事しか思い出せねえ様な満ち足り過ぎた人生にしてやる。
だから、さ……ベルナルド……
――って、おわ、起こしちまったか?
俺がぶつぶつ言ってたの、聞こえちまった?
……いや、なんでもねえよ。聞こえなかったならいいんだ。
ちょっと目が覚めちまったんで羊数えてただけ。
疲れてんだろ? 寝ろって、ベルナルド。俺ももっかい寝るわ。
おやすみ、ダーリン。……愛してるぜ。
2010/06/19